ミーナと銀の靴と不思議の国の魔法使い 第4話「知恵の塔と迷子の天才」
一行は、霧深い森を抜けた先にそびえる「知恵の塔」へとたどりついた。
「うわああ……高いのです……!」
ミーナは首が痛くなるほど見上げる。塔は空に突き刺さるようにそびえ、ぐるぐると螺旋状に登る階段が外壁に張り付いている。
「頭がよくなる人がいるって話だったのですけど……」
「でも塔に鍵かかってるにゃ」「誰かいる気配はあるにゃー」
猫たちは塔のまわりを走り回り、登れそうな場所を探すが、階段の入口は岩で塞がれていた。
「ここ、入れないのですーっ!!」
ミーナは扉を押したり叩いたり、猫と一緒にぐるぐる回るが、やはり開かない。
そんなとき──
「おーい……だれかー……ここから出してくれぇぇぇ……!」
上の方から、頼りない声が響いた。
「にゃ?」
「誰か閉じ込められてるのですっ!?」
ミーナたちは塔を見上げる。すると──塔の一番上のバルコニーに、ぼさぼさ頭の男の子が見えた。丸眼鏡をかけ、ぼーっとした目でこちらを見ている。
「きみたち、そこから登れたりしない? おなかすいたよぉ……」
◆その名も──天才(?)魔導師・アレン
塔の上からロープが降ろされ、ミーナと猫たちは器用に登っていった(ティンと案山子は足場を使って塔の外からよじ登ってきた)。
「うわあ……なんてぐちゃぐちゃな部屋……」
塔の最上階は本と巻物と紙とインク壺で埋め尽くされていた。中央にある大きな机の上では、オムレツがカピカピになっている。
「君が“知恵の持ち主”なのです?」
「え、あ、うん……多分そう……アレンって言います」
アレンと名乗るその少年は、どう見ても天才には見えなかった。眠そうな目と、しわくちゃなローブ。なのに、時折つぶやく言葉は──
「重力干渉式跳躍魔法……いや、簡易浮遊式で重力制御……はっ、猫語翻訳術との組み合わせなら……」
「……この人、やっぱりちょっとすごいのです」
猫たちも驚いている。何匹かは、ノートの上に寝転がって動かない。
◆迷子だったアレン
「それで、どうして塔に閉じ込められてるのです?」
「うん……道に迷ってたら、この塔に入れられて、知恵があるからって“見張り役”にされたんだけど……」
「見張るって何をですか?」
「塔の地下に、ギ○ン総帥の秘密の“黒の本”があって……それを誰にも渡すなって」
「ギレ○って……あの、押しつぶしちゃったおじさんのことです?」
「押しつぶした…た、多分その人……」
猫たちが背中の毛を逆立てた。
「つまり、ギ○ンの仲間だったのですか?」
「ち、ちがうよっ!? ボクはただ、おにぎりにつられて……ついていったら閉じ込められて……」
「……にゃあ(バカだ)」
「……にゃー(親近感わくにゃ)」
◆アレン、仲間になる
「今はもう、あのギレ○もやられちゃったなら、地下の封印も解除できないし、ボクはただ……外に出たいだけなんだ」
そう言って、アレンはぽろっと涙をこぼす。
「……なら、いっしょに来るのです!」
ミーナが手を差し出す。
「わたしたち、“えらい魔法使いさん”に会いにいってるのですっ! きっと、あなたにも何かいいことあるのです!」
猫たちもぴょんぴょん跳ねて賛成の意を示す。
「……行く……ボク、外に行く!」
こうして、ちょっと不思議で天才肌の少年・アレンが仲間に加わった。
「アレンは知恵担当、案山子は戦略、ティンは力持ち、猫たちはトラブル担当──」
「じゃあ、キミは?」
「ミーナは、かわいさ担当なのです!」
「……えへへ……」
塔を出ると、アレンの知恵で川に橋をかけたり、猫たちの鳴き声を翻訳して“秘密の道”を見つけたりと、冒険はどんどんスムーズに。
だが──
「ギ○ンの手下がまた来る、気をつけて」
「……どういう意味ですか?」
「塔の封印がゆるんだらしい。ギ○ンの残した“黒の意志”が、誰かに乗り移ったかも……」
不穏な予感を胸に、ミーナたちは最後の目的地、“えらい魔法使い”のいる城を目指して歩き出すのだった。
銀の靴が、またきらりと光った。
(つづく)