ミーナと銀の靴と不思議の国の魔法使い 第3話「大きな谷と、川と、涙と、ミーナの笑顔!」
ミーナと仲間たち──赤い案山子、ブリキの騎士ティン、そして猫たち数匹(数えられない)は、不思議の国のきらめく石畳の道をてくてくと進んでいた。
「次は、“知恵をくれる人”に会うのです!」
ミーナは、銀の靴の音を軽やかに鳴らしながら前へ進む。猫たちはその周りを跳ねるように駆けまわり、ときどき意味不明なダンスを始めたりしていた。
だが──道が途切れた。
「……あれれれ???」
その先にあったのは、ぽっかりと口を開けた、大きな谷だった。
「うわぁ〜、底が見えないのです……」
ミーナが地面にぺたんと座って谷底を覗くと、遠くでカラスが「カァァ……」と鳴いていた。谷の向こうには、また石畳が続いているのが見える。
「飛び越えられないのです〜〜!」
案山子は首をひねった。ブリキの騎士ティンは重すぎてジャンプなんて夢のまた夢。
猫たちは顔を見合わせて──唐突に動き始めた。
「にゃっ!」
「にゃにゃ!」
「にゃーっ!」
なんと猫たちが木とツタを集めはじめたのだ!
「え、これって……吊り橋なのです!?」
猫たちはどこからともなくロープを見つけてきて、木の幹に結びつけ、簡易の吊り橋を作り始める。
赤い案山子がボロ布を補強に使い、ティンが重い体でしっかりと端を押さえ──
30分後、なんと、猫製吊り橋が完成していた。
「にゃーっ(天才!)」
「わたし、猫たちを見直したのです!」
ミーナは拍手喝采。ゆっくりと、揺れる橋を渡る一行。
猫たちは器用に綱渡り、案山子は意外と身軽にひょいひょい、ティンはギシギシ音を立てながら慎重に──
「にゃーっ! 渡りきったのですっ!!」
ミーナが谷の向こうに立ち、振り返って叫んだ。
その後しばらく進むと、今度は大きな川が流れていた。青くて透明だが、流れが速く、浅そうに見えてもとても泳げそうにない。
「う〜〜、渡れないのです〜……銀の靴も濡れちゃうのです……」
ティンが川に足を突っ込もうとするが、重さでズブズブと沈んでいく。猫たちは「あっぶね!」とすぐに引き戻す。
「これは……橋を作るのは無理かもなのです……」
と、案山子が「ふふん」と胸を張った(胸は無いが)。
「これは知恵の見せどころだな。見ろ、この木と……この流れ……使える」
案山子は、倒れかけた丸太と、岸辺に生えていた太いツタを活用して、簡易いかだを作り始めた。
猫たちがロープで括り、ティンが足でぐいっと押し出すと、いかだがぷかりと浮かぶ。
「いくのですーっ!!」
ミーナが旗を振ると、案山子が棒で水をかき、猫たちは風を送る(うちわで)。
ゴトゴト揺れるが、いかだは見事、向こう岸に到着。
「にゃーっ!(天才ふたたび!)」
「案山子さん、やるのですーっ!」
そして、川を越えて森に入ったとき──
「……あっ」
ティンが突然、ぴたりと立ち止まった。
足元には、小さな昆虫。葉っぱの上にちょこんと乗っていた。
その次の瞬間──「ベキ」
「あ……」
「踏んだのですぅぅぅ……!!」
ティンは、ゆっくりと顔を伏せる。
「私は……また……命を……」
そして、錆びの音がぎぃぃぃ、と
「泣いてはダメなのです!!」
ミーナが慌てて油の小瓶を取り出した。
「また固まっちゃうのですーっ! ほら、ほらっ!」
猫たちも慌ててタオルとハンカチを差し出す。
ティンはなんとか、完全に固まる前に鼻をかみ、泣き止んだ。
「私は……弱いな……」
「いいのですっ、弱くても、心があるのはステキなことなのですっ!」
ミーナは、にっこりと笑った。
「泣くなら、嬉し涙だけにするのですーっ!!」
その笑顔に、ティンは口元を緩め──
「……ありがとう、ミーナ嬢」
そして、一行は森を抜けて次の目的地、「知恵の塔」へと進み始めた。
ミーナの銀の靴はきらりと輝き、猫たちは元気にぴょんぴょん跳ね、案山子は赤く誇らしく、ティンは胸を張って歩く。
どんな困難も──
みんなと一緒なら、乗り越えられるのです!
ミーナの笑顔が、その旅路を照らしていた。
(つづく)
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