「収穫祭の裏で」
陽がだいぶ傾いて、村の中央広場は人とにゃふぇとでにぎわっていた。
けれど、その喧噪を少し離れた畑の端っこでは、ひとり静かに――いや、猫一匹と一緒に――スコップを構える男がいた。
「……やっぱ、気のせいじゃないよな?」
ルークは土をすくいながら、何度目かの確信を得ていた。
今年の収穫、全体的に“良すぎる”。
いや、天候はたしかに良かった。雨も適度に降ったし、気温も安定していた。けれどそれにしても──
「ここのナス、やたらツヤがいいし……こっちのズッキーニ、太っ!」
にゃふぇが、にゃふっと鼻先で野菜をつつく。満足そうだ。
思えば、春先の土づくりの時点からちょっとおかしかった。
普通の雑草がなぜか“ちょっと食える”香草になってたり、肥料に混ぜた落ち葉がほぼ完全に分解されてたり。
やたらとミミズが元気だったり。
「……俺、なんかやったっけ?」
思い返すと、ミーナが来てから、農作業の“手ごたえ”が変わっていた。土がやたらやさしいというか、スコップが通る感触が軽い。
植物が、こっちの言うことを“わかってる”ような感覚がある。
「まさか、あのとき特使が言ってた“ちょっとだけボーナス”って……」
──農家適性スキル:「耕す者」
──説明:耕した土地に微細な加護が宿る。栄養分分解促進、微生物活性、空気と水の流れ最適化。
(なにそれ……やば……)
スキル表示はない。でも、体感として感じる、確かにそういう“結果”が出てきている。
つまり──
「俺……やっぱ、チート農家……なのか?」
にゃふぇが、ぴゃっ、と鳴いて畑の端からミニトマトをくわえて戻ってきた。
それはミーナが“とまとやさん”で売ってたものとまったく同じ──でも、ちょっと色づきが濃い。熟れすぎていないのに、味が乗ってる。
食べてみたら──
「……甘ッ!?!?」
ルークの眉がぴくぴく震える。農家としての知識が警鐘を鳴らす。
(これ、プロ農園の最上級品レベル……! やば……なんだこれ……)
けれど、祭の音が背中に届く。妹の笑い声。子どもたちのはしゃぐ声。
「まあ……いっか」
にやっと、ちょっとだけ頬が緩む。
この村で、ゆっくり、じんわり、作物と暮らしが豊かになるなら。
それが“チート”だって、別に誰にひけらかすことでもない。
「なぁ、にゃふぇ。秘密のままでいいよな」
にゃふぇは、答えるかわりにミニトマトをもう一個くわえた。
ルークはその背を見送りながら、そっと空を見上げた。
──この村に、今年もいい実りが訪れた。