王宮の裏庭と猫たちの密談
──誰も知らない場所で、猫たちはそっと、世界を変える──
◆◆◆
王都エルデンの中心、華やかなる王宮。
その奥の奥──誰も気に留めない裏庭には、小さな噴水と古びたベンチ、そして手入れの行き届いた薬草花壇がある。
ここは、王妃エリザベートのお気に入りの場所。
ただ、彼女だけではなかった。
いつしか“猫たち”の集会所にもなっていたのである。
「にゃ……今日も異常なし」
「にゃっ、例の“やさい作戦”も進行中にゃ」
耳をぴくぴくと動かしながら、数匹の猫たちがベンチの陰で密談を始める。
「……それで、王都のご婦人方の体調、どうにゃ?」
「にゃー。野菜、食べ始めてから便通改善にゃ!」
「にゃにゃっ(これは革命の予感)」
その時だった──ふわりと花の香りが舞い、エリザベート王妃が現れた。
「まぁ……また来ていたのね、あなたたち」
王妃は何も言わず、猫たちのそばにしゃがみ込むと、優雅に紅茶を差し出した。
猫たちはすでに、この“裏庭の時間”に慣れている。
「……王宮の外では、ルークくんとミーナちゃんが、野菜で人々を元気にしているそうね」
「にゃー(そうにゃ)」
「うふふ、まるで“小さな革命家”たちね」
王妃は微笑み、紅茶のカップをそっと置く。
「実はね……王宮の厨房でも、野菜メニューを増やそうと思っているの。『王妃の勝手なメニュー』、第二弾」
猫たち「(ザワァ)」
◆◆◆
その日の夜──。
王宮の厨房では、裏庭に出入りしていた猫の一匹“しろ”が、料理長の足元にまとわりついていた。
「お? また来たのか、しろ。……なんだ? 今日はにんじんと大根を咥えてきたのか?」
「にゃっ(それでスープ作るにゃ)」
しろは鍋を指差すように前足でコンロをトントン。
料理長は少し首をかしげたが、猫のしぐさに押され、試しにスープを作ってみた。
──そして翌朝、王妃が試食した。
「……まぁ……これは……おいしいわ」
その夜、裏庭のベンチで再び猫たちが密談する。
「王妃の舌、つかんだにゃ」
「にゃっ、これで王宮の野菜推進計画は安泰にゃ」
「にゃにゃーっ(ルークたちに報告せねば)」
◆◆◆
数日後。
ミーナが農園で大根を抜いていたその時、黒猫“くろ”が急報を携えてやってきた。
「にゃっ!(王宮でスープ成功にゃ)」
「ほんとですの!? おにぃ、おにぃぃーーっ!! 王妃さまが、野菜をほめてくれたのっ!」
ルークは目を丸くしてから、ふっと微笑んだ。
「……そりゃすげぇ。猫たち、やるなぁ」
◆◆◆
王宮の裏庭。
猫たちが花壇の間を駆け回る。
エリザベート王妃はベンチに腰かけ、紅茶を楽しみながらその様子を見つめていた。
「ふふ……ほんとうに、あなたたちのおかげね。静かだけど、確かに世界を変えてる」
猫たちは尻尾をぴんと立て、誇らしげに走る。
世界の誰も知らないところで、小さな足音が、静かに未来を拓いていく──。