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「 ミーナ、はしゃぐ。収穫祭と手作り市の日」

秋が近づくにつれ、畑の作物もいよいよ仕上がりを見せはじめた。


村はずれの広場に、木の看板が立てられる。


『今年もやります 収穫祭 & 手作り市!』


「お兄~っ!! おまつりだってっ、おまつり~っ!!」


ミーナが家の戸を勢いよく開けて、転びそうになりながら飛び込んできた。


「にゃふぇ、にゃふぇぇぇっ!(←たぶん“にゃふぇ”も連れてくの意)」


「落ち着け落ち着け。まず玄関で靴脱いで」


「わかった~っ!! よしっ!靴ぬいだっ!! ……お兄、まだいくよ!」


そう言って、今度は“バオア・クー式猫ベビーカー”を引っ張ってきた。


(バオア・クー式ってなんだよ…)


中には、例によって“元かかしの赤い布”をまとった猫たち──にゃふぇ軍団が静かに詰まっていた。


(……なんだこれ)


 


 


手作り市では、村の子たちが編んだ籠や木の人形、家庭の余った野菜やジャムが並ぶ。


収穫祭の目玉は、みんなで作る大鍋スープと、丸焼きトウモロコシ。


「ミーナ、売るのっ!!」


「えっ、何を?」


「トマトっ!」


妹が持ってきたのは、うちの畑で穫れたミニトマト。実は少し割れていたり、形がいびつだったりする“訳あり”のやつだ。


でも、ミーナが丁寧に洗って、かごにきれいに並べたそれは、ちょっとした宝石みたいに見えた。


「いらっしゃいませ~! ミーナのとまとやさんで~す!」


小さな声と、全力の手振り。


お年寄りが笑いながら立ち止まり、近所の子が1個だけ買っていく。


「兄、売れた!! 1とまと!!」


ミーナの笑顔、1個100点だった。


 


 


日が傾きはじめ、焚き火に火が入る頃──


広場の真ん中では、子どもたちが踊りはじめた。手拍子に合わせて、ぐるぐるまわる。


「お兄、ミーナとおどるっ!!」


「いや、俺は──」


「おどるっ!!!!」


「はい……」


手を引かれ、踊らされた。ぎこちないステップ。でもそれがまた楽しい。


猫たちまで焚き火の周りを歩き出し、にゃふぇの“赤い布”が夕焼けに揺れた。


「ねぇ、お兄」


「ん?」


「ミーナね、ずっと、ここのおまつりが、つづくといいなぁって……」


ぽそりと呟いたその声は、夕風にまぎれてしまいそうなほど、ちいさくて優しかった。


 


俺もそう思う。


この日々が、少しずつ続いていけば、それでいい──そう思った。

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