「 ミーナ、はしゃぐ。収穫祭と手作り市の日」
秋が近づくにつれ、畑の作物もいよいよ仕上がりを見せはじめた。
村はずれの広場に、木の看板が立てられる。
『今年もやります 収穫祭 & 手作り市!』
「お兄~っ!! おまつりだってっ、おまつり~っ!!」
ミーナが家の戸を勢いよく開けて、転びそうになりながら飛び込んできた。
「にゃふぇ、にゃふぇぇぇっ!(←たぶん“にゃふぇ”も連れてくの意)」
「落ち着け落ち着け。まず玄関で靴脱いで」
「わかった~っ!! よしっ!靴ぬいだっ!! ……お兄、まだいくよ!」
そう言って、今度は“バオア・クー式猫ベビーカー”を引っ張ってきた。
(バオア・クー式ってなんだよ…)
中には、例によって“元かかしの赤い布”をまとった猫たち──にゃふぇ軍団が静かに詰まっていた。
(……なんだこれ)
◇
手作り市では、村の子たちが編んだ籠や木の人形、家庭の余った野菜やジャムが並ぶ。
収穫祭の目玉は、みんなで作る大鍋スープと、丸焼きトウモロコシ。
「ミーナ、売るのっ!!」
「えっ、何を?」
「トマトっ!」
妹が持ってきたのは、うちの畑で穫れたミニトマト。実は少し割れていたり、形がいびつだったりする“訳あり”のやつだ。
でも、ミーナが丁寧に洗って、かごにきれいに並べたそれは、ちょっとした宝石みたいに見えた。
「いらっしゃいませ~! ミーナのとまとやさんで~す!」
小さな声と、全力の手振り。
お年寄りが笑いながら立ち止まり、近所の子が1個だけ買っていく。
「兄、売れた!! 1とまと!!」
ミーナの笑顔、1個100点だった。
◇
日が傾きはじめ、焚き火に火が入る頃──
広場の真ん中では、子どもたちが踊りはじめた。手拍子に合わせて、ぐるぐるまわる。
「お兄、ミーナとおどるっ!!」
「いや、俺は──」
「おどるっ!!!!」
「はい……」
手を引かれ、踊らされた。ぎこちないステップ。でもそれがまた楽しい。
猫たちまで焚き火の周りを歩き出し、にゃふぇの“赤い布”が夕焼けに揺れた。
「ねぇ、お兄」
「ん?」
「ミーナね、ずっと、ここのおまつりが、つづくといいなぁって……」
ぽそりと呟いたその声は、夕風にまぎれてしまいそうなほど、ちいさくて優しかった。
俺もそう思う。
この日々が、少しずつ続いていけば、それでいい──そう思った。