ミーナ劇場3:ねことふしぎなケーキ屋さん 〜あこがれの“まほうのケーキ”、つくるのですっ!〜
◆◆◆
「このケーキを食べたものは、しあわせになるのです……」
ぱたん、と絵本を閉じて、ミーナは真剣な顔をしてつぶやいた。
グランフィード家の書庫で見つけた、ちょっと古びたおとぎ話の一冊。
そこに描かれていたのは、虹色にきらめく“まほうのケーキ”だった。
「……にぃにに、たべさせてあげたいのですっ!」
突然の閃きに、ミーナの目がキラーンと光る。
その横では、猫たちが絵本のページに描かれたケーキの絵をじぃーっと見つめていた。
「にゃ(これ……くえるのか?)」
「にゃー(きらきらしてる)」
「にゃっ!(たべたい!!)」
「よし、今日からっ、ミーナケーキ屋さん、かいぎょうなのですっ!!」
◆◆◆計画スタート! 材料……それ、あってる?
「ケーキにはっ、あまくて、ふんわりして、ふしぎなちからがいるのです!」
そう断言したミーナは、畑にダッシュ。
トマトを片手にかかげ、
「これっ! あかくてすっぱい、ふしぎなちからがあるのですっ!」
さらに、バナナ、カボチャ、ミントの葉っぱ、なぜかごぼう──。
猫たちもぞろぞろと荷物運びを手伝う(というか、遊んでいる)。
「にゃっ!(バナナむけない!)」
「にゃーん(なんかこれ、土ついてる)」
調理小屋には、なんとも言えない素材たちが積み上げられていった。
◆◆◆ミーナケーキ工房、爆誕!
「えーと、お砂糖……あったのですっ! あと、小麦粉も!」
一番小さなエプロン姿で、ミーナはボウルと泡だて器を手に奮闘中。
猫たちは、トッピング係。レーズンを食べて怒られる者、トマトを飾りに使う者。
「にゃにゃー!(おまえ、食いすぎ!)」
「にゃっ(レーズンに顔描いた!)」
ミーナはうきうきしながら、
「“しあわせになぁれ、しあわせになぁれ”……って、呪文をかけるのですっ!」
と、生地におまじないをかけた。
しかし──
どん!!
「にゃーーーっ!!」
オーブンからとび出してきたのは、ふんわりでも甘くもない、
なぜか香ばしいトマトとバナナとカボチャの混合物。
しかもごぼうの香りが全体を支配していた。
「……ちょっと、においがちがうのです?」
「にゃー……(これ、たべもの?)」
「……でもっ!!」
ミーナはお皿にケーキを盛り、猫たちと一緒に庭に立った。
「いらっしゃいませー! ミーナケーキ屋さん、はっじまるのですー!!」
◆◆◆お客さん、現る!?
庭の隅に小さな看板(木の板にチョークで書いたやつ)。
テーブルとイス(丸太と箱)、そしてケーキが並んだ“お店”。
だが──誰も来ない。
「……だれも、こないのです……」
肩を落とすミーナと、そっと慰める猫たち。
「にゃ……(がんばったのにな)」
「にゃー(でもおなかいっぱい)」
そのとき、かさり、と風に揺れる垣根の向こうから、誰かの足音が。
──そう、それはルークだった。
「ミーナ? なんだこのにおい……トマトと、バナナ……?」
「お、おにぃにぃーーっ!!」
ミーナはぱぁぁっと顔を輝かせて、ケーキを差し出す。
「これっ、まほうのケーキなのですっ! にぃにに、しあわせになってもらうのですっ!!」
ルークは目を丸くした。
「ま、まほう……? えーっと……な、なにが材料?」
「ひみつですっ!」
(とても言えない顔だった)
ルークは笑いながら、ナイフで一口サイズに切り──
「……うん……ああ……食べられなくはないな」
「ほんとう!?」
「ほんとうですの!?!?」
「うん、たぶん……なんか……香ばしい……気がする……」
ミーナは歓喜して、両手をぱたぱた振る。
「しあわせ、になったのですかっ!?」
「うん、もうなってるよ」
ルークが優しく頭をなでたその瞬間、ミーナは照れすぎて──
「ふにゃっ……!」
──その場で、すってんころりん。
「……あいたたた……でも、だいせいこう……なのですっ……」
◆◆◆伝説のケーキ、ここに焼き上がる?
その日の夕方、ルークの部屋にはミーナと猫たちが持ち込んだ“残りケーキ”がずらり。
猫たちは口々に「にゃっ(うちのが一番)」「にゃにゃー(いや俺のが)」と騒いでいた。
ミーナはルークのひざに寄りかかりながら、小さくつぶやいた。
「つぎは……しゅわしゅわのケーキを、つくるのです……」
「えっ、それってもはや……飲み物じゃ……?」
──新たなバカかわいい伝説の幕が、また一つ、開かれようとしていた。