「ミーナの“せんたく日和”は大惨事!?」
朝のはじまり — 洗濯への憧れ
朝の日差しが差し込むグランフィード家の縁側。
ミーナは麦わら帽子をかぶり、白いエプロンを胸にちょこんと座っていた。
「お母さま、おはようございますっ!」
「あら、ミーナ。今日は洗濯するのかしら?」
レイナ(母)は、風にそよぐ洗濯ロープを指差した。
「はいっ! お母さまのお手伝い、するのですー!」
ミーナの目はキラキラと輝いている。猫たちも興味津々で並ぶ。
「ミーナ、心配だけど……頼んでもいいかしら」
レイナは洗濯桶に洗濯石鹸を用意しながら、やんわり頷いた。
「もちろんですのっ!」
ミーナはうれしそうに桶の縁に手をかけた。
洗濯戦線、異変あり!
「えーっと……これが洗剤なのですの?」
ミーナは洗濯石鹸が入った袋を開け始める。
ところが! 中をよく見ると、粉が白く、ふわふわ――どうやら洗剤ではなく、小麦粉だったようだ。
「……あれ?」と眉を寄せるミーナ。
猫たちは鼻をひくひくと動かしている。
「小麦粉じゃないのですか……?」
そのとき、桶にそっと手を入れ、溶かすためにお湯(水)を注ぐミーナ。
「ぐるぐる……泡立たない……でも、もそもそする……?」
桶の中は糊みたいに粘々と白濁した液体になっていた。
ミーナは顔を真っ赤に染めて気づかないふりをし始める。
「えーい! いっそ…」と大胆にタオルを入れると、
──たちまちバターのように粘着し、タオルがどろどろに絡みついた。
「わわっ! ぺたぺたですのーっ!」
カオス、広がる洗濯場
猫しろは桶に飛び込み、ぐるぐると洗濯回しを始め、泡のような激しい音を響かせる。
ほかの猫たちがつられて桶に足を踏み入れる。すると……
「にゃぁぁぁ!(泡じゃないにゃ!)」
「にゃにゃーっ!(粉が!)」
粉まみれで暴れまくる猫たち。
ミーナは泣きそうになりながら、漂白剤の代わりに酢をたらし始める。
「これで泡が立つのですのっ!」
だが、今度はドロドロがさらに粘度を増し、泡すら出ない。「ええっ!?」
洗濯完了? パン生地の誤爆!
正午前。ミーナは「もういいですの…」と心を折られた表情だった。
だが突然、桶の中でもぞもぞと大きな動き。
猫たちと小麦粉まみれの水がお湯で温められ、まるでパン生地のように膨らみはじめる。
「……あれ? にょきにょきするのです…?」
見る見るうちに、桶から生地のような塊が盛り上がってきて、最終的には桶からあふれ出した。
猫たちのもぞもぞとした動きも相まって、素朴なパンのような、まさに“せんたくパン”の出来上がり。
「わぁぁぁ!」とミーナも、猫たちも全員爆笑した。
パンの香りと、お腹の涙
やがて日が傾き始め、洗濯場は小麦粉と猫の足跡でぼろぼろ、ミーナはくたくただ。
しかし、不思議なことに、ふっと温かい小麦の香りが漂いだす。
「パンのにおい……」と静かに言うミーナ。
猫たちはぴたりと動きを止め、鼻をくんくんとしながら、価値ある発見に目を輝かせる。
そこへルークが帰宅した。
「ただいまー……って、何ここ!?」
ミーナと猫たちは、パン生地をみんなで分けながら、もっちりとごちそうになっていた。
「……これ洗濯!?のつもりだったのに…、パンになったのか?」
ルークは笑って頭を掻き、ミーナの方を見る。
「まあ……洗濯は失敗だったけど、これおいしいよ。すごい偶然だな」
ミーナは顔を真っ赤にしながらも、「えへへ」と照れ笑いをしていた。
エピローグ — 失敗が愛される理由
夕日が長く影を伸ばす中、家族と猫たちはもちもちのパンを頬張る。
ミーナは小さくつぶやく。
「お母さま、ごめんなさい。でも、おいしかったりもするのです」
レイナは優しく笑って頭を撫でた。
「まあ、ミーナらしいとも言えるかな。次はちゃんと洗濯してくれると助かるけど…」
ミーナはこくりと頷く。
「はいっ! 今度こそ、お洗濯も上手になりますの!!」
猫たちは満足気で、パンの香りに胸をなでおろしながら、
「にゃっ!」(パン生地のぬくもり最高だにゃ)
その後も、グランフィード家では、失敗するたびに笑いと美味しい偶然が生まれていくのでした…!