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「農家ライフと妹の誕生」

ミーナが生まれたのは、俺がこの世界に転生して三年目の春だった。


空気はあたたかくて、麦の芽がやっと土の上に顔を出す頃だった。


産声が聞こえた瞬間、父アベルが涙ぐみながら「女の子だ!」と叫び、母レイナが汗だくでそれに笑ってうなずいた。その瞬間を、俺は部屋の隅で固まったまま眺めていた。

(赤ん坊の時もこんなふうに、俺も抱かれていたのか……)


名前は「ミーナ」。母が考えたらしい。「柔らかい光の子」という意味があるそうだ。名前負けしないくらい、まっすぐで、天使みたいな笑顔をする子に育っていった。


 


「兄、ミーナも、かかし番、するの!」


夏のある日、ミーナはちいさな麦わら帽子をかぶって、腰に手を当てながら畑に立った。


かかし──これは、畑の守護神である。言わずもがな。


ただし、うちのかかしはすでに村でも有名な“やらかし”アイテムになっていた。以前、俺が「赤い方が三倍カラスを追い払える」と本気で信じて、赤い布を全身に巻いたのだ。


結果、村の子どもたちが「なんかヒーローっぽい」と言い出し、祭りで人気者になった。だが、肝心のカラスにはまるで効果がなかった。


「あの赤いの、まだ強いの?」


「そりゃあもう、見る者にプレッシャーを与えるレベルで……」


「でもカラスにやられたよ?」


「それはきっと……カラスがニュータイプだったんだ」


ミーナは首を傾げた。可愛い。けどわかってない。けど可愛い。


 


 


その日の夕方。


ミーナは村の子たちに鬼ごっこへ誘われて、また畑を抜け出してしまった。


帰ってきたときには、かかしは無惨にも倒れ、赤い布は風に舞っていた。


「ご、ごめんなさい……ミーナ、番、忘れた……」


しょんぼりと肩を落とすミーナに、俺はちょっと笑ってしまった。怒る理由なんてない。


「仕方ない。ならもう一度一緒に、作り直そうな」


 


兄妹でかかしを作ることになった。


木材を切って、古着を着せて、麦わら帽子を載せて、ミーナが「おめめはかわいくする!」と顔に絵を描いた。なぜか猫耳まで追加された。


「にゃんこに守ってもらえば、カラスも来ない!」


「……それ、いい発想かもしれん……」


 


できあがったのは、猫耳つきの赤いヒーロー風かかし。


どっちつかずで奇妙な見た目だったけど、ミーナが「にゃんこセイバー参上~」と叫んで笑ってるから、たぶん正解だったんだと思う。


 


 


それからというもの、俺の中にあった“妙な感覚”が、少しずつはっきりしてきた。


たとえば、種をまく時に「こっちが水はけがいい」と直感で分かる。


雑草の生え具合を見て「この畝、来年は豆科にした方が土が喜ぶ」と思えてしまう。


なんだこれ。農業ガチ勢の第六感か?


(あのときのチャラいスーツ男……もしかして“ボーナス”ってこの変なセンスのこと?)


便利だけど、ド派手ではない。


ただ、「家族が食べる野菜がうまい」って、それだけでありがたいことなんだと、今なら思える。


 


 


ある日、収穫したトマトを家族で食べていたとき。


「お兄のトマト、ミーナのより、すっぱくてあまくて……つやつやしてる!」


「それ、たぶん褒めてるんだよな?」


妹の顔には、いつもの無垢な笑顔。


こうして“俺のボーナス”は、少しずつこの農家ライフの中で、形になっていく。

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