ミーナのしゅわしゅわ飲み物大作戦・中編 ~猫たちのドリンク試作地獄!?~
「これは……にんじんとミルクをまぜたジュース、なのです!」
朝日差し込むグランフィード家の調理小屋で、ミーナは自信満々にグラスを掲げた。
隣には、首をかしげる猫たちが並んでいる。ミーナの片腕的存在・白猫のしろも、じーっと中身を見つめていた。
「色は……キレイなのです。でも……」
ミーナは一口ぺろり。
「……んん〜〜〜〜っ!? にんじん感つよすぎなのです!!」
机の下では、他の猫たちがこそこそと、こぼれたジュースを避けて後退する。
◇ ◇ ◇
「うう……ドリンクって、思っていたよりむずかしいのです……」
ミーナは床にぺたりと座り込み、頬をふくらませてふうっとため息をついた。
「にぃにぃみたいに、“すごい飲み物”をつくるのは、かんたんじゃないのです……」
そのとき、ひょいっと台の上に飛び乗った猫が一匹。黒ぶち模様のにゃもだった。
くるくる回って、トントンと前足で何かをアピールする。
「にゃっ、にゃにゃっ!」(あたしたちに任せろーい)
すると、ほかの猫たちもわらわらと集まってきて、調理小屋の棚を物色し始めた。
「えっ!? あ、ちょ、だめなのですっ!! そこ、お母さまのお菓子用の材料ですのよ〜〜っ!?」
――だが、ミーナの声は、もう猫たちの耳には届いていなかった。
◇ ◇ ◇
【ねこドリンク試作一号:“ジャムまぜまぜ水”】
材料:いちごジャム、りんごジャム、プラムジャム、そして水。
猫たちは鼻でふたを開け、器用に瓶から中身を落とし込む。
「にゃにゃーっ!」(甘いにおい〜!)
「にゃっ!」(まぜろまぜろー!)
その結果……
できあがったのは、色の濁った、粘っこい液体。
「……ええと。飲めるのですか、これ?」
ミーナがそっと一口。
「……うえぇっ!? 甘ったるすぎますの〜〜〜〜っ!!」
その場の猫たちは大混乱。
甘すぎて舌を出したミーナのまねをして、ぺっぺっ、と舌を鳴らすにゃもたち。
「……これは、失敗なのです」
【ねこドリンク試作二号:“ハーブ入り野菜スープ(冷)”】
材料:パセリ、バジル、セロリの葉。そこに、細かく刻んだダイコンとトマトを投入。
「にゃにゃっ」(香り重視よ)
「にゃあああ……」(おなかにやさしいのだ)
ガラガラと混ぜられたスープは、どこか薬草のような香り。
試飲担当、ミーナ。
「……すーっ……(鼻で匂いをかぐ)」
「……ずずっ……」
「…………うぇえええええええっ!? にがっ! くさっ! おくすりの味ですのーっ!!」
バシャッ!
手元が滑ってグラスが倒れ、床に広がる緑の液体。
その液体を見て、猫たちはぎょっと目を見開く。
「にゃにゃにゃっ!?」(これは……毒!?)
「にゃぁあああああ!!」(避難っ!!)
猫たちは四方八方へと飛び散り、ミーナのスカートの中にまで一匹潜り込む始末。
「やーっ!? そこはダメですのーっ!! こらー! しろーっ!!」
◇ ◇ ◇
日が傾き始めた頃、調理小屋はカオスの極みに達していた。
棚の中身はぐちゃぐちゃ、シンクには謎の液体がずらり。床には猫の足跡と、謎の果汁がぬらぬらと光っている。
ミーナは雑巾を手に、床をごしごしこすりながら涙目だった。
「うぅ……なんでなのです……ちゃんと“おいしい”を目指しているはずなのに……!」
猫たちはというと、テーブルの下でぺたりと寝転がりながら、ミーナの様子を眺めている。
しろはこっそりミーナに近づいて、しっぽでそっと肩をぽんぽんと叩いた。
「しろ……ありがとうなのです……でも、まだ“おいしい飲み物”は遠いのです……」
そのとき──
「おや、これはこれは……たいへん賑やかですね」
コツコツと、革靴の音が調理小屋へと近づいてくる。
現れたのは、長身の優男。黒の燕尾服にシルクの手袋、そして柔らかな笑みを浮かべた――
「グランフィード家のご子息、ならびにお嬢様へ。イザベルお嬢様より、謹んで贈り物をお届けに参りました」
「ギャリソンさんっ!? ど、どうしてここに……!」
ミーナが目を丸くして立ち上がる。
「王都での試飲会の折は、誠にありがとうございました。イザベル様より、このたびのご好意に感謝の品を託かってまいりました」
そう言ってギャリソンが掲げたのは、見たことのない色のガラス瓶と、不思議な香りのする乾燥葉、そして何やらシュワッとした気泡の立つ液体──
「これは……?」
「はい。“王都の果実酢”と“花香炭酸水”、それに“香るハーブの乾燥葉”でございます。すべて、王都の宮廷御用商人から仕入れたものでして」
「すごいのです……!」
ミーナは目をきらきらさせながら、炭酸水の瓶に手を伸ばした。猫たちもざわつき始める。
「にゃっ?」(これ、しゅわってした……)
「にゃー!」(きらきら光ってる!)
ギャリソンは静かに笑った。
「ミーナ様が“新しい飲み物”を研究中とお聞きして。ささやかながら、発想の一助となれば幸いです」
ミーナは、じっと瓶の中の泡を見つめた。そして──
「……もしかして、これとこれと、これを組み合わせたら……!」
ぱちん、と小さな音を立てて、ミーナの目が輝き始める。
「ミーナ様?」
「できるかもです! にぃにぃのコーヒーみたいな、“わたしだけのしゅわしゅわ”! やってみるのですーっ!」
ミーナはギャリソンの手から瓶を受け取ると、さっそく小さな実験ボウルとスプーンを持ち出して、調理台に駆け寄った。
その背中は、どこかいつもよりも頼もしく、そして──楽しげだった。
ギャリソンはその様子を静かに見守りながら、猫たちに小さくウィンク。
「どうやら、これからが“本番”のようですね。さて、私は手を汚さぬサポートに徹するといたしましょう」
「にゃっ!」
「にゃにゃーっ!!」
猫たちが一斉に、調理台に向かってぴょんと飛び乗る。
ミーナの“しゅわしゅわ開発”は、新たなステージへ!
次回【後編】──
「発明! ミーナのしゅわしゅわドリンク誕生!? そしてギャリソンの無茶振り!!」
乞うご期待!
(つづく)