ルークのコーヒーバカ一代 その…
第四話「焙煎の真髄と猫の手間」
朝露が消えかけるころ、ルークは一人、調理小屋の裏で腕を組んでいた。
目の前には平たい鉄鍋と、焼かれる前の赤い果実(生豆入り)──。
「……やっぱり、焙煎って奥が深いよなぁ……」
前回の焙煎は、なんとなく「焦げる寸前で止めた」みたいな結果だった。
だが、もっと香りを引き出すにはどうしたらいいのか。
豆の色、音、匂い──すべてを見極める必要がある。
「ここが……俺のコーヒー道の“真髄”なのかもしれん……」
目を閉じ、拳を強く握る。
「にゃー(何してんの?)」
突然後ろからのぞき込む猫にビクッとなる。
「お、お前ら……驚かすなよ……今、精神統一中だったのに」
「にゃっ(むしろ怪しかった)」
ルークは無視して、豆を取り出す。
赤い果実を剥き、粘りのある果肉を洗い落とした種──つまり生豆。
これを「きっちり乾燥させた状態」にしなければ焙煎はできない。
「さて……今日は、均一に、ゆっくり、ムラなく焼くことが目標だ!」
鍋を温め、豆を投入。木べらで絶えずかき回す。
──パチッ
「……来た、ファーストクラック!」
豆がはぜる音。
中の水分が気化して豆の構造が変わる、この“瞬間”を逃してはならない。
「こっからは……一気に来るぞ……!」
豆の色は次第に薄茶から深いブラウンへ。
香ばしい香りに、猫たちがぞろぞろと集まり出す。
「にゃぁぁ~(うまそう)」
「にゃーん(焦げるなよ)」
「黙って見守ってくれ……この時間は神聖なんだ……!」
ルークの額には汗。
鍋を揺らす手は真剣そのもの。だが──
「……っとと!」
足元にまとわりついた猫の尻尾を踏みそうになり、体勢を崩す。
「おいっ、危ないってば!!」
豆がジャラッと鍋から少しこぼれる。
「……やば……ムラになったかも」
ルークは急いで火から鍋を下ろし、豆を広げて冷ます。
「これが……セカンドクラック前の、フルシティロースト……うん、いい色してる……」
「にゃっ……(ちょっと焦げてない?)」
「焦げじゃない! 褐色の美! これは“深み”なのだ!!」
猫たちはどこか納得してない表情をしていたが、
ミーナがやって来て雰囲気が変わる。
「にぃにぃー、焦げたにおいがしますの!」
「それは香ばしい香りって言うんだよ!?」
「ふふっ、でも、いいにおいなのです」
そう言ってミーナは、焙煎された豆を手に取り、
「なんだか宝石みたいですの」とにこにこ。
ルークは内心、すこし照れていた。
「……そうか、だったら、この豆は“ミーナ・ブレンド”って名前にしようか」
「えへへっ、それなら飲んであげてもいいですの!」
「こら、まだ早──いや、まあ……ごく薄なら……」
その夜。
「──ということで、セレナ嬢! 焙煎に成功しました!!」
ルークはドヤ顔で豆を見せる。
セレナはその香ばしさに目を細めながらも、どこかふわっと微笑む。
「お豆の香りが一段と濃くなりましたわね……まるで、秋の森の香り」
「それ褒めてる? まあいいや、とにかく、明日から“焙煎三段活用”いくぞ!」
「……ルークさん、最近ちょっと熱が入りすぎてませんこと?」
「俺の“情熱の一杯”はこれから始まるんだ……!」
その横で、猫たちは焙煎豆を描いた地面アートを完成させていた。
火と鍋と豆──そしてルークのぐるぐる目。
妙に味のある似顔絵に、ミーナが大爆笑していた。
「にぃにぃ、変顔ですのっ!!」
「違う! それは真剣な表情だ!!」
そんな感じで、グランフィード家の一角には、
本格焙煎の香りが漂い始めていた──。
このところなんか 桃が食べたくて食べたくて・・・桃で書いていたら
『ももたましい!〜桃の王国と十二品種の姫君〜』
こんな話になってしまった。相変わらず、乗りと勢いで書いています。
もし桃が食べたいと思ったら(食べたくなくても) 一度読んでみてください。
[ボソッと、また桃狩り行きたいなぁ 中込○園とか…]