焼き魚と猫たちのフィーバー ~山の川で釣り日和~
秋も深まり始めたある日、ルークはふと思い立って、大きな籠を肩にかけて出発の準備をしていた。
「……そろそろ魚も脂がのってきた頃だしな。焼き魚に、あの醤油を垂らしたら……ごくり」
頭の中では、すでにパリッと焼き上がった魚の映像が流れている。
「にぃにぃ、どこへ行くのですか?」
麦わら帽子をかぶったミーナが、元気よくルークのそばにやってきた。
「魚釣りだよ。焼き魚が食べたくてな」
「わたしも行きますの!」
もちろん猫たちも、気配を察知してゾロゾロとついてくる。
にゃー、にゃー、と興奮した様子で足元をくるくると回る。
「……まあ、来るよな。うん、全員出発だ」
◆山の川でフィッシング!
山を少し登った先に、川の流れが穏やかな場所がある。
澄んだ水は底まで見えるほどで、時折、魚影がひらりと走る。
「よし、ここだ!」
ルークは竿を出して、じっと浮きを見つめる。
だが──。
……うんともすんとも、動かない。
「……おかしいな。餌も悪くないはず……」
その横で、水の中に飛び込んだのは、猫たちだった。
まるで川の主のごとく、バシャッと飛び込み、前足で魚をつかみ取っていく。
「にゃーっ! にゃにゃっ!」
次々と、魚を捕獲していく猫たち。その姿は、まるでどこかで見た熊の鮭漁。
「……なんかもう、俺いらない気がしてきた」
落ち込むルーク。
「にぃにぃ、ミーナも、木の実たくさん集めましたの!」
ミーナはしろと一緒に籠いっぱいの木の実を持って戻ってきた。
「お、おぉ……ありがとな」
◆夕暮れ、川辺の調理
日が傾き始めた頃、ルークは川辺に小さな焚き火を起こした。
猫たちが誇らしげに捕まえた魚を並べ、串に刺して炙る。
「さて、最後の仕上げだ……」
ルークは、自家製の醤油を取り出し、じゅわっと音を立てながら、焼けた魚に垂らした。
その香ばしい匂いが広がった瞬間──
「にゃっ! にゃにゃーっ! にゃー!!」
猫たちは一斉にフィーバー状態。
しっぽをぶんぶん振り回し、今にも火に飛び込まん勢いで騒ぎ出す。
「……こら! 火に近づくなって!」
「うるさいのです。静かに食べるのですっ」
ミーナが、ぴしっと注意を飛ばす。
すると猫たちは、反省したようにピタリと動きを止め、正座して待機。
「……ミーナ、お前、ほんとすごいな」
◆満腹と満足と、秋の夜
魚の焼ける匂いと、山の静けさが溶け合って、心地よい時間が流れる。
ルークは焼きあがった魚をひと口。
「……うまっ……醤油、すげぇな……」
ミーナは小さな口で魚をはむっとかじり、にっこりと笑った。
「おにぃ、また来ようね」
「おう、今度は俺が釣ってやるよ……きっとな」
その夜、川辺には笑い声と猫のゴロゴロ、そして醤油の香ばしい香りが、夜風に乗って漂っていた。