醤油の使い道を探して ~山へ行こう、キノコを求めて~
晴れ渡る空の下、グランフィード家の調理小屋の前でルークは悩んでいた。
「……で、だ。作ったはいいけど、醤油って何に使うんだっけ?」
完成した琥珀色の液体は、しっかり塩気があり、旨味もある。
ミーナも喜び、猫たちも瓶に興味津々。
「夏だったらなぁ、焼きトウモロコシに塗って……あぁ、いい匂いしただろうなぁ……」
だが、季節はすでに秋。
手元には、サツマイモ、ゴボウ、ニンジン、ジャガイモ、カブ、ダイコン……。
「……うーん、煮物? でも何かこう……ガツンとくる使い道……あっ! キノコだ!」
シイタケ、マイタケ、ナメコ。
「香ばしく焼いたキノコに、醤油をちょっと垂らして……たまらん……!」
気づけばルークは立ち上がっていた。
「よし、山へ行くぞ。キノコ狩りだ!!」
そのそばでは、猫たちが地面に棒で何やら絵を描いている。
ぐるぐるの丸いものに点々──キノコの絵だった。
「お前らも行きたいのか? ……よし、じゃあ全員準備しとけよ!」
◆全員出動!キノコ狩り大作戦!
翌朝。
背中に籠を背負ったルークが調理小屋を出ようとした瞬間。
「にぃにぃ、どこに行くのですかー?」
元気よく駆けてきたのはミーナだった。
パッチリ目を輝かせ、麦わら帽子までかぶって完璧な遠足スタイル。
「えっ、ミーナ……いや、今日は危ないかもしれないし……」
「じゃあ、とうさまに聞いてみるのですっ!」
「お、おい待てっ!」
──そしてアベルにもバレた。
「山か、ちょうどいい運動になるな。俺も行こう」
「……な、なんでだよぉ……」
結局、猫たちもゾロゾロとついてきて、
キノコ狩りはグランフィード家総出の遠足のようになった。
唯一、母レイナだけは「今日は家の整理があるから」とお留守番。
◆山の中で
秋の山は色づきはじめ、木々の合間から柔らかい日差しが差し込んでいる。
「よし、キノコを探すぞー!」
ルークは真剣な表情で地面を見つめ、倒木の根元や落ち葉の陰を丁寧にチェックしていく。
「これは……シイタケ、マイタケ、よしよし……!」
一方、アベルは……。
「ふむ……鹿の足跡だな。こっちには……お、イノシシの痕も」
完全に狩猟モード。
「お父さん!? キノコは!?」
「……ついでにな」
さらに、ミーナは。
「わぁっ! このお花、かわいいのですー!」
お花摘みモード全開。
足元の草花を手に取り、猫たちに見せては「どう?」と尋ねていた。
「にゃー(それ、食えない)」
「にゃっ(匂いはいい)」
猫たちは、自由気ままにキノコを咥えて持ってくるが……。
「お、おい、これ……毒キノコじゃねーか!!」
ぶつぶつの赤いやつ、ねばねばの青いやつ、目玉のような模様のあるやつ、1UPしそうなやつ。
「にぃにぃー、このキノコ、ぴかぴかしてますのー!」
「絶対だめぇぇぇぇぇ!!」
◆帰り道と食卓
陽が傾き始めた頃。
ルークの背負った籠は、立派な食用キノコでいっぱいになっていた。
アベルの袋には……。
「なんでイノシシが一匹まるまる入ってるんですか!?」
「狩りの基本だ」
ミーナは花束と葉っぱの冠を手ににこにこ。
猫たちは得体の知れないキノコを、こっそり袋に詰めている。
「絶対、煮たり焼いたりするなよ!??」
◆その夜。
ルークの手で、採れたてのシイタケとマイタケが炭火で焼かれ、
じゅわっと音を立てたところに、手作りの醤油をたらす。
「おにぃ……すっごくいい匂い……!」
「にゃー!」
「にゃっ!!」
猫たちも列をなし、待機していた。
「こいつぁ……ビールがあれば完璧だったな……」
「ビールってなんです?」
「あぁぁ、エールみたいなお酒かな?」
「だめですっ、にぃにぃ、まだ子供なのです!」
「いや、俺、異世界じゃ大人だろうが……」
「にぃにぃはたまにわかんないこと言うのです」
そんなこんなで始まった、キノコと醤油の夜会。
森の恵みと、ルークの努力の結晶が、グランフィード家の食卓を彩る。
かわいいミーナと、ハチャメチャな猫たち。
そして、意外に張り切ったアベル。
また一つ、小さな物語が笑顔と香ばしい香りに包まれて、秋の夜が深まっていった。