やきもち猫たちと精霊さん ~ミーナと新しいお友だちと……?~
朝の陽射しが、畑の葉先に露を光らせる頃。
ミーナはいつものように目を輝かせて畑へ駆けていく。だが、今日はほんの少し違った。
「せいれいさ~ん! おはようなのです~っ!」
ふわり、と青白い光が舞い、先日現れた小さな精霊が姿を現す。
丸くて葉っぱのような羽を揺らしながら、精霊はミーナの頭上にふわりと乗った。
「ふふ、今日もあそびにきてくれたのですっ」
ミーナは嬉しそうにくるくると回り、精霊はそれに合わせてふよふよ浮かぶ。
──ここは、ベルナン王国の畑。風が優しく吹き、穏やかな陽射しとともに花々がそよいでいる。
その様子をじーっと見つめる影が──
「……にゃ」
猫たちである。
しろを筆頭に、畑に寝そべっていた猫たちは、いつもならミーナにすり寄り、畝の間を一緒に歩いたりしていた。しかし、今はそのポジションを新参者の精霊に取られたのだ。
「にゃあ……」「ふにゃ……」「……むぅ」
しっぽをぴくりと揺らし、猫たちは静かに集まる。
「会議、なのにゃ」
そう言ったのは誰か分からないが、とにかく猫会議が始まった。
◆猫たちの逆襲計画!?
しろが畝の端に座り、他の猫たちがそれを囲む。
みけ、くろ、ぶち、ちゃとら、そしてふわふわの毛玉のような子猫まで勢ぞろい。
「にゃっ(あのままじゃ、ミーナの“おともだち枠”が取られてしまうにゃ)」「ふにゃ(さびしいのです)」「にゃにゃっ(ならば、我々も……存在感をアピールすべし!)」
意見がまとまると、猫たちはぴしっと整列し、精霊と戯れるミーナのもとへ全速力で突撃していった。
「にゃーん!」「ぴゃあああ!」
「わっ、ねこさんたち!? どうしたのです?」
足にまとわりつく猫。
肩によじのぼる猫。
帽子をくわえて走り出す猫まで出てきて、ミーナはてんやわんや。
「せ、せいれいさん、あぶないのですっ!」
浮かんでいた精霊は、猫たちの騒ぎにおされてぴょこんと宙に跳ね、くるくると旋回する。
その姿を追って、猫たちもぴょんぴょん飛び跳ねる。
「まってーっ! 猫さんたち、なかよくなのですーっ!」
◆にぃにぃとセレナと、そしてもう一人
「……なにあれ」
畑の道具小屋の陰から、ルークが遠い目をしていた。
「猫たちが嫉妬してますわね。あれは完全に」
隣に立つセレナが、腕を組みながらうなずく。
帽子のつばの影から見える笑みは、どこか楽しげだ。
「やれやれ……仲良くしてくれればいいんだけど」
と、そんな二人のやり取りを、さらに遠くからじっと見ている少女がいた。
──第一王女ミリーナ。
小さな日傘の下、優雅に腰掛けながらも、視線はどこかさみしげ。
「……ミーナちゃん、あんなに楽しそう。精霊さんとも、猫さんたちとも……」
少しだけ、口をへの字にして、ミリーナはうつむく。
王女という立場上、子ども達とはしゃぐことも少ない彼女。
ミーナの自由で自然体な姿は、どこか眩しく、そしてうらやましかった。
セレナがそれに気づき、そっとミリーナの傍らに立つ。
「ご一緒に、いかがですか? 王女さま」
「……え?」
「精霊の気配を感じられるのは、ミーナさんだけではないかもしれませんわ」
セレナが微笑んだ瞬間──風がそっと吹き、ミリーナの肩に、ひとひらの光が舞い降りた。
──まるで、ミリーナの心をそっと包むように。
◆そして今日も、かわいい
夕暮れ時、畑の隅に敷いたむしろの上。
ミーナは猫たちに囲まれ、精霊を胸元に乗せて、すやすやと眠っていた。
少し離れたところでは、ミリーナもまた、小さな光と語らっていた。
──ミーナは、今日もとびきり可愛かった。
──そして、ミリーナもまた、少しだけ笑顔になった。
(つづく)