ベルナンの招待状 ~王女の手紙とミーナのおでかけ準備~
秋の収穫もひと段落し、グランフィード家には穏やかな日々が戻ってきていた。
そんなある日、朝の食卓に届いた一通の封書が、日常に波紋を投げかけた。
深紅の封蝋には、見慣れぬ紋章──花と星を象ったベルナン王国の王族印。
「……レイナ。これ……まさか……」
アベルの声が少しだけ硬くなる。
レイナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んで封を割った。
封蝋を剥がし、滑らかに手紙を広げると──そこには、やけに崩れた字でこう書かれていた。
『たまには遊びにおいで ミーナちゃん。 ミリーナ』
「え? ……え?」
ルークが、思わず手紙を覗き込む。
「ミリーナ様って……第一王女、じゃなかったっけ?」
「ええ、私の姉……五人姉妹の長女です。相変わらず、気の抜けた手紙を寄こして……」
レイナは呆れたように笑いながらも、少しだけ懐かしそうだった。
「ま、待って。つまり、王族からのお誘いってことだよね?」
「うんっ! 遊びにいくのです!」
と、誰よりも早く椅子の上に立ち上がったのはミーナだった。
◆猫たちも準備中!?
その日から、グランフィード家は一気に慌ただしくなった。
ベルナン行きの準備に、猫たちまで大はしゃぎ。
いや、むしろ猫たちの方が騒がしかったかもしれない。
「ふんふん、帽子よし、リボンよし、鈴よし……にゃ!」
「だれが王都行きで仮面舞踏会するって言った!? それしまえ!」
猫たちは勝手に着飾り始め、ルークは必死で止める羽目に。
一方で、ミーナはきちんとした小さな旅支度を整えていた。
「しろ、これ持っていくのです。あの葉っぱのしおりも忘れずに……」
ぴょこんと跳ねるように歩くミーナ。
隣では、しろが首を傾げながらも忠実に付き添っている。
◆旅立ちの朝
そして数日後。
小さな馬車が、レーヴェンクロイツ領の農道をゆっくりと進んでいく。
ルーク、ミーナ、レイナ、そして数匹の猫たち。
今回はアベルが留守番役として村を守ることとなった。
「気をつけてな。特に、猫たちが何をしでかすかわからんからな……」
「とうさま、あなたの娘はもっと信用してほしいですの」
「それより、にぃにぃの方があぶないと思うのです」
ミーナの無邪気な指摘に、ルークは軽くむせた。
「ぐっ……」
「ふふ……行ってきます」
◆そして──ベルナン王国へ
馬車が峠を越えると、遠くに見えてきたのは──
翡翠色の湖と、白い石の城、そして花の咲き誇る宮殿庭園。
「すごい……」
ミーナは目を輝かせた。
その時だった。
白馬を駆った優雅な女性が、馬車に並ぶように現れた。
「ようこそ、ミーナちゃん! やっと来てくれたわね!」
手を振るその姿は、まさに王女の風格──だが、表情はまるで近所のお姉さんのように砕けていた。
「また会えたのです、ミリーナおばさま!」
「おば……まあいいわ。今日はいっぱい楽しいこと、用意してるのよ!。やっと来てくれて嬉しいわ!」
こうして、ミーナたちのベルナン訪問が始まった。
もちろん──ただのお茶会では終わらないことを、このとき誰もがうっすらと、いや、猫たちははっきりと察していた。
次回──『湖上の舞踏会と、猫の逆襲!?』
ちょっと違うお話も書いてみました。
『不運な転生令嬢は、恩返ししたいのに家族が溺愛しすぎて周囲がざわつく!?』
作者マイページ から飛んでいただいて暇なときにでも一読お願いします。