「ミーナ、おてつだいしたいの!」
秋、空は高く、風は涼しく。
畑一面に実った作物たちが、静かに収穫の時を待っていた。
「よし、今日はがっつり収穫だ。気合い入れるか」
俺は麦の束をまとめて、軽く背中を鳴らす。
そこに、駆け寄ってくる影——ミーナ。
「兄! ミーナも、おてつだいする!」
「おっ、頼もしいな。じゃあ……こっちのカゴに野菜を入れていってくれ」
「まかせてっ♡」
—
だが、現実は甘くなかった。
ミーナは人参を抜こうとして引っこ抜けず、
なんとか抜いたと思えば泥まみれで転倒。
かぼちゃは転がして割るし、カゴは逆さに運ぶし、
最後はキャベツに襲われたと錯覚して逃げ出す始末。
「にぃぃぃぃ! キャベツがついてくるぅぅぅっ!!」
「それ、お前の服にくっついてるだけだって!!」
—
昼過ぎ。
汗だくで帰ってきたミーナは、しょんぼりと麦わら帽子を床に置いた。
「……ミーナ、やくたたずだった」
「そんなことないぞ?」
「でも……なにも、できなかった……」
—
ミーナはうつむいたまま、涙をこらえていた。
その背中を見て、俺はちょっとだけ、昔の自分を思い出した。
——できなくて、悔しくて。
——でも、誰かに「ありがとう」って言ってもらいたかった、あの頃。
—
「ミーナ」
俺は小さな手をとって、ぎゅっと握る。
「お前がいてくれたから、俺は楽しかったよ。
笑える瞬間が、いくつもあった」
「……でも、ミーナ、なにも収穫できなかった……」
「ううん。お前が今日くれた一番の収穫は……」
俺はにっこり笑って、ミーナの頭をぽん、と撫でた。
「この笑顔だろ?」
—
「っ……にぃ……♡」
ミーナの目が、うるうるして、またきらきらになって。
それはまるで、畑で一番光っていた一番星みたいだった。
—
その晩、ミーナは家族の前で元気に報告した。
「ミーナね! きょう、おてつだい“練習”がんばったの!!
そしたら兄が、にこってしてくれたの♡」
兄の心は今日も、天使に救われました。