「あらしのよるに ~ミーナと猫と嵐の避難所~」
夏の盛りを越え、ほんの少しだけ風が涼しくなってきたある日のこと。
それは、突然やってきた。
朝からどんより曇っていた空が、昼過ぎには黒い雲で覆われ、あっという間に稲光と雷鳴が空を引き裂いた。
「今日は外、出ちゃだめよ。嵐になるわ」
レイナの静かな声に、ミーナはおとなしく頷いた。
「わかりましたのです。じゃあ、猫さんたちとおうちで遊ぶのですっ」
……のはずだった。
家の中でお絵かきをしたり、絵本を読んだり、ミーナは猫たちと楽しく過ごしていた。
でも、ふと気づいた。
「……あれ? しろ がいないのですっ」
お気に入りの一匹、白くて目の青い猫──“しろ”が、どこにもいない。
「しろ~? しろ~~~???」
窓の外では風がうなり、木々が大きく揺れている。
心配になったミーナは、そっと扉を開けた。
その瞬間、風がばあっと吹き込んで、ミーナの髪が舞い上がった。
「……しろを、さがしに、いくのです」
そう言って、ミーナは裸足のまま嵐の中へ飛び出していった。
◆大騒ぎのグランフィード家
「ミーナがいない!?」「嵐の中へ……!?」
レイナが慌てて外を見たとき、すでにミーナの姿はなかった。
「ルーク! アベル! ミーナが!」
嵐の中、すぐに捜索が始まった。
ルークは合羽をひっかぶって飛び出し、アベルも重たい外套を翻して駆け出す。
猫たちも一斉に走り出し、雨の中、屋根の上や納屋の裏を駆け回って捜索を始めた。
嵐はますます激しくなり、横なぐりの雨が容赦なく打ちつける。
「ミーナ! どこだーーーっ!!」
「ミーナーーっ!!!」
◆ミーナと、猫まみれの秘密基地
一方そのころ、ミーナはというと。
畑のはしっこ、木の根元にある小さな小屋──“ミーナ・バ〇ア・クー”と名付けた、ルークが作ってくれた自分専用の秘密基地に入っていた。
この小屋は、かつて完成と同時に猫たちに占拠されてしまった曰く付きの場所であり、ミーナの中では“緊急避難所”としての格付けがなされている。
「ふぅ~、ここなら、あんしんなのですっ」
そこには、しろ……だけじゃない。
なんと、いつも一緒にいる猫だけでなく、ふだん自由気ままな猫たちまで、みんな集まっていたのだ。
「にゃ~」「ふにゃん」「ごろ~」
十匹以上の猫たちがミーナの周りにぴったり。
狭い小屋の中は、もはや猫まみれである。
「うう……あったかいのですけど……ちょっと暑いのです……」
でも、ミーナは動かない。
「これは……きんきゅうひなん、なのです!」
ミーナはちゃんと分かっている。
外は危ない。出ちゃいけない。
しろが飛び出したのも、風に飛ばされた葉っぱを追いかけたせい。
だから、ミーナは「ひなん」した。
たとえちょっと暑くても、猫が重くても……!
その小さな決意が、嵐の中のミーナを守っていた。
◆そして……発見!
「おい、ルーク! こっちの畑の端……何か小屋があるぞ!」
アベルの声に、ルークが駆け寄る。
ドアを開けた瞬間──
「うわ、猫だらけ!? ……って、ミーナ!!」
「にぃにぃ!! きんきゅうひなん、してたのですっ!」
「……お前なぁあああぁぁああぁぁ~~~!!!」
ずぶ濡れのルークが、猫まみれのミーナをぎゅっと抱きしめた。
「もう……本当に、心配したんだからな……」
「でも、ミーナ、えらかったのです」
「……ああ。ほんとにな」
アベルも、レイナも、みんなホッとした顔でミーナを見つめる。
猫たちは、いつの間にかしれっと小屋から出て、また自由気ままに歩き出していた。
◆嵐のあとの静けさ
その夜、嵐は去り、空には星が広がっていた。
ミーナはタオルで拭かれたあと、お風呂に入って、レイナに髪を乾かしてもらった。
「ママ……ミーナ、まもれたのです。しろも、みんなも」
「ええ、ちゃんと守ってくれたのね。……ありがとう、ミーナ」
ベッドに入ったミーナの隣には、もちろん、しろと、数匹の猫たち。
「もう……にゃんこまみれ、なのです……でも、しあわせ、なのです……」
小さな寝息と、猫たちの喉を鳴らす音だけが、部屋に優しく響いた。