「夏祭り ~猫とミーナの大冒険~」
日が暮れると同時に、村の広場には燈籠のあかりがともり始めた。
染め布で作られた旗が風に揺れ、木造りの舞台には楽士たちが座り、古楽器の音色が村の空気を温かく彩っていく。今日は年に一度、豊穣と平和を祝う“緑の祭”。
ミーナは母レイナに着せてもらった淡い青の“祝衣”をひらりと揺らしながら、にぃにぃのもとへ駆け寄った。
「にぃにぃ、見てください! ミーナ、お祭り仕様ですっ!」
「おお、似合ってるな。……って、その頭の小さなかごはなんだ?」
「涼しげアレンジですっ! 氷草を摘んで入れておきましたっ!」
小さな籠の中には、青白く輝く氷草の葉がきらりと光り、まるで髪飾りのように揺れていた。
猫たちも負けてはいない。一本角の魔獣の角を真似た飾りを頭につけたり、首に小さな鈴を巻いたりと、それぞれに“おしゃれ装備”で祭りを楽しんでいた。
一匹はうっかり耳にかけた花飾りが鼻を刺激して「くしゅん!」とくしゃみ。もう一匹は、精霊灯の柱にのぼってしまって降りられず「にゃぁああ~」と情けない声を上げていた。
そんな騒動の横で、ミーナは小さな矢を持って射的──ではなく、“精霊玉割り”に挑戦していた。
「いっけぇ~っ!」
ぽすん、と竹の的に当たる音。
「やったのですっ! ミーナ、精霊糖いただきますっ!」
見事命中させたミーナに、屋台の若い娘が優しい笑顔で小さな甘味を手渡してくれる。
その横では、猫たちが“虫の鳴き声当て”に参加していた──というより、勝手に虫籠に飛び込んでいた。
「こらこらっ! それは商品用の虫だってば!」
「にゃっ!?(ぴゅーんっ)」
猫たちは反省もせず、葉に包まれた果実菓子を一つずつ咥えて、ちゃっかりミーナの元へ戻ってきた。
「ふふ、猫さんたちも、お祭りを満喫しているのです」
ミーナは猫たちに自分の精霊糖を少し分けてあげ、手をつないで踊りの輪の中へ。
村娘たちと手を取り、くるりと回っては笑顔を交わす。
その姿は、まるで小さな祝祭の女神のようだった。
「……ほんと、うちの妹は、どこの王族よりも貴族らしいな」
ルークがぽつりと呟くと、隣にいた農夫の青年が同意する。
「わかりますよ、あれはもう、畑の守り神ですよ」
「いや、盛りすぎだろ……いや、そうでもないか……?」
やがて夜も更け、祭りの最後を飾る“火の花”が始まった。
火薬石と魔力石を組み合わせた仕掛けから、夜空へと色とりどりの光が打ち上げられ、大輪の花となって咲き誇る。
「わぁ……っ、きれい……!」
ミーナは猫たちをぎゅっと抱きしめながら、夜空を見上げた。
「にぃにぃ、どうしてあんなにお花が空に咲くのです?」
「さあな……でも、お前の笑顔も空に咲くように、誰かを喜ばせるためかもな」
「???」
ミーナは首を傾げたが、猫たちはわかっているのかいないのか、「にゃー」と鳴いて、彼女にぴったりと寄り添った。
こうして、村の夏祭りは賑やかに、そして穏やかに幕を下ろした。
今日も、ミーナはとびきり可愛かった。