「スイカ割り大会2 ~ミーナと貴族と夏と猫~」
最初の挑戦者は、もちろんミーナ。
クロが棒をくわえて持ってきて、モモが手ぬぐいで目隠し。シロはスイカのそばでゴロゴロと寝ている。
「いくのですっ!! ミーナ、ぜったいに割ってみせますっ!」
「にぃにぃ、合図をお願いします!」
「よ、よーい……はじめ!」
ミーナは真っすぐ……とは言えず、少しずつふらつきながらも、スイカへと近づいていく。
モモ「右にゃっ!」
クロ「ちょい左だにゃ!」
シロ「にゃう~~~(←スイカの影で昼寝)」
猫たちの案内が混乱を極めるなか、ミーナの棒が振り下ろされた!
──ボコッ!
「にゃああっ!?!?」
棒が命中したのは、シロのお腹だった。
「ま、まちがえたのですっ!? し、シロ!? ご、ごめんなさいなのですっ!!」
「にゃぁぁぁ……(ぷるぷる)」
慌てて駆け寄るルーク。
幸いにもスイカではなく、お腹に乗っただけだったらしく、シロは無事だった。
「だから言ったろ!? スイカの横で寝るなって!!」
「にゃ……(←反省してない)」
続いての挑戦者は、イザベル。
「ルークさん、見ててくださいな! 貴族のスイカ割りの底力をっ!」
「いや、“貴族の”って何だよ!」
ギャリソンが完璧に目隠しをし、ピシッと棒を手渡す。
「お嬢様、スイカは三歩前方です。地形は平坦、風は微風、気温は三十二度、日射強し。では、どうぞ」
「なにそのガイド!?」
「さあ、見せていただこうかしら、ルークさんのスイカの性能とやらを……!」
イザベルは軽やかに前進し、優雅に構え──
「……えいっ!」
──ズバァッ!!!
完璧な一振り。
スイカが真っ二つに割れ、その断面からみずみずしい赤がこぼれた。
「おおおっ!?」「す、すげぇ……」「か、貴族の力……!?」
「どうです、ルークさんっ! これが王都の乙女の実力ですわっ!」
「えーと……うん……スイカ割りって、そういう競技だったっけ……」
だが、うまくいかないのは──
「わ、私も……一本」
セレナが静かに手を挙げた。
ギャリソンが目隠しをし、棒を手渡す。
「……えいっ」「あれ?」「そっちじゃない」「あっち?」「あっ……あれ?」
──スカッ。スカッ。スカッ!!
ことごとく、空を切る棒の音。
スイカはびくともせず、猫たちはクスクスと笑っている(ように見える)。
「う、うう……なによ……! なんで当たらないのよ……っ!」
珍しく落ち込むセレナに、ルークは苦笑しながらタオルを渡す。
「まぁ……スイカ割りって、奥が深いからな」
「言い訳しないでよ……もうっ」
可憐に拗ねるセレナ。その様子に猫たちも寄り添い、少しだけ気分を取り戻す。
そして最後に現れたのは、ギャリソン。
「私にも一本、試技を」
「……お前は絶対すごいからいいよ、やんなくて」
「恐縮です。ですが、お嬢様方の安全確保のためにも、一通りの技術確認は必要かと」
スッ──と棒を構え、静かに目を閉じる。
「位置、角度、風向き、温度……」
そして、振り下ろされた一撃。
スパァン。
スイカは十六等分され、しかもすべてが完璧な放射状に並んでいた。
「ちょ、ちょっと待て……これはもう料理だろ!?」
こうして、貴族たちを巻き込んだスイカ割り大会は、
ミーナの笑顔と、猫たちの悲鳴と、ルークのツッコミに包まれて、盛大に幕を閉じた。