「スイカ割り大会1 ~ミーナと貴族と夏と猫~」
朝から空は青く、雲は白く、お日様はすでにギラギラと本気を出していた。
それでも、村の空気はにぎやかだった。蝉の声も、子どもたちの笑い声も、風に乗って田畑を駆け抜けてゆく。
「にぃにぃ~っ! スイカ割り! 今日なのです~っ!!」
「はいはい……朝から元気だな、お前は……」
ルークは畑の片隅で、麦わら帽子を深くかぶりながら額の汗を拭う。
目の前には両腕を広げて飛び跳ねるミーナ。
その後ろから、モモ、クロ、シロの三匹の猫たちが、まるで囃子役のようににゃーにゃーついてきていた。
「猫たちも準備ばんたんなのですっ! 川のほとりが会場ですっ!」
スイカは昨日のうちに冷たい川の流れに沈めてある。
ルークが“ほんの少し手を入れた”畝で育ったスイカは、重く、甘く、そしてよく冷える。
「とりあえず……怪我だけはすんなよ?」
「にぃにぃ、安心してっ! ミーナは“名誉スイカ割り士”なのですっ!」
「そんな称号ねぇよ!」
川辺には、布をかけたテーブルや日陰を作るための天幕が張られていた。
村の子どもたちもぽつぽつと集まりはじめ、猫たちはすでにスイカのそばで転がっている。
──そして、事件は起こる。
ゴトン、ゴトン……ガタガタガタッ……!
村の小道を、二台の豪華な馬車がゆっくりと進んでくる。
「……なんか、嫌な予感がする」
天を仰ぐルーク。
やっぱりというか、当然というか。
馬車から現れたのは──
「ごきげんよう、ルーク。今日も元気そうね」
「……セレナ……来るとは思ってたけど……まさか二台とは……」
「ふふふ、イザベルが“スイカ割りに参加したい”って言い出したから、ついでに一緒に来たの」
「いやいやいや、お嬢様がスイカ割りって……どーゆー発想だよ!」
「ここに来れば、何か面白いことがある気がしたのよ」
「もっと平和に暮らしてくれよ、頼むから!!」
その隣から、ふわふわの金髪を揺らしながら、やや大きめの麦わら帽子を被った少女がひょっこり顔を出す。
「ルークさんっ、今日こそスイカを割ってやりますわっ!」
「イザベル様、棒はこのようにお渡ししますので、どうぞこちらへ」
──完璧な所作で介添えするのは、ギャリソン。
どこまでも準備が早い。というか、事前に予定聞いてたろ絶対。
「……もう……好きにしてくれぇぇぇ……」
こうして、貴族のお嬢様たちを巻き込んだスイカ割り大会が始まった。