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魔動戦機ガイア  作者: ZIX
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第六話 大地を統べる者

 10分の後。皇帝、ガルス、そしてラグマの3人は、皇城の北側に寄り添うように建ち、狭い橋で繋がっている建物の扉をくぐっていた。建物は3階建てで、城からの橋は、その建物の2階部分に渡されていた。造りはそれほど重厚なものではないが、城よりは明らかに新しい。帝室格納庫。ここへ向かう途中、皇帝はこの建物をそう呼んだ。

 扉をくぐったラグマの視界を、鮮やかな青色の魔動戦機が 占めた。見覚えはあるが、これほどの至近で見たことのなかった機体に、彼は思わず感嘆の息とともに声を漏らした。

「ウンディーネ・・・。」

 だが、皇帝は扉から左へ続く通路に歩を進めながら、さらりと言った。

「こいつは『部品取り』だ。例の機体と共通する部品も多い故な。さぁ、こっちだ」

たしかに、青い機体はあちこち装甲が外され、内部のパイプ類がむき出しになっていた。3人は、ウンディーネの背中側を回り込むようにして、格納庫の奥へと向かった。格納庫は中央の仕切りで南北に二分されており、その仕切に扉が設けられていた。扉の向こう側に、その機体はあった。

「これがその機体だ。GLX-004 ・・・『ガイア』」

ウンディーネによく似たその機体は、しかし目の覚めるような白色に包まれていた。装甲の各所に、意匠を凝らした青色のラインが施されている。他にも、顔部分の細かな造りや首周りに襟のような装甲があること、手甲部の肘当てのような突起など、いくつかの相違点が見て取れた。

「ガイア・・・」

「うむ。古い言葉でな。『大地を統べる者』を意味する」

皇帝の言葉を聞きながら3人は通路を進み、ハッチの開いている胸部の前まで来た。通路は途中から、鉄枠に木を板を張ったものに変わっていた。どうやら、機体の出し入れの際に、跳ね橋のように退避させられる造りになっているようだった。

 開かれた『ガイア』の胸部ハッチ、すなわち操縦席付近では、作業服姿の男たちが5~6人、忙しく動き回っていたが、皇帝とガルスの姿を認めると、一斉に手を止め、最敬礼で君主を迎えた。皇帝は苦笑いしながらそれに片手を上げて答える。

「堅苦しい敬礼など要らぬといつも言っておろう!作業を続けよ!・・・ランス!準備はまだ終わっておらんようだな?」

皇帝がランスと呼んだのは、男たちの中でも最年長らしい、小太りの男であった。

「えぇ、申し訳ございませんな。もう少々お待ちいただければ。残りはファイバ系の最終確認だけです。・・その間よろしければこちらで」

ランスは自らの脇においてある小さなテーブルを示した。皇帝は慣れた様子でテーブルに着き、ガルスもそれに続く。ラグマは、二人と同じテーブルに着くなど許されることなのか、と迷い、しばし立ち尽くした。ランスは、その時点でラグマに気付いた。

「おっと、君は・・・そうか、あの検査機を壊したってのは君か!」

ランスはラグマに近づくと、右手を差し出して続けた。

「帝国軍 魔動戦機開発局長のランス=グラフォードだ」

ラグマは、それに応じて握手を交わした。

「ラグマ=ウォニスです。初めまして。あの・・・すみません、壊してしまって・・」

恐縮するラグマに、ランスは豪快に笑った

「ガハハハ!気にすることはない!おかげでこいつが日の目を見ることになったんだからな!」

ランスは左の親指を立てて背後のガイアを指した。

「ま、とりあえずは座って茶でも飲んでくれ。起動テストはもう少し後になるからな」

ランスに促され、ラグマは先程の迷いを忘れてテーブルに着いた。


 ランスの助手が淹れてくれた茶を前に、4人は作業の完了を待っていた。皇帝が、ガイアの機体を仰ぎ見ながら言う。

「しかし・・・こいつがフル起動する日が来るとはな・・。正直思わなんだ」

ランスは、茶をすすりながらそれに答える。

「仰せの通りで。急に起動テストを、とのご下命にも驚きましたが、それがトリプルでのフル起動と聞いて耳を疑いましたぞ」

起動成功を前提とした二人の会話に、不安を覚えたラグマは思わず口を挟んだ。

「あの・・・まだ起動できるかどうかは・・・」

その言葉に皇帝とランスは顔を見合わせた。ランスが笑いながら言う。

「心配は要らんさ。あの検査機でオーバーフローを起こすほどのマーグ力があるのなら、こいつはほぼ間違いなく起動できるはずだ。このテストはむしろ、機体側が正常に機能するかどうか、が主眼だよ」

皇帝がそれを受けてさらに続ける。

「そういうことだ。何しろ、こいつは開発・製造されて以来、フル出力で起動したことがないからな」

「ツインで起動したのさえ、3年以上前、でしたかな?」

ガルスの補足に、ラグマはおや?という顔をした。

「3年・・・ですか?ウンディーネより前・・・?」

「ほう・・・なかなかに鋭いではないか。そうだ、こいつはウンディーネより前に開発されている。ランス、あらましを聞かせてやれ」

ランスは御意、と短く答え、立ち上がって語り始めた。

「この機体、ガイアの開発が始まったのは、今から4年半前。ハルシーザの陥落から半年後のことだ。詳しい話はともかく、あの戦いで、我が軍のシルフやセイレーンが、敵の主力『コボルド』に、今一歩及ばないことが明白になった。口惜しい話ではあるがな。そこでだ。コボルドを圧倒できる性能を目標とした、次期主力魔動戦機の開発計画が立ち上がったわけだが・・・どこまで性能を引き上げるか、というのが一つの課題だった」

ランスはそこまで話すと、茶を一口すすり、さらに続けた。

「ラグマ・・・でいいか?知っているかもしれんが、魔動戦機というのは、機体の出力が上がれば上がるほど、起動に必要なマーグ力が大きくなる。これを起動障壁と言うんだが、いくら性能を高めたところで、起動障壁が高すぎて誰も動かせないのでは意味がない。そのバランスを探るために開発されたのがこいつ、GLX-004・ガイアだ。ちょっと欲張ってシルフ・セイレーンの最大3倍まで出力を高められる設計としてみたんだが・・・欲張りすぎたようでな。今日の今日まで、誰一人として、ガイアを起動できる騎士は現れなかった」

ランスはお手上げ、というポーズをして一旦話を切り、もう一度茶を飲んだ。

「ただ、その後のテストで、2倍出力まで絞れば八割がたの騎士が起動できることがわかった。この結果から、次期主力量産機の仕様が固まって、ウンディーネの開発に繋がったというわけだ。ガイアも、出力を絞れば起動はできるものの、3倍出力を前提とした機体だからな。ウンディーネにも劣る性能になってしまう。使い道がなくなってしまったわけだな。そこでこいつは軍籍を離れ、陛下の所有機として、この帝室格納庫で保管されることになった、というわけだ」

ランスは説明を終えると、皇帝を見やった。皇帝がうむ、と頷くと、彼は軽く礼をして着席した。

「ご説明ありがとうございます。ここまで詳しく教えていただけるなんて・・・」

ラグマは立ち上がり、ランスに頭を下げつつ礼を述べた。

「なーに、礼をされるほどのことでもない。それに、君にはこれからこいつで活躍してもらわなきゃならん。自分の乗る機体の素性くらいは知っておいてもらわんとな」

ランスがそう答えて笑った時、作業服姿の若い男がテーブルに近づいてきた。彼は、しっかりした敬礼をしてから、よく通る声で報告を始めた。

「失礼いたします!グラフォード局長!起動テストの準備、完了いたしました!」

ランスは報告を聞くや素早く席を立ち、報告に来た男に確認した。

「よし、トリプルコア、フル出力起動。ただし接続はコンバータ系のみ。以上、間違いないな?」

「はっ!トリプルコア、フル出力起動!接続はコンバータ系のみ!間違いありません!」

彼はしっかりと復唱確認し、一礼すると、テーブルを離れていった。

「さぁ、いよいよですな。・・・ラグマ、出番だ」

はい!と短く答えたラグマは、背筋を伸ばし、顔を少し強張らせた。皇帝とガルスは茶を飲み干すと、ゆっくりと立ち上がった。


 ラグマは今、ガイアの操縦席前に立っていた。開いた胸部ハッチの奥には、試験会場で見た機械にそっくりなシートが見えていた。

「要領は今朝の試験のときと同じだ。シートに座って、掌をプレートの上に乗せればいい。今回は起動確認だけだからな、操縦系はカットしてある。いきなり動き出すようなことはないから安心しろ」

ランスはそう説明すると、ラグマの背中をぽん、と叩いた。ラグマは、振り向いて軽く頷くと、意を決して操縦席へ乗り込んだ。シートに身体を預け、自らの両の掌をしばし見つめる。ふうっ、と息を吐いて、ゆっくりと掌を肘掛けのプレートに近付けていくが、やはりそこには躊躇があった。本当に大丈夫なのか、という思いと、起動しなかったら、という2つの不安がラグマの胸中を駆け巡る。

(・・・えぇい!ここまで来て迷うバカがいるか・・・っ!)

彼は、自らの弱さを叱咤するように思い切りをつけると、指を大きく開いて、プレートに触れた。数瞬の後。

ヴン・・・!

試験会場で聞いたものより軽快な音が響き、プレートが鈍いピンク色から美しい青へと変わった。今度は、青い光が吹き上がるようなことはなく、数秒後に、機体後方から空気を吐き出すような音がした。操縦席脇で、ガイアから伸びたケーブルが繋がっている計器を注視していた整備員が、興奮気味に状況を報告する。

「コア状態、正常。ファイバ系、問題なし。フォースエナジー出力、約3,000UC。トリプルコアのフル出力予想値に合致しています!ヒートパージ系も正常・・・オールグリーン!正常起動を確認しました!!」

その報告に、ランスはよし、と短く呟き、皇帝とガルスは、目を合わせて満足気に頷いた。

「よし!起動実験は成功だ!ラグマ、おめでとう。ただもう少し、データを取り終えるまで、そのまま頼む」

「よぉーし!総員、取れるデータは全部取っておけ!これから忙しくなるぞ!」

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