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魔動戦機ガイア  作者: ZIX
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第三話 選抜試験(2)

 ラグマも含めた受験者たちが向かった天幕の下には、3台の機械が置かれていた。背もたれが少し後ろに傾いた椅子のような形をしたその機械は、しかし座面以外は金属製で、家具と言うには少々ものものしい雰囲気を感じさせるものであった。背もたれの後ろには着座部分より大きな箱状の装置が取り付けられており、その箱から伸びたパイプが椅子の肘掛けのあたりにつながっていた。

機械の前に三手に分けられたラグマたち受験生に、係官が試験手順を説明する。

「まずは、この機械で諸君ら一人ひとりのマーグ力を検査する。まずもって、マーグ力が足りないようでは、この先のどんな試験も無意味だからな」

「やることは簡単だ。この機械の椅子に座って、ここだ。ここに掌を置けばいい」

係官が指差した肘掛け部分には、鈍いピンク色をした半透明のプレートが嵌め込まれていた。

 列の先頭から、3人ずつが機械に座り始めた。ラグマは列の中ほどより少し後ろに並んでいたが、先頭の様子は窺えた。受験者が機械の座面に着き、肘掛けのプレートに両の掌を置くと、機械の後ろにいる係官が箱状の装置の背面を操作しているのが見えた。10秒程度が経過したが、3人とも何事も起こらない。すると係官が機械の前に回り込んで、受験者に立ち上がるように促す。3人の受験者は、係官に何事かを告げられていたが、次の瞬間、がっくりと肩を落とした。明らかに、不合格である。その落胆たるや、見るも無惨、という形容が最も適しているような落ち込みようである。しかしこれは、当然の反応といえた。個々人のマーグ力はこの年齢までには上限に達し、確定している。今この時点で、魔動騎士たりえるマーグ力を持っていない、という判定をされてしまうということは、それはすなわち、魔動騎士への道が完全に閉ざされたということを意味するからだ。

 他の受験者たちから、あぁ、というような声が漏れた。3人とも、となればこれもまた当然の反応だ。ラグマは、それが少しあとの自分の姿であることを想像してしまい、にわかに緊張と恐怖に襲われていた。

(5年・・・5年間の努力が・・無駄になるかもしれないんだ・・・)


 5年前、ハルシーザから助け出され、ヴェノールでサラとともにフェンザ家に引き取られることになったあと、ラグマはすぐに、養父ガトゥールに剣術を教えてほしい、と頼み込んだ。僕は将来必ず魔動騎士になる、そのためには剣術が必要になるからと。サラは当然反対したし、ガトゥールもこの地で静かに暮らすことを考えてはどうだと最初は止めていたが、ラグマの真剣な眼差しに強い意志をを見出し、翌日から厳しい修練が始まった。それから5年、ラグマは剣の腕を磨き続けてきた。ガトゥールが戦死してからも街の修練場に通いながら、たゆまぬ努力を続けていた。だが今ここで、不合格になってしまえば、それもすべて水疱に帰してしまう。あの日から、家族の仇討ちとハルシーザの街を奴ら――ヴァフォースから奪還することだけを考えてきたラグマにとって、それは死刑宣告に近いものであった。

 あまりの緊張に、ラグマは吐き気すら覚え始めたが、眼だけは前方の機械を見据えていた。次の受験者が恐る恐る着座し、ゆっくりと肘掛けのプレートに手のひらを乗せるのが見えた。またも5秒程度の沈黙。だがどうも最初とは様子が違う。遠くてはっきりとは解らないものの、どうも肘掛けの手元あたりが光っているように見えた。係官が二人目の受験者に、手を離すように促しながら何かを告げると、彼は握った拳を突き上げて快哉を上げた。周囲からも、わっ、と歓声が上がる。合格者が出たようだ。その光景に、はあっ、と息をついたラグマは、いくらか冷静になりながら自らの順番を待った。

(ここまできて尻込みなんかしても仕方ない・・・どうなるにしても、やってみなきゃ結果は出ないんだ!)

そこから検査は順調に進み、概ね2~3人に一人程度の割合で合格者が出ていた。相変わらず合格者は快哉を叫び、不合格者はこの世の終わりを迎えたような落胆ぶりを見せていたが、順番を待つ受験者たちの反応は徐々に淡々とし始めていた。そんな頃合いに、ついにラグマが検査を受ける時がきた。

 いざとなると、また緊張と恐怖が蘇ってきた。係官に着座を促されるが、脚がぎくしゃくとしか前に進んでくれない。係官はそんなラグマを見て哀れに思ったか、肩を叩いて笑いながら励ます。

「大丈夫か?落ち着け落ち着け。何も取って喰われるわけじゃないんだ。ここまできたらやるしかないぞ?」

そうだ、さっきも自分でそう思ってたばかりじゃないか、とラグマも内心で自分自身を叱咤し、どうにか機械に着座することができた。そして、もう一度深く深呼吸すると、肘掛けのプレートに掌をそっとのせた。今は鈍いピンク色のプレートが、薄く美しい青い光を放てば合格だということは、自分の前に合格者が出たときに見えていた。掌をのせてから光が放たれるまで、数秒といったところだったろうか。しかしラグマには、その数秒が永遠の時間にも思えた。汗が、こめかみを流れ落ちるのがひどくゆっくり感じられた。

ヴゥン・・・!

プレートからかすかな音が聞こえたかと思うと、ラグマの瞳には、プレートから放たれる青い光が映っていた。その光は、光でありながら、炎のように吹き上がるような動きを見せながら、ラグマの手を覆っていた。

「!・・・これって、合格・・・だよな・・?」

すぐにでも人生一番の快哉の雄叫びをあげたい気持ちに襲われながら、係官の通知があるまでは、と我慢していたラグマであったが、彼の手を覆い尽くしたその光のありようは、すでに異変の始まりを伝えていた。さらなる異変が起こったのはその直後であった。

 プレートから吹き上がる青い光が、手首から肘、上腕へと、燃え広がるように這い上がってきたのだ。何が起こっているのかわからず、狼狽えたラグマが係官に助けを求めようとしたその時。凄まじい衝撃が、彼の身体を突き上げた。

「ぐッ!?あっぐ・・・がぁッ!!」

それと同時に、腕を這い上がってきた青い光は、すでに炎の様相をはっきり示しながら、ラグマの全身を多い始めていた。そばにいた係官は、見たことのない事態に一瞬呆然としてしまっていたが、ラグマの悲鳴ですぐに我に返り、機械側面についていた赤いボタンを叩きつけた。瞬間、ラグマを覆っていた青い光は陽炎のように消え失せた。

「おいっ!君!大丈夫か!」

係官はラグマに呼びかけながら揺り起こしたが、反応がない。最悪の事態を考えながら係官は彼の息を確かめた。

「・・・息はある!誰か!医療班のシェルド殿を呼んできてくれ!」


 ラグマが担架で城内へ運び込まれ、突然の事態に検査会場は騒然となった。係官たちは何とかその動揺を鎮め、検査はラグマが乗った機械を使用中止として、残る2台の機械で続行ということになった。受験者たちの表情には不安の色が浮かんでいたが、とりあえずは係官たちが乗ってみせて安全が確認されると、検査は再開されていった。

 ラグマが乗った機械には今、先程の係官に加えて、作業服姿の男二人が取り付いていた。彼らは機械のカバーを開けたり部品を外すなどして、機械の様子を調べているようだった。

「青い光が?・・・それは確かなのか?」

作業着姿の二人の内、年嵩の方が訝しげに係官へ問う。

「ええ・・。すぐに非常停止かけましたから見えたのは数秒ってところでしたが、間違いありません。プレートから吹き上がった光が彼の手から徐々に全身に拡がっていって・・・」

「ふむ・・・うーむ・・・」

年嵩の男は腕を組んで唸った。信じられない、といった風情だ。と、機械側面に座り込んで、内部を調べていたもう一人、若い方の男が、顔を上げて彼を呼んだ。

「班長、これ見てくださいよ・・・マグファイバが・・・!」

班長と呼ばれた年嵩の男は、促されるままに機械内部を覗き込んでうめき声を上げた。

「何てこった・・・!ズタズタじゃねぇか・・・おい、コアの方は先にチェックしたんだったな?」

「えぇ、もちろん。特に異常はありませんでしたよ?・・・あっ!えぇ!?じゃあこれって・・・」

「あぁ、信じられんが・・そうとしか考えられんな・・・」

「ッ!?いやあの・・ウンディーネ級ですよ?これ!」

「だから俺も信じられんと言っとるんだ!・・・こりゃあすぐにでも、上に報告しなきゃならんな」

班長は、そう呟きつつもいまだに信じられないという表情のまま、しばし機械を見つめていた。

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