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魔動戦機ガイア  作者: ZIX
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第二話 選抜試験(1)

 魔動騎士。世界最強の人型兵器たる「魔動戦機」を操り、戦場を駆ける者たち。魔動戦機が普遍的な存在であるがゆえに、魔動騎士たちは、この世界のあらゆる戦場の主役であった。魔動騎士として第一に求められるのは、魔動戦機を起動するに足る「マーグ力」である。それは、この世界のヒトに内在する特殊な力であり、魔動戦機はそれを動力源として稼働する。

 人が持つマーグ力の大小、特にその上限は、完全に個々人が生まれ持った「個性」である。一般に、幼少期から16~20歳辺りまでは徐々に成長していくことが知られているが、成長上限に達したあとは一生涯変わることがなく、さらに血統などによる傾向も一切存在しない。魔動騎士という職業・地位が世襲でないのはこのためで、逆に言えば、どんな生まれの人間でも魔動騎士になれる可能性がある。そこでギルラゼア帝国を含む各国は、市井から魔動騎士たり得る力を持つものを拾い上げるべく、定期的に選抜試験を実施していた。今、ラグマが応募しようとしているのも、そういった選抜試験の一つであった。


 数日後。ラグマは、いよいよ魔動騎士選抜試験に挑もうとしていた。帝都ヴェノールの北端に位置する皇城、その東翼に設けられた閲兵場が、試験会場に指定されていた。

 ギルラゼア帝国の首都、帝都ヴェノールは、帝国領土内のほぼ中央に位置している。元々は、初代皇帝であるレオン帝がリヴィル分裂戦争(ギルラゼア史上では建国戦争と呼ばれているが)時に拠点としていた地方都市であったが、帝都となってからは時代を追うごとに発展を続けていた。第2代レグラン帝の時代に築かれた一辺3kmの城壁も、第3代ルフェイン帝の治世晩年には都市発展の足枷になってしまい、北壁を除いて撤去された。現在、帝都の市域は皇城を北端として概ね一辺5km程度にまで拡大しているが、近年はヴァフォースの侵攻により北部からの難民が多く流入しており、難民の一時居住区が市域を南西に押し拡げつつある。ラグマが暮らしているフェンザ家は市域北東部、帝都駐留の騎士が多く住むエリアにあった。


 会場入口である皇城東門前には、受験者たちが列をなしており、ラグマもその中に並んでいた。受験者たちの殆どは若く、ラグマと同じ年代の少年・少女が多かった。これは、魔動騎士選抜試験の年齢制限である18歳になるとすぐに受験する者が多いためだった。現在、帝国が置かれている状況を考えれば、義勇の士数多、という理由もあるが、それとは別に、給金目当ての者も少なからずいた。戦場の主役であり、国軍力の要となる魔動騎士は、当然ながらその待遇も破格であった。己の生まれ持ったマーグ力一つで庶民には絶対に手の届かない高給を食めるチャンスに、多くの若者が挑むのは、これもまた当然と言えた。

(百人は下らないな・・・この中で何人受かるんだろう・・・)

受験者たちは、入口の係官に申込書を渡し、代わりに番号札を受け取ると、次々と会場へ入っていく。列に並んでから20分ほど後、ラグマも会場入口へたどり着いた。申込書を受け取った係官は、素早く記入事項に目を走らせていたが、ふと顔を上げ、驚いた表情を浮かべながら尋ねた。

「ハルシーザ出身で・・・保護者がクレア=フェンザ・・・?君は、ガトゥール=フェンザ殿の・・・?」

ラグマは、ガトゥールの名が出たことを不思議に思いながら、返答した。

「はい、姓は違いますが、ガトゥール=フェンザは養父でした。父をご存知なんですか?」

「あぁ!やっぱりそうか!ご存知もご存知、フェンザ殿にはずいぶんお世話になったもんだよ。フェンザ殿が帝都守備隊の中隊長だった頃の話だがね。・・・ガレンスで戦死なさってからもう2年になるか・・・しかし、そうか、君がフェンザ殿の御遺志を継ごうというのか。喜ばしい話だ!幸運と健闘を祈っているよ!」

そういうと、係官はラグマの手を力強く握り、彼を送り出した。ラグマは、意外な出会いに驚きながらも、亡き養父が自分の挑戦を応援してくれているような心強さを感じていた。


 試験会場である皇城東翼の閲兵場は、概ね一辺500mほど、石造りの壁で仕切られた区画で、普段は魔動騎士叙任式や、魔動戦機部隊の出陣式などで使用されている。そこへ整列した受験者たちの前に、簡素な演台が設えてあった。木製で、高さは1.5mもない程度だ。と、演台の斜め後方の石壁にあった扉が開き、背の高い男が現れた。彼はマントを揺らしながら悠然と演台へ歩み寄る。受験者たちは、その男が現れた途端に他の係官が表情を引き締めて一斉に姿勢を正し、敬礼――右肘を曲げて腹の前で拳を握る――をしたことで、彼が高位の騎士であることを理解していた。男の髪は八割方が白髪で、少なくとも50代後半に見えるが、鋭い眼光とがっしりとした体躯は、老いというものを感じさせない迫力をまとっていた。彼は、ゆっくりと演台に登り、居並ぶ受験者たちにぐるりと視線を巡らせた後、受験者たちの誰もが目を瞠るほどの大音声を発した。

「諸君!私は、ギルラゼア帝国軍総司令、ガルス=ヴァルフィリットである!」

最初はその声の大きさに驚いていた受験者たちであったが、その言葉の意味を彼らが理解した瞬間、別の驚きが彼らの間を走り抜けていった。帝国軍総司令、ガルス=ヴァルフィリット。ギルラゼア帝国において、皇帝の側近中の側近であり、名実ともにNo.2の地位にある男。魔動騎士を志すものならば間違いなく名前は知っているが、あまりにも高位の、雲の上の存在であるがゆえに、実在する人間であるという認識が薄くなってしまうほどの人物である。その人物が、いまだ魔動騎士候補生にすらなっていない自分たちの前に姿を表すなど、思いもよらないことであった。受験者たちのどよめきを制するように、総司令ガルスは言葉を続けた。

「今日、諸君らが魔動騎士たらんとして、この試験会場に集ってきてくれたこと、非常に嬉しく、また頼もしく思う!諸君らも知ってのとおり、現在我が国は、ヴァフォースの義なき侵攻により、建国以来の危機に瀕している!諸君らの中にも、故郷を、家族を、奴らに奪われたものもいよう!」

この言葉に、ラグマを含めかなりの受験者の目に強い光が宿った。やはり、5年に渡るヴァフォースの侵攻は、ギルラゼア国民の多くに拭い難い悲しみと憤りをもたらしており、魔動騎士志願者の数と、その質は、ここ数年で劇的に向上していた。

ガルスはなおも言葉を続ける。

「敵軍は、昨年ついにユーディックを陥れ、侵攻拠点としつつある。もはや残された猶予は幾ばくもない!我々はなんとしてもこの状況を打破し、奪われた我が国の領土を取り戻さねばならない!そしてそれが、無念のうちに生命を散らせた多くの人々の仇を討つことにもつながるのだ!」

力強く、腹の底に響くようなガルスの声は、その登壇自体に驚くばかりだった受験者たちの心を、次第に高揚させつつあった。ガルスは、いったん言葉を切ると、再び受験者たちの顔を見渡したあと、

「そのためには、諸君らの力が必ず必要になる。今回の試験、一人でも多く、優秀な魔動騎士が見出されること期待している!以上だ!」

と、締めくくった。マントを翻し、演台を降りようとするガルスに向けて、受験者たちの間から自然と拍手が沸き起こる。それは、彼が再び石壁の扉の奥に姿を消すまで、うるさいほどに響き続けた。


「すげえぞ!総司令官殿だぞ!本物だよ!」

「直接お言葉を下さるとは!」

受験者たちは興奮気味に言い合っている。たった今起こったことを考えれば無理もないことではあったが、そのざわめきを貫くように、試験係官の声が響いた。

「受験者諸君!静粛に!」

ピタリと、熱を帯びたざわめきが鎮まった。

「気持ちはわからんでもないがな・・・すでにここは試験会場なのだぞ!」

この一言に、受験者たちは己が何をしにここに来たのかを思い出した。自然と皆の背筋が伸びる。

「さぁ、北側の列から順に、向こうの天幕下へ!」

受験者たちの列は先程とはうってかわり、静かに進み始める。

そして、魔動騎士候補生選抜試験が開始された。

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