三杯目のキャラメルマキアート
そんなこんなで私は当日の朝を迎えた。昨日よりもさらに早く起きてバタバタと準備にかられていた。あの後は紫帆の質問攻めとかなり無理くりな洋服提案を何とかこなした。しかし久しぶりにちゃんとした化粧をするので、さすがに綺麗にはしていこうと化粧品まで買ってしまった。別にデートを意識している訳ではないが、若い子の隣でみすぼらしい格好は駄目だろうと改めて感じて洋服選び後に急いで買った。そのお陰でマスターに沢山の買い物袋を見られた挙げ句、綾音ちゃん明日は良いことあるのかなと謎の微笑み攻撃もうけてしまった……。いい大人が付け焼き刃すぎて恥ずかしい…。そんなことを考えながら準備を急いでいるとスマホにぴこんと通知がきた。画面を確認すると彼からあと20分くらいで着きますと連絡がきてしまった。私はヤバいと呟くと、パソコン用のカバンなどをさっと手に取り、階段を急いで駆け降りた。玄関に着くと最後に全身鏡の自分の姿を確認する為に、髪から服など念入りにチェックした。紫帆に髪型も指定されたので言われた通りに高めのポニーテールにし、白いオフショルダーワンピースと淡い水色のレースアップサンダルに小さめのショルダー型のカゴバッグ。さすがにパソコンは必要なので別のバッグにしまった。それを含め持ち物も確認していると後ろから視線を感じた…。リビングから綾女の顔がひょっこりとびだしていた。
「…綾音ちゃん、その格好さ、紫帆ちゃんのチョイスでしょ?」
「……そうだけど、何で?」
綾女は別にーと口では言っているものの顔がニヤニヤしているので、明らかに意味ありげな一言というのが一目瞭然。
「な……何?言いたいことあるならどうぞ。」
「やー、さすが紫帆ちゃん分かってるよねー。私も今度、洋服スタイリングしてもおうっと。」
「…どういう意味……?」
「ん?まぁそういう意味だよ。気をつけてね~。」
私は綾女の言っている事がよく分からないなと思いつつ時間が迫っていたので、いってきますと言いながら日傘を広げその場を後にした。
夏の残暑の日差しはまだまだ強くて、家を出てからしばらく歩いただけで汗が頬をつたった。日傘があってもやはり照り返しは強いし、何よりじめじめしているので体感温度はまだ夏を感じた。なるべく日陰を選んだり、冷気を感じそうな店前を通りながら早歩きで待ち合わせの場所に向かった。走りたい気持ちは山々だが、会う前に化粧がどろどろになるのは避けたいのだ。ふと携帯を確認するとやはり彼から着きましたの通知が来ていた。私も早めに向かうつもりでいたが、彼は待ち合わせの10分前に到着してしまっている。
「もー、本当に律儀だ!」
私はごめん、もうすぐ着くと返信すると早歩きから少しだけ小走りに切り替えた。そして最後の信号を渡り、二つ目の角を曲がり、駅の通りにでると駅前のマップの前にスマホをいじりながら誰かを待っている背の高い男の子が立っていた。見慣れた制服姿ではなく、頭にはキャップを被り、少しオーバーサイズの黒いTシャツ、肩から小さめのショルダーバッグを下げ、わりと細めでタイトなジーンズは彼の足の長さを強調していた。またサンダルもいつもの靴とのギャップがあって新鮮に感じた。
「純也くんっ!はぁ、ご、ごめんね、お待たせ。」
さすがに後半は小走りで急ぎすぎて私は息を荒くしながら彼に声をかけた。すると急に大きめな声で呼ばれたからか、目をまんまるくしながら驚いた様子でこちらを見ていた。
「…………ごめん。ちょっと……急いだら、息が上がっちゃって……驚かせちゃった…よね。」
私は息を何とか整えながら、呆然としている彼に再度謝った。しかし彼からはまさかの一言がとんできた。
「……今日すごく可愛いですね。」
「…………え。」
私は思わず耳を疑った。今、彼は私に何て言った?
「……あ、いつも可愛いんですけどっ!…………今日は?…は失礼か……いつもとまた雰囲気が違って可愛いです。」
彼は言葉を恥ずかしそうに一生懸命選びながら必死に伝えているようだった。そんなことをされると素直に嬉しいけどそれと同時にこちらも恥ずかしい気持ちが高まってしまい、うまく反応ができなかった。そして近くの電話BOXのガラスに映る自分を確認してやはり露出が多すぎているように感じた。紫帆の言葉を鵜呑みにしてしまうくらいお洒落に疎い自分が憎い。
「……綾音さん?すみません……俺、困らせてます…?」
「っ!そんなことないっ!……ただ…自分の格好にコメントもらうことないから…その……ありがとう。」
彼は私の返答を聞いて困ってないなら良かったですとニカッとした。なんか最初の赤面症の彼はどこ行ったんだろうかと思ってしまうほど、最近はだんだん大人びているように感じてしまう。
「…なんかさぁ、純也君ってたまに女性慣れしてる時……あるよね……。」
私は率直に思ったことをぼそっと呟いてしまった。すると彼は久しぶりにあの日の恥ずかしそうに顔を隠す動作をさっとしながら私を見た。
「え……俺、そんな風に思われてるんですか。」
「……っと思ってからのその行動ずるいよねぇ~。それで何人の女の子を惚れさせてるの?罪な子ですね、君は。」
私は騙された~っとふざけていると彼は急に真剣な表情に変わった。
「…………好きな人に好かれなきゃ意味ないです……。」
と、言いながら、彼は手をゆっくり下ろしてまじまじとこちらを見てきた。そのあまりの真っ直ぐな瞳にドキっとしてしまった。たまに見せるその目は心臓が痛くなるからやめて欲しい。
「あー!電車の時間もうすぐだから行こう!」
私はこの何ともいえない雰囲気を断ち切りたくて、わざと大袈裟に声を張り駅に向かった。彼もそうですねと私に続いて歩き始めたので、私は思わずほっと胸を撫で下ろした。
目的地のカフェは電車で20分、徒歩10分の住宅地にひっそりとあるお店だった。炎天下の中で並ぶのは避けたかったので、オープン時間に合わせて向かうことにした。電車に乗っている際にさっきの謎の雰囲気を打破したかったので、私は当たり障りのない天気とか人の混み具合の話をしていた。それに対して彼は返答はしてくれるのだが、若干素っ気ないような感じをかもし出していて私は余計な事を言って怒らせてしまった自分を恨んだ。でもこんな状態のままお店に行くのは避けたいと思い、駅に着いて改札を出る時に自分から話を切り出すことにした。
「純也君……あの…ごめんなさい。もしも気分損なってるなら、行くのやめてもいいよ。」
「え?」
急に足を止めて私の発言にかなり驚いているようだった……。
「…たぶん、乗り気じゃなくなってるよね?そんな感じにさせちゃったのは私だけど……。気を悪くさせちゃってごめんね。だから――」
と、私は帰ろうかと言おうとしたが、彼はその場で頭を抱えながらしゃがみこんだ。そしてそこそこの声であーと叫び始めたのだ。私はその彼の行動に一瞬驚き、どうしていいから分からずわたわたすると彼はばっとこっちを見て話してきた。
「綾音さん、ガキっぽいことしてすみません。」
そう言いながら頭を下げてきたので、私は思わず慌てて自分もしゃがんだ。
「ちょっ、と、待って。違うよ。私が意地悪な事、言っちゃったから……。」
「あっ、ダメです!」
「えっ。……っ!」
彼は何故か逆に急に立ち上がり、私の腕を掴みしゃがんだ私を引っ張りあげた。まさかの行動に私は慣れない靴のせいかよろけてしまい、彼の胸に思いっきり飛び込んでしまった。お互いまさかの状態が起こり、すぐに離れて距離をとった。
「す、すみませんっ!せっかくの洋服が汚れるかと思って……つい引っ張ってしまって!」
「うぅん!私こそごめんねっ!普段こんな靴履かないから慣れてなくて……。」
「……それ、今日の為に用意してくれたんですか……?」
私はつい出た自分の言葉にしまったと思い口を手で抑えた。これではまるで今日を楽しみにして準備してきたみたいに思われてしまうではないか。
「ち、がくはないけど違う……。そう、つまり違う。」
私は意味不明な発言に語彙力低いなと落胆していると彼は何故か急に声を出して笑い始めた。私は笑われると思わなかったのでどうしていいか分からず立ちすくんでいるとしばらくして落ち着いた彼がはぁー深い息を吐いた。するとこちらを見てニカッと笑い、私の手首を掴んで店の方向に歩き始めた。
「えっ、しゅ、純也君?」
「すみません。綾音さんの邪魔しないって言ってたのに…行きましょう。こっちであってますよね?」
「……え…あ、うん。」
「綾音さん、ありがとうございます。」
「……?」
私は彼の謎の感謝に首をかしげると分からなくていいですよと言われてしまい、つっこめずにただ彼に導かれるまま歩いた。
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しばらく道なり歩くと目的のカフェが現れた。オープン10分前だが少しだけ人が並んでいた。そのまま列の最後尾に着くと彼は何も言わずに手を離し、近くに置いてあったメニューを開き始めた。
「綾音さんは何を頼むか決まってるんですか?」
「あー、それがちょっと悩んでて……。」
私はそう言いながらスマホでSNSの写真を彼に見せた。
「実はここのお店キャラメルマキアートが人気なんだけど、ホットサンドとチーズケーキもよく投稿されてて、あとはパンケーキも気になる…ただ全部頼むとなかなかヘビーだなって思って……。飲み物はアイスコーヒーにしたいのもあるんだけどさ。」
すると彼は微笑みながら自分を指差した。
「俺がいるから大丈夫ですよ。シェアしましょう。」
「え、でも自分の好きな物食べなよ。」
「全部好きです。だから、そうしましょう。」
そんなことを話しているとお店の店員さんが、店内の案内を始めた。店内はエアコンが効いていてとても涼しかった。そして席に着くと冷たい水を置き、お決まりでしたら伺いますと言われた。私が何か発するのを彼はわざと遮り、私が気になっていたメニューをすべて頼んだ。店員さんは復唱し確認すると去っていった。
「……ねぇ、本当に良かったの?」
「はい。綾音さん気にせずパソコンも出してください。」
そういうと肩から下げた小さいショルダーバッグから小説を取り出した。
「勝手に読書してるんで気にしないで下さい。」
それから彼は本当に黙々と本を読んでいた。料理がきて私が写真を撮り、各々のお皿に分けるとありがとうございますと言い食べていた。私はその間、写真を撮る、食べる、入力するをひたすら繰り返していた。お互いに時々お手洗いに行くことはあったが、その時でさえ特に何か会話を挟むわけでもなくそれぞれ過ごして時間が経っていた。さすがに昼過ぎになると混みあってきたので席を空ける時間かなと思い、保存してパソコンを閉じた。それに彼も気付き、読んでいた本を同じく閉じた。
「終わりました?」
「うん。一旦大丈夫かな。さすがにこれ以上はお店の人にご迷惑だから……お店出る前にお手洗いに行っていいかな?」
そう言うと、どうぞと言われたので私は席を立った。ついでに化粧も直そうと思いバッグも持っていった。駅に着いたときはどうなるかと思ったけど、穏やかに過ごせて良かった…。手を洗い、リップなどをつけ直して席に戻ろうとすると何故かすでに私のパソコンと日傘を持って彼が入り口に立っていた。そして彼は私に気付くと行きましょうと扉を開けた。その行動にもしかしてと後に続いて外に出た瞬間、彼のTシャツをぐいっと引っ張った。
「ね!駄目だよ。私の我が儘で頼んだんだから私が払う!」
「そう言うと思いました。でも今日はダメです。」
「……何で?」
「俺が勝手に付いてきたし、今日の朝変な空気にしたし、あとバイト代が夏休みで多くもらえたからです。」
私がでも…と言いかけると彼はじゃあこうしましょうと話を遮った。
「次一緒に行く時は綾音さんがご馳走してください。」
彼はまさかのしれっと次の約束をしてきた。その提案に私がどうしようか戸惑っていると彼はすっと私に小指を出してきた。
「はい。指切りしましょう。」
「……純也君って意外と強引だよね。」
「今さら気付いたんですか?遅いですよ。」
彼はそう言いつつニコニコしながら、さらに小指を近づけてきた。私もクスリと笑いながら彼とゆびきりをした。
その後はすぐに帰宅するのには早すぎたので、近くにある本屋に寄ったり、さっきのカフェの内容をまとめあげるのにまたチェーン店のカフェに行った。黙々と私が作業している間、彼は変わらず静かにスマホを見たり、小説を読んでいた。せっかくの休みがこんなんでいいのかなと若干心配したが、だんだん彼の存在が言い意味で空気のようになり気付いたら夜になっていた。
「……さすがにそろそろ帰ろうか。」
私が伸びをしながら言うとそうですねと彼も小説を片し始めた。駅に向かうと昼間にはいなかった人集りができていたので、私が何だろうと疑問に思っていると
「綾音さん、この近くでイベントがあってそれに向かう人が集まってるみたいです。」
彼はスマホで調べた情報を私に伝えてきた。私はやらかしたなと思いつつ、とりあえずホームに向かおうかと彼と駅の改札を抜けた。かなりの人混みだったがこれが落ち着くのを待ってからでは高校生の彼の帰宅が遅くなってしまうので、無理にでも乗らなくてはとぎゅうぎゅうの人で溢れたホームの中、電車を待つことにした。すると急に駅にアナウンスが流れてきた。
『いつもご利用いただきありがとうございます。今日はイベント開催の為、快速電車は全て各停に切り換えて運行しております――――――』
「えぇー、ごめんね純也君。親御さんに連絡いれた?」
「あ、はい。大丈夫です。気にしないで下さい。」
しばらくすると電車の到着のアナウンスが鳴り、中もぎゅうぎゅうしてそうな電車が到着した。そして扉が一斉に開くと人がなだれ込んできた。通勤ラッシュのような状態に二人でとりあえず電車を乗ろうと並んでた列の人に続いた。しかし想像よりも人が多く必然的に扉と彼に挟まれ、またしてもぴったりくっつく羽目になってしまった。緊急事態といえど昼間のこともあり、私はだんだんと心臓がバクバクしてきてしまった。心の中でなんで今日はハプニングだらけなのと思いながら、彼になるべく近づかないようにしようとした瞬間、電車がガタンと大きく揺れた。そのいきおいでまたしても彼の胸の中にすっぽりハマる羽目になった。
「ご、ごめんっ!」
「綾音さん、危ないからそのままで居てください。」
そう言うと彼は私の背中を軽く支えた。私は触れたところが気になって背筋がピンと伸びた。いつも以上に近くにいる彼は学生だけどしっかり男の人と感じる身体をしていた。最近まで運動をしてただけあって、無駄のない筋肉質な身体なのが手から伝わってくる。それが一段と緊張を誘っているのは間違えない。こんな状態があとどれくらい続いてしまうのだろうか……。
「綾音さん。」
急に頭の上から声がしたのでそっちのほうへ顔を向けた。
「っ!」
そっちに顔をあげるとかなりの近さに彼の顔があった。いつもだったらこんなに近いことがないくらいの身長差のはずだが、自分の靴のヒールのせいでグッと彼の高さに近づいてしまったようだ。彼もまさかの距離だったのか数秒目があつった後に顔を背け、つられて私もほぼ同時に顔を下に伏せた。
「な……何?」
私は自分の声が震えている気がして恥ずかしくなった。
「……あの、汗沢山かいたんで汗臭かったからすみません。」
「……うぅん。平気だよ。良い匂い。」
「………………え。」
「…………え。」
私は何を言ってるんだと顔が熱くなった。そしてごめん、けっして変態じゃないよっ、と小声で謝った。今日は謝ってばっかりだな……。
「……ふふ。」
「……今、笑ったでしょ。」
「だって変態なんて思ってないのに勝手に綾音さんが自己完結するから。」
彼がクスクス笑うのでそれまで恥ずかしかったのに、私もなんだか少し可笑しくなってつられて笑った。そのおかげで少し緊張もほぐれたので良かったと思いながら、そのまま駅を目指した。
満員電車の時間が終わり、なんとか最初の待ち合わせ場所にたどり着いた。ただやはり帰りは体力的より精神的に疲れたような気がする。
「今日は本当にごめんね。」
私は手を合わせて本日最後の謝罪をした。
「全然大丈夫です。楽しかったです。まー……じゃあ、帰りましょうっか、送ります。」
「え、いいよ。それより純也君こそ帰らないと。」
「ダメですよ。さっ、行きましょう。」
そう言うと彼は自宅にあるほうへ歩き始めた。私もそんな彼に観念して歩き始めた。さっきの緊張感から解放されたからか、お互いに色々な話をしたので行きよりも早く時間が過ぎたように感じ、あっという間に家の前に着いた。
「今日は本当にありがとう。久しぶりに誰かと出掛けられてすごい気分転換になった。」
「俺も一緒に過ごせて楽しかったです。」
彼はクスクスしながら嬉しそうに答えた。さっきの電車の中での笑い方と同じだったので、少しその時を思い出してしまい心がまたざわめき始めた。そしてそれを隠すかのように私はまたちゃかした感じで話を始めてしまった。
「えー、本当に?結構退屈じゃなかった?あんま無理しなくていいよ。昔彼氏に一緒にいてつまらないって言われたことあるから……。」
とっさの返答に彼は急に真顔になった。
「…………元カレですか……?」
唐突な質問に私は少し言い淀んだ。別に深い意味があって話したわけではないのだが、何故か悪いことをしてしまった気がした。
「…………えっと、うん。そう……。まぁ、しょうがないよね。昔から好きなことには没頭しすぎちゃうところがあって…。でも今は好きなことを仕事にできてるから全然平気なんだけどさ。」
私はあははと笑いながら話すと彼は複雑そうな顔をしていた。
「純也君…どうしたの……?」
「どうして……俺が今日一緒に行ったか……綾音さんは分かってます?」
「……え。」
「それに何で俺が朝少し不機嫌になったのか……気付いてないですよね?」
急な質問責めに私は何と答えていいか分からずたじろいでしまった。そんな私を見て何を思ったのか彼は、はぁーと溜め息をつきながら軽く頭をかいた。
「お店に毎週行ってるのも理由があるんです。分からないですか……?」
「それは…………珈琲が好きだからって――」
「珈琲だけじゃないです。」
「…………え。」
「綾音さんが、好きだからです。」
私は彼の言葉が何かの聞き間違えなのではないかと耳を疑い、その場で黙ってしまった。だけど彼はあの瞳を真っ直ぐ私に向けて、さらに街灯に照らされた彼の顔は赤くなってた…。
「…………俺の事、弟的な位置になってるのがすげぇ嫌なんですよ。……だから……男として意識して下さい。」
「…………え……いや、それは……。」
「今日はありがとうございました。明日からまたお仕事頑張って下さいね。おやすみなさい。」
彼は私の話を遮り、そう言い残して立ち去ってしまった。私は急な展開にしばらくそこから動きだすことができなかった。