緊張と癒しの紅茶
クリスマスを越えてしまうと世の中はあっという間に時間が過ぎ去ってしまい、ドキドキの大晦日になってしまっていた。私は入念に当日までの間、色々と準備をしてきたのだが、何回も不安が募り、彼が迎えに来てくれるまでずっと自分の部屋で持ち物を整頓していた。
「……考えれば考えるほど、私は大丈夫なのか分からなくなる……。」
私は目の前の荷物にポツリと呟いてから、カーペットで一人うずくまりながら頭を抱えた。かれこれ恋人と過ごすなんて何年もしてないし、ましてや恋人らしいこともしてきてない。遠い記憶の自分を思い出したくても全然出てきやしない。私は本当に彼氏がいた時代があったのか怪しいくらい。
「綾音ちゃん、もっと自信もったら?」
急に話しかけられた私はその声がするほうへ勢いよく振り返った。開けっ放しの扉の向こうであきれた顔をした綾女が腕を組ながらこちらを見下ろしていた。
「綾音ちゃん、さっきから何回荷物確認するの?」
「う……。」
自分の行動を妹に指摘されるのはかなり恥ずかしいものだなと思い、バッグのチャックをいそいそと閉めた。
「……綾女は?友達はまだ来ないの?」
「私達は一旦外で遊んでからだから、あとちょっとしたら家でるよ。」
「……約束、ちゃんと守りなさいよ?」
「分かってるよ~。」
「あと何かあったら必ず電話を…………。」
私が話を続けようとすると自宅のインターフォンが鳴り響いた。私はその音が聞こえた瞬間に身体がガチッと固まった。
「……………………。」
「……………………。」
「…………いや、綾音ちゃん、行きなよ。」
「え。」
「……それとも私はイチャイチャしながら家を出る二人を送り出したほうが…………。」
「いえ‼️行かせてもらいます‼️」
私は準備してあった上着を羽織り、マフラーを巻いて荷物を持って玄関へ小走りに向かった。私の背中に綾女からいってらしゃいと声をかけられたが、声の雰囲気的に振り返らないほうが良さそうだったので、そのまま急いで向かった。私は慌てながらブーツを履き、玄関の鍵を開けて、いきおいよく扉を開けた。
「……ぅおっ‼️」
勢いよく開いた扉に驚いたのか彼はかなり驚いた様子で立っていた。
「ご、ごめんね‼️」
「あ、いや、待ち合わせより早かったし……。」
そう言われて玄関にあった置時計を見てみると、確かに30分くらい早かった。
「…………待ちきれなくなっちゃって……。」
「へ?」
「……早く……会いたくなって……。」
「…………っ‼️」
「あ、荷物持ちますよ!」
「あり……がとう。」
私は荷物を渡すと恥ずかしくなってマフラーで顔を隠しながら彼の背中を追いかけた。
冬の夜道は空気が寒いだけでなく澄んでいて、さっきまでバタバタしていた私にはちょうど良い気温に感じた。
「はぁ~、今日もなかなか寒いですね。」
「…………だね。」
正直あまり寒くはなかったが、普通に考えたら真冬なのだから彼の反応が正しいのだろうと思い、軽く共感をしておいた。
「綾音さんは年越しに見る番組決まってますか?」
「えー、無難に音楽番組かなぁ。」
「そうなんすね、俺は毎回お笑い番組を見て、カウントダウン忘れちゃうんですよね。」
「あぁ、あの番組ってカウントダウンしないもんね。」
「まぁ年を越したって実感が欲しい訳でもないのでいいんですけどね。」
「え、そうなの?高校生の時って、みんな一斉に明けましておめでとうってしない?」
「そうなんですか?俺の周りは大晦日気にしないで、寝正月も多いですよ?」
「えぇ……。」
私は時代的にそういうものなのか、はたまた彼の周りだけなのかと考えながらただ純粋に驚いた。
「……でも今年はちゃんと実感しますよ?」
そういうと彼は優しく微笑みながら、荷物を持っていない手を伸ばし私と手を繋いできた。あの出会った時のあどけなさを残しながらも、彼はだんだんと大人になりつつある。私はその繋がれた手を見つめながら少し嬉しいような寂しい気持ちになった。
「そういえば母が、年越し蕎麦とお雑煮の準備してくれたので、二人で用意して一緒に食べましょうね。」
「そう、なの?……うわ~新年の挨拶の時にお礼しなきゃ~。」
「一応、お酒もありましたよ?」
「………………それはさすがにやめときます。」
私は前回の自分の失態を思いだし、首を横に降りながらそう答えると、彼は気にしなくて良いのにと言いながら歩き続けた。話しながら向かうと時間が過ぎるのが早く感じ、あっという間に彼の実家に着いてしまった。
「どうぞ。」
「……お邪魔します…………。」
少し前に来たばかりなのに、今日は彼だけしかいないと思うとこの間とはまた違う緊張を感じた。彼に案内されるままリビングに入ると、部屋を暖めておいてくれたらしく、寒さを感じることなく上着を脱げた。
「綾音さん、上着と荷物を俺の部屋に置いてくるので、全部預かります。」
「あ、うん、ありがとう。」
(いきなり部屋じゃないのは少し緊張しなくてすむかも……)
私は言われた通り脱いだ上着とマフラーを彼に渡すと、テレビつけるのでソファに座っててくださいと言いながら階段を登っていった。彼を見送った後、私はソファに座り少しだけ一息ついた。テレビは先ほど話していたお笑い番組になっていた。しばらくすると階段を降りてくる彼の足音が聞こえたので、私は髪の毛を手ぐしで軽く直しながら待った。
「綾音さん、お茶飲みますか?」
「ありがとう。」
「兄が綾音さん喜ぶかなって、海外の有名な紅茶の茶葉用意してくれたんですけど……。」
「え‼️わざわざ?」
「はい、友達に教えて貰ったって言ってました。」
「……そうな……はっ‼️」
私は紅茶の話を聞いて自分の荷物の中に手土産を入れたままなのを今思い出して、ソファから立ち上がって彼のほうに身体を向けた。
「ど、どうしました?」
「ごめん、荷物に手土産のクッキーの詰め合わせが入ってるのすっかり忘れてた‼️」
「あ、そうなんですか、開けていいなら取ってきますけど、どうしますか?」
「じゃあ、お願いします……お茶私が準備進めてるよ。」
彼に私はそうと言うと、分かりましたと言って小走りで階段に向かい、階段を駆け上がっていった。彼がリビングを出た後、私はキッチンに向かい、ポットにお湯をはり、茶葉の入った袋をハサミで開けた。開けた瞬間に芳醇な茶葉の香りがして心が弾んだ。
「これ気になってたけど、お値段的にも買えなかったやつだ……幸せ~。」
私は独り言を呟きながらスーッとまた香りをかいだ。
「……お、お待たせしました。」
私が茶葉の香りに酔いしれていると、彼がしどろもどろしながらリビングに戻ってきた。
「ありがとう…………どうかした?」
「…………っえ‼️、いや、なにも‼️」
「…………そう。」
「これ美味しそうですね‼️クッキー‼️」
「それ美味しいからおすすめだよ。」
「あ、へぇ~‼️じゃ、じゃあ紅茶と一緒に食べましょう‼️」
彼はやたらと元気よくそう言いながら、キッチンでクッキー缶を開け始めた。
「色んな味があるけどチョコレートのやつが一番おすすめかな~……チョコレートは好き?」
「す、好きですよ。」
「…………?」
「あ、夜に響かないように少なめにお皿に出しますね。」
彼はそう言いながらパパっとお皿に何種類か出すと、ソファの近くのテーブルに運んでいった。何となく目が合わないような気がするのは気のせいだろうか。
「あと、俺、お風呂ためてくるので、お茶、任せちゃってもいいですか?」
「う、うん、ありがとう。」
「寒いからちゃんと温まらないとですね‼️」
彼は軽くハハッと笑いながらリビングを出ていった。私は変なのと思いながら、キッチンタイマーをセットして、またティーポットからの香りに一人酔いしれた。
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お茶を飲みながら雑談やテレビ番組を見ながら二人で楽しく過ごしているとお風呂のお湯がたまるメロディが鳴った。
「綾音さん、先に入ってください。」
「え、いや、純也君どうぞ。」
「俺、最後に湯船掃除しないと母親に怒られるので。」
「…………そう?じゃあ、お言葉に甘えて……あ、荷物取りに行きたいから一回お部屋にお邪魔してもいい?」
「……っそ、そうですよね⁉️すみません、気がつかなくて……案内しますね。」
私はお願いしますと言いながら彼についていった。彼は行く道中にある風呂場の案内をした後、そのまま階段を上がり、一番突き当たりの部屋の扉を開けて私を中へ促した。
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
彼の部屋に入ると壁には好きなアーティストのポスターが貼ってあったり、勉強机の棚には、電車の本などがずらりと並んでいた。また音楽も沢山聴くのか部屋の隅の棚にはCDやライヴDVDなども並んでいた。全体的に紺色で統一しているらしく、とても落ち着いた印象で男の子というより男性らしい部屋になっていた。
「………………なんか、意外とシンプル。」
「え⁉️」
私の素直な感想に彼はかなり驚いていた。
「ど、どんな部屋を想像してたんですか⁉️」
「え、いや~なんだろう?分からないけど、男子高校生ってもっとはっちゃっけてるかと……。」
「……綾音さんの男子高校生のイメージ、小学生みたいな感じがするんですけど……。」
「失礼なっ‼️」
「……とりあえず、荷物はここにあるので。あと俺はまたリビングでテレビ見てるのでゆっくり入ってきてください。」
そう言うと彼はまたリビングに戻っていったので、私は必要な物を準備し、お風呂場へと向かった。




