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目覚めのお冷や

 「本当にごめんなさい……。」

 母より先に目が覚めて、時間が経ったからか酔いが覚めきった綾音さんは、正座しながら謝り始めた。

「いやいや、綾音さんいて助かりましたよ……?な、純也?」

 兄貴にそう言われて俺は素直に頷いた。

「母さんね、酒ぐせ悪くて、俺達じゃ手におえないのよ……でも今日は綾音さんがいたから、まだよかったって思ってます。」

「で、でも沢山浴びるように飲んだ挙げ句、泥酔、寝てる間に片付けまでやらせるなんて…………大人としてあるまじき…………。」

 綾音さんは日中と同じように顔を手で隠し始めた。

「いやそれを言うなら俺達の母のほうが……だから気にしないで下さい。」

 兄貴はそう言いながらしゃがみ、綾音さんの肩をポンポン叩いた。綾音さんは顔をあげると恥ずかしそうにありがとうございますと小さい声で言った。それを確認して兄貴はうんうんと頷きながらゆっくり立ち上がった。

「まぁ!じゃあ!綾音さんは純也に送ってもらって、気をつけて帰ってください!」

「そうだね……行きましょう、綾音さん。」

「はい……。」

 俺達は兄貴に言われた通りに身支度を始め、玄関に向かい、玄関の扉を開けて外に出た。すると風が少し吹いているようでより一層寒さを肌で感じた。

「さっむいっすね?」

「……うん。」

「風邪引かないように気を付けないとですね。」

「……うん。」

「……………大丈夫……っすか?」

「……はぁぁ……。」

「綾音さん?」

「…………私、本当に、大丈夫?」

 綾音さんはよっぽど不安なのか、またマフラーで顔を隠しながら俺に確認してきた。

「大丈夫っすよ。」

「……本当に?お世辞じゃなくて?」

「お世辞じゃなくて。」

 綾音さんはそうと言いながらも全く納得してない顔をしていた。これは何を言っても納得しないんだろうなと思い、綾音さんの手をとり、そのまま手を繋いだ。

「ありがとうございました。」

「……え?なに、いきなり。」

「あんなに母の本音が見えたの初めてでした。」

「………………。」

「たぶん、綾音さんに心ひらいたから、あんなに色々ぶっちゃっけたんだと思います……だから、ありがとうございました。」

「わ、私は全然!ただ、お酒を飲んだだけで……ごめん。」

「もー、はい‼️もう謝るのおしまいっ!」

 俺はそう言いながら、綾音さんの両頬を自分の両手でぐにっと挟んだ。綾音さんは目を丸くしながら、俺を見つめていた。

「まだ謝るつもりなら、その口チューしてふさぎますよ?」

「…………っ!」

「別に俺はそれでも構いませんけど。」

 俺の発言を聞くなり、綾音さんは俺の手からパッと離れて分かりましたと言いながら後ずさった。

「………そんなに嫌がられるのは地味にショックすね。」

「ち、違っ‼️……だって…………。」

「なんすか。」

「…………お酒臭いから……。」

「え、あはは‼️それが理由⁉️」

 俺は可愛いなと思いながら腹を抱えて笑った。すると綾音さんはまた恥ずかしそうにマフラーに顔を埋めながらそんなに笑うことじゃないでしょと言いながら歩き始めた。俺は待ってくださいよと言いながら、軽く走りながら追いかけて彼女の手をまた握った。

「綾音さんって、意外と乙女なんですね。」

「普通でしょ、何その乙女なんですねって。」

「可愛い。」

「……可愛いって、言いすぎじゃない?」

「だって俺の彼女、可愛いいんですもん。」

 俺はニコニコしながらそう答えると、綾音さんは恥ずかしそうにまた顔をマフラーに埋めてしまった。



 ――――――――――――――――――――


「……ねぇ、志帆~これはやりすぎだって……。」

 私は試着室の中からカーテンの向こうにいるまだなのと言いながら、ずっと立ち尽くしてる親友に声をかけた。

「もぉさあ、絶対にそんなことないし、綾音の今の下着なんてどうせボンロボロのベッロベロでしょ⁉️」

「ひ、ひどっ‼️そこまでじゃないよ‼️」

「どうせ毛玉がスゴいやつか、綿素材のおばあちゃんみたいなやつに違いない。」

「な……っ。」

 私はほぼ言われたとおりに自分の下着達がそんな状態すぎて戸惑いを隠せなかった。

「……で、着た⁉️まだ下着しか見てないんだからさ‼️」

「……………………ぅう、着てますよぉ……。」

「あぁ‼️もう‼️メンドクサイ‼️」

 そう言うと志帆は靴を脱いで、カーテンの隙間から試着室の中に急に入り込んできた。私はまさかの行動にぎゃっと叫びながら、身体を思わず隠した。それを見た志帆はすでに風呂まで一緒に入った仲なのに今さら隠したってと呆れながらこちらを仁王立ちしながら見てきた。

「……やっ、やっぱ布面積少なくない⁉️」

「それの何が問題なのよ?」

「なんか、気合い入れすぎて、逆にひかれない⁉️」

「は?初めての夜…………でもないけど、初めての日になりうる可能性があるのに準備しないやついる⁉️いないわ‼️」

「何その最近流行った決め台詞みたいな返し‼️」

「じゃかぁしぃわ‼️」

 志帆はそう言いながら私の唇を思いっきりつまんだ。

「んんっ⁉️」

「大体あっちはピッチピッチの元水泳男子だぞ?肌だって絶対にスベスベのスルスルだぞ⁉️」

「…………っぷは‼️そりゃそうだけど……。」

「肌触りがいいやつで、可愛い下着じゃなきゃダメに決まっとるでしょーが‼️」

 志帆はそう言いながら私の頭を軽くチョップした。

「~~~~うぅ、これは絶対にやりすぎな気がする……。」

「じゃあ、あっちにあった紐ブラとレースのTバックに…………。」

「っこ、これにします‼️」

「うん、よろしいよろしい、さぁ次はパジャマ見に行くから、着替えて次行くよ‼️」

 そう言いながら志帆は意気揚々と試着室を出たのを見送りながら、私は再度鏡の自分と見つめ合い、小さくため息をした。

 下着の店を出ると志帆に誘導されるまま、よく雑誌やテレビで見たことがある部屋着専門店に到着した。私の人生でここに足を踏み入れる日が来ようとは、考えたことも思ったこともなかった。

「……志帆、なるべく、なるべくでいいからシンプルに……。」

「もう~しつこいなぁ~、わかったから!」

「分かってないから言ってるんだよぉ。」

 私は小声で一言ボソッとつぶやいた。

「ん?何か言いました?」

「……いえ、何も。」

 私達が店舗の中に足を踏み入れると、キラキラとした綺麗な女の子達がいらっしゃいませと言ってきた。私はなるべく志帆から離れないようにしようと、ピタッと側にくっついて歩いた。

「ん~~、やっぱ綾音は優しい黄色とか水色がいいと思うんだけどなぁ~、あ!いっそペアで買う⁉️」

「は⁉️冗談やめて‼️」

 私は志帆を軽く睨み付けながら、肩をべしっと叩いた。彼女もさすがに言いすぎたと思ったのか、ごめんごめんと言いながら他の商品を手に取った。私は少し離れた場所に気持ち良さそうなアイマスクがあったので、それを手に取って触り心地を試してみた。仕事的に夜勤とかもあっておかしくないから、プレゼントに良いかもとタグの金額を確認しながら考えていると後ろから誰かが近づいてくるのを感じた。

「こんにちは。」

 若々しい声に私は店員さんだろうと声がするほうに振り返った。 

「あの、これってラッピング……。」

 私は振り返りながらプレゼント用の包装について聞こうとしたら、声をかけてきたのは店員さんではなかった。あの水族館で会った女の子、純也君の同級生であり、部活の元マネージャー。清水葵ちゃんだ。

「……こ、こんにちは。」

「店員じゃなくて、すみません。」

「あ……うぅん!私が勝手に勘違いしただけだから!」

「あの、10分くらいだけ話せませんか?」

「……え……っと……。」

「行ってくれば?」

 私が返答に困っていると、いつの間にか志帆が戻ってきてそう言ってきた。

「なんとなく察したわ、綾音もスッキリしたほうがいいよ、私が選んどくから。」

「…………あの、シンプルね?」

「わかった、わかった、はい、行ってきな。」

 戸惑う私の背中を軽く押し後、志帆は手を振ってまた商品を見始めた。私はそれを見た後、私を淡々と待っている女の子を見つめ、外出ようかと言いながら店舗を後にした。

 店舗の外を少し歩くと、買い物客が休める休憩用のソファがあったので私はそこに向かった。その近くに自販機があったので、自分用に缶コーヒーを買うことにした。そんな私をよそに彼女は何も言わずにそのソファに腰をかけていた。

「……何、飲む?」

「え、いや、大丈夫です。」

「いいよ、これくらい、何飲みたい?」

「…………じゃあ、水で……。」

 私はボタンを押して、ピピっとスマホで支払うと自販機の下からガコンと出てきた冷たい水を彼女に渡した。

「寒くないの?」

「暖房が強すぎて、暑いです。」

「あぁ、ずっといるとね、確かに……。」

「すみません、いただきます。」

 私も彼女の隣に腰かけて、缶コーヒーをぷしっと開けて一口飲んだ。彼女もそれに続くかのように、ペットボトルの蓋を回し開け、水をゴクゴク飲み始めた。

 しばらく沈黙が続いた。私はなんとなく自分から始めるべきではない気がしたので、そのまましばらくゆっくりコーヒーを飲み続けた。数分経ってやっと彼女が口を開いた。

「……付き合ってるんですね。」

「……………………。」

「彼から嬉しそうに報告されました……。」

「………………そう。」

「………………あの日……すみませんでした。」

「え……。」

 私は彼女のほうに顔を向けると、今にも泣きそうな顔をしながらペットボトルを力強く握りしめていた。

「……あれは…………ただの嫉妬でした……嫌な女ですよね…………。」

「…………。」

「次の日からの中城君、ホントに死んでて……。」

「…………。」

「……私、たぶん、余計なことしたし、自分のことしか考えてなかったです……だから、すみませ……。」

「謝らないで。」

 私は彼女が言いきる前に自らの言葉で遮った。

「……あの時、私は自分で考えて、自分で行動した。」

「…………。」

「たぶん、葵ちゃん?の言葉はキッカケにすぎない……私がちゃんと自分の気持ちに気づけてなかったのが悪い。」

「で、でも……!」

「自分で決めたことは自分で責任とる……だから葵ちゃんは葵ちゃんで、あの日の自分とちゃんと向き合えたならそれでいいんじゃない?」

「~~~~っ!」

 彼女は何か言いたそうにしながらもやめて下を向いた。私の言葉で小さくなった女の子をしばらく見つめ、その背中を優しくさすった。

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