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思い出のビール

「おいっ!綾音ちゃんっ!まだ飲めるだろ!?」

「はい!もちろんです!」

 女性陣2人はお酒が入って、テンションがマックスになりつつあった。俺は仲良くなれるのはいいが先々不安だなと思いながら2人をただ眺めていた。

「純也、綾音さんもなかなか飲むね?」

 そういう兄貴もその手に持ったビール缶は何本目だと突っ込みたくなったが、そこは言葉を飲み込み、そうだねとだけ答えた。

「綾音さん、明るくていい人だな。」

「うん。」

「付き合えて良かったじゃん。」

 兄貴はそう言うと、肘でグリグリしてきた。

「やめやめっ、いってぇよ。」

「あはは、母さんもあんなくだけてるの久しぶりに見たな。」

「あー、確かに。」

「酒の力は偉大なり、かんぱい。」

「なんだよそれ、かんぱい。」

 俺は兄貴の持ったビール缶に自分のコーラ缶をカツンとぶつけた。

「あ、綾音ちゃん!2人の小さい頃のアルバム見ない?!」

「え!見たいですー!」

『え?』

 俺と兄貴は2人で母さんの言葉に固まった。

「いや~、見ても大して面白くないし……。」

 兄貴は苦笑いしながら止めようとしたが、それを酔っ払った母がキッと睨んできた。

「あぁ??母親が見せたいって言って、綾音ちゃんが見たいって言うんだから、持ってくればいいんだよ!」

「……はぃ。」

 兄貴は嫌そうに2階の部屋へ上がって行った。

「綾音ちゃんはぁ?2人姉妹?」

「はい、そうです。」

「いいなぁ~、私ね、産まれる直前まで純也が女の子って聞いててね。」

「へ~。」

「だから、色々夢を膨らませてたのよ?髪を伸ばして~、ワンピースふりふりにして~って。」

「悪かったな、男で。」

「あはは、まぁ結果男2人も楽しかったからいいんだけどね……。」

 母さんはそう言うと残りのビールを一気に飲み干した。ちょうど話終わる頃に兄貴が大量のアルバムを持って降りてきた。

「ほら、持ってきたよ。」

「よし!よくやった!誉めてつかわす!」

 テンションが高い母は兄貴の頭をグシャグシャと撫でていた。

「はいはい、分かったよ、皐月ちゃん。」

 兄貴は髪の毛を直しながらため息をついた。

「よし!ついでに兄弟2人でビールを追加してこい!」

 母はそう言うと玄関に指をさし、さぁゆけと叫んだ。

『……はぁ?』

「宜しくお願いします!」

 何故か綾音さんもこちらに敬礼していた。

「いやもう止めときなって……母さんに関しては明日はもう新幹線で………。」

 呆れながら兄貴がそう言うと、母は鬼の形相をしていた。

「あぁ?じゃあ、いいや、女子2人で手繋ぎながら行くからぁ!」

「……わかりました、いきます。」

 俺は誰よりも早くそう返答した。この2人じゃ店で何かやらかすか、帰ってこれなくなるかが目に見える。

「はぁ、いいよ。純也も家にいれば?俺、台車持って少し先のスーパー行くよ。」

「えぇ、いいよ、俺も一緒に……。」

 俺が一緒に行くよと言いかけると、綾音さんがガシッと腕を掴んできた。俺は突然のことで心臓がドキッとして、掴まれた腕越しに彼女を見た。

「へへ、ここにいよぉ?」

「………………っ!」

 頬を赤く染めながら上目遣いで甘えてくる彼女に俺は動揺して、返事ができずただ見つめてしまった。最早、可愛いを通り越してエロすぎると思ってしまうのは、俺が盲目状態なのだろうか。お酒の力って恐ろしい。

「よし、綾音ちゃんがお願いしてんだから、純也は家で待機!」

 母は俺のことなんかお構いなしにケタケタ笑いながらそう言ってきた。兄貴はやれやれという顔をしながら、いってきまーすと言いながら玄関にむかった。俺はさすがに見送りくらいはしようと、綾音さんにすぐ戻ると伝えて兄貴を追いかけた。

「兄貴、マジで大丈夫?」

「だぁいじょぶ、だぁいじょぶ。」

「……兄貴も酔ってるでしょ?」

「まぁ、酔ってはいるけど、あの2人ほどではない。」

「そりゃそうだけど……。」

 俺は心配しながら兄貴を見つめると、兄貴は俺の肩を優しくポンポンと叩いてきた。

「純也……綾音ちゃん、母さんに合わせようと飲んでくれたんだと思うから、よくみててやれよ。」

「分かってるよ……。」

「あと……。」

「あと……?」

「綾音ちゃんもなかなかの酒豪で、金がかかるはずだから、お前頑張って働いて養うんだぞ……?」

「…………はあっ?!……だから、茶化すのやめろって!」

 俺が慌てるのを見て、兄貴は満足そうにじゃあ行ってくるわと言いながら去っていった。俺ははぁとため息をつきながらリビングに戻ろうとすると、2人の話し声が聞こえた。 

「綾音ちゃん、見てみて~可愛くなぁい?」

「きゃー、可愛いっ!」

「でしょ?今しか許されないって思って、2人に着せてみたの~。」

 俺はその会話でハッとして、慌ててリビングに戻った。

「母さん?!見せたの?!」

「そりゃそうよ?自慢の息子達の写真だも~ん。」

「いやそれはただ母さんが、勝手にワンピースを俺達に着せたやつで、自慢の写真じゃないでしょ?!」

「あぁ?いちいち細かいなぁ……いいじゃんね、綾音ちゃん?」

 母が綾音さんにそう声をかけると、綾音さんはそうだそうだと言いながら缶ビールを天井に高々と上げていた。俺はこれは家に残るほうが地獄だったかも、と思いながらふらふら諦めて席に着いた。

「あ、皐月さんもいますね!変わらずキレ~。」

「ふふ、、まぁね!」

「母さん……否定しないのかよ……。」

 俺がボソッとツッコミをいれると、2人はまたゲラゲラ笑い始めた。

「はぁ……でもどの写真も、仲が良さそうで、素敵ですね。」

「え~、嬉しいな~。」

 母はへへと笑いながら、最後の一本だった缶ビールを飲み干した。俺は兄貴がまだ帰ってこない間、どうしようと考えだして悩み始めた。すると母の隣で微笑んでた綾音さんがまたとろんとした目をしながら、話し始めた。

「…………皐月さんが、改めて素敵なお母さんなんだなって、一目で分かります……この写真を見てると……。」

 さっきまであんなに笑ってた彼女は、急に優しい顔でアルバムのページをめくりながらゆっくりとそう伝えてくれた。俺はその優しい表情にまたさっきとは違う意味でドキッとした。

「…………ぅう……。」

 すると彼女の言葉を聞いた母が、急に嗚咽しながら泣きはじめた。俺は母から涙がでていることにびっくりした。母が嬉しくて泣くところなんて、今まで一度も見たことが無かった。高校の合格、就職の内定ですら喜んでくれただけで、涙を流すまではさすがになかった。

「えぇ…………皐月さん……泣いたら……私も……うぅ。」

 そう言いながら、綾音さんもなぜか泣き始めてしまったので、俺はええと言いながら戸惑うしかなかった。とりあえず、ティッシュが必要かなと思い、ティッシュ箱を2人の間に置いた。2人とも泣きながらティッシュをとり、おいおいと泣いていた。情緒不安定な人達を目の前に、どうすればいいだろうかと悩んでいると、母が口を開いた。

「……あ、綾音ちゃんは……純也……と、付き合えて……幸せ……?」

「…………え!……母さん?急に何い……。」

「っはい!」

 綾音さんは食いぎみに即答した。あまりの早さに俺は固まった。

「私……純也君……に、沢山支えて……もらってます。」

「…………。」

「……本来なら……年上の私が、支えなきゃいけないんですけど……私、不器用で……ダメダメなんですけど……。」

「…………。」

「……彼には……感謝しかないです……こんな私のこと……好きになってくれて……ありがとう、純也君………。」

「………………。」

 綾音さんは涙を流しながら笑顔で俺を見てそう言った。俺はとっさに顔を下に向けた。まさか母の前でそんなことを言ってくれると思わなかった。正直少し心が揺れて、泣きそうになった。しかし感動したのも束の間、2人がなぜか急に強くハグをし始めた。

「綾音ちゃ~ん……ありがとぉ~!!」

 母はそう言うなり、綾音さんを抱き締めていた。

「皐月さぁん、産んでくれてありがとぉ~!!」

 綾音さんもそう言うと、母を抱き締め始めた。俺はどうなってんだこの状況と困惑していると、玄関から扉の開く音がした。そしてそのまま待っていると、兄貴がリビングに入ってきて、目をギョッとしながらこちらを見て固まった。

「え、何、この、カオスな状態……。」

 兄貴は買ってきたビールの入った段ボールを抱えながらそう言った。俺は助けてという目線を兄貴に送るしかなかった。兄貴は呆れながらもどこか嬉しそうな表情をしながら、段ボールを置き、2人の肩を優しくとんとんしていた。その光景はもはや家族そのものだなと俺の心に優しく残った。

 しばらく2人が泣き続けると疲れてきたのか、リビングのソファに移動してアルバムを見てたはずの彼女達はこてんと眠りについてしまっていた。

「……やば、意気投合の域越えてる……。」

 兄貴は驚きながら、2人に毛布をかけた。

「ホントだよね……俺も驚きが止まらない……。」

「母さんも安心したんじゃん……?」

「そうだね。」

 俺達は2人でクスクスしながら、宴会の片付けを音をたてないように慎重にこなした。 

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