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18/23

彼待ちのフルーツティー

「ねぇ……どう思う……?紫帆的にさ……。」

「……んー、行っちゃえば?」

「軽くなぁーいっ!?」

 私は自分のベッドに思わずそのまま飛び込んだ。クリスマスが終わり、落ち着いてきた日々を過ごしていた私は少し前に仕事から帰ってきて紫帆に電話をした。もちろん相談内容は大晦日に彼の家に行くべきか否か。

「だっ、だって……お、親の居ない間に一夜を過ごすのって……。」

「うん、いたしたくなるわな。」

「…………っ!」

「だってましてやあちらは、思春期真っ只中の欲の塊世代。」

「その言い方やめて!!」

「でも彼、すでに18歳過ぎたんでしょ?合意の上なら犯罪にならないじゃん。」

「そ、そうだけど……でも背徳感が私を襲うんです。」

「真面目かよ……つまんなっ。」

 そう言うと、電話の向こうで紫帆が呆れるように溜め息を吐いた。

「……大体、綾音は?」

「……何が?」

「したくならないの?一緒にいてさ。」

「そ、それは……そりゃ……イチャイチャしたくはなる……よ?」

「じゃあ、もういいじゃあん……はい、決定、決定、いってらっしゃいませ~。」

「さっきからこっちが一生懸命相談してるのに……!」

「まーそこはじゃあさ、そこは置いとくとして……そんなにご家族の了承?認知?欲しいなら、事前に会えばいいじゃん……。」

「……え。」

「綾音がどんな人かっていうのが分かれば、色々あちらも安心するんじゃない。」

 私は紫帆の言葉が目から鱗すぎた。確かに彼からも会いたそうにしてる話が出ているのだから、挨拶だけでもしたほうが今後の彼との付き合いがしやすいかもしれない。

「…………1ミリも思い付かなかった……。」

「そ、ならいいんじゃない?行ってきなよ。」

「でもこんな年末に急すぎないかな……?!」

「無理なら大晦日もやめれば?タイミングじゃなかったという事でさ。」

「……た、確かに。」

「相変わらず、頭かち子さんですね。」

「…………ぐうの音もでない。」

 私はうつ伏せにしてた身体を仰向けに変え、部屋の天井を見ながらさっそく後で聞いてみようと思った。

 紫帆との電話が終わり、早々にその話を彼にスマホから送っておいた。充電が無くなりそうだったので、スマホは部屋に置き、明日も仕事があるのでお風呂に入ろうと浴室に向かった。一階に降りていくと、廊下で綾女に遭遇した。

「あ、綾音ちゃん、お疲れ~。」

「うん、ただいま~。」

「お風呂行くの?」

「うん。」

「……ちょっと、綾音ちゃんこっち来て。」

「…………?」

 私は綾女に言われるがまま廊下の隅に付いていった。

「なぁに?……お小遣いはあげないよ?」

「違う違う……今年、両親が実家に帰るって聞いた?」

「え、知らない。」

「なんか久しぶりに集まろうって盛り上がったらしくて……でも私達は行かなくていいんだって。」

「じゃあ、いいじゃん。」

 私は何だ関係ないじゃんと思いながらそう返すと、綾女が横に首を振ってきた。

「……分からないの……?」

「……だから、何?」

「私は友達で、この家で、年を越したいから綾音ちゃんどっかで過ごしてって言いたいの!」

「はぁ~?!」

 私がなかなか大きい声を出したので、綾女がすぐにシーッと言いながら私の口をふさいだ。

「……っぷは、、何、それっ!」

「だって来年はみんなバラバラだし、高校最後の思い出にいいじゃんっ!別に彼氏と2人って言ってる訳じゃないんだからさぁ。」

「……いや、いや。それは……。」

「お願いっ!家は綺麗にちゃんと片付けもするって約束するからっ!」

 綾女は手をパチンと合わせ、私に頭を下げてきた。

「……んぇぇ~……うぅん……。」

 私は綾女の言い分も分からなくはないと思いつつ悩んだ。十代だけで何かあったらと思うと抵抗がある。相手の親御さんにも心配かけるかもしれない。

「………い、一旦、考えさせて……。」

「…………っ!」

「できるだけ……そうしては、あげ、たい。」

「前向きに検討を願いますっ!」

 そう言いながら、綾女は敬礼をして、自分の部屋へと戻って行った。

「…………アクティブなところは綾女と純也君……似てるよなぁ。」

 私は若者って怖いもの知らずだと思いながら、脱衣場の扉を開けた。しばらくして私はお風呂から出て、自分の部屋に戻るとスマホを手に取った。彼からの返信がきているようだったので、確認しようとタップした。

 

 “お仕事、お疲れ様です。

 さっき綾音さんの話を家族に話したら

 もしもよければ29日に夕飯を一緒に食べませんかと

 言ってるんですがどうですか?”


「自宅で食事……緊張する……。」

 私はでもせっかくならお招ばれされようと思い、それでお願いしますと返信した。

 

――――――――――――――――――

 約束してしまうと、時間があっという間に過ぎ去った感じで食事会の当日を迎えた。私は少しでも緊張を和らげたいのを理由に彼とは昼から会うことにした。それと一緒に手土産を選びたかったので、家族の好みを彼から聞いてから向かうことにした。彼の家の最寄り駅には駅ビルがあり、ここなら何かしら買えると言うので改札前で合流することにした。

「綾音さーん。」

 私は声がするほうに振り返った。しかし私は見た瞬間ぎょっとした。彼だけだったはずの待ち合わせに、同じくらいの背格好の男性がいた。

「すみません。遅くなって……。」

「あ、ううん……あのそちらはもしかして……。」

「あ、先に紹介しますね、兄の中城誠也(なかじょうせいや)です。」

「綾音さん、初めまして!……いつも噂はかねがね!」

「噂……。」

「っあ、おい!余計なこと言わない約束だろ!」

 彼はそう言うとお兄さんの肩を叩いた。お兄さんはあはははと、笑いながら彼の言葉を聞き流していた。純也君と少し似てるけど、やっぱ雰囲気は違う。彼よりむしろ幼く見えてしまって、兄弟が反対に見える。

「…………っあ、すみません、申し遅れました。香坂綾音です。いつも姉妹共々お世話になってます。」

「いえ、こちらこそ!」

「……あの、わざわざ出迎えに来てくれたんですか?」

「んー、、半分そうで、半分違います。」

「……………つまり?」

「母さんより早く会わないと、沢山話せないじゃないですか?じゃあ俺も合流しちゃえばいいかってなりました!」

「…………はは。」

 私はまさかの理由に困惑気味に苦笑いをしてしまった。なんて思ったままに行動する人なんだろうか。包み隠さず直球でこられるから余計に返答に困ってしまう。

「……っ!ちょっと、ただの荷物持ちでしょ!兄貴グイグイいきすぎだから、静かにしてて!」

「えぇ、何で、いいじゃん。純也のどこがいいか~とか聞きたいんだけど……。」

「…………っへ?!」

「っ!、そんなの言えるわけ無いだろ!」

「ちぇー、つまんねぇの。」

「と、とりあえず、私、手土産を買わせて欲しいんですけど……誠也君は何が好きですか?あ、あとお母さまも!」

 私は話題を変えようと食い気味にお兄さんに話しかけた。すると一瞬キョトンとした後に、ニコニコしながらはいと言いながら手をあげた。

「中城家はみんなケーキが好きです!」

「ケーキ好きなんですね!」

「フルーツたっぷりのタルト大好きです!」

「フルーツのってるの美味しいですよねぇ。」

「綾音さんは、何が好きですか?」

「…………あ、私……ですか?」

「だって家族になった時に知っといたほうがいいじゃないですか!?」

『え゙ぇ!?!』

 ケーキから何故にそんな話に飛躍するんだと、私が仰天している横で彼が兄貴いい加減にしてと、顔を真っ赤にしながら怒っていた。

「綾音さん、すみません。ケーキ屋さんあっちにあるんで行きましょう!」

「う、うんっ。」

 彼は誠也君の背中を押しながら、先頭を歩き始めたので、私は慌てて小走りで着いていった。店内は年末ということもあり、どこのお店も人が沢山いて賑わっていた。お菓子コーナーにフルーツタルトのお店があったので、そこでケーキを買おうということになった。奥にはイートインコーナーもあるようだった。

「わぁ~悩むなぁ~。」

 誠也君はショーケースを見ながらケーキを決めかねていた。私は後ろでそれ眺めていると彼がひそひそと話してきた。

「綾音さん、本当にすみません。」

 彼は私に申し訳なさそうに謝罪をしてきた。

「家でる直前に兄貴に見つかって、どうしても来るって言わなくて……振りきれず…。で、そんなことしてたら時間がヤバくて連絡もできず……急に驚かせてすみません。」

「そっか、明るいお兄さんなんだね!」

「明るい……より騒がしいが合ってませんか?」

「……というより、色々突拍子がない方かな?」

 私達がひそひそ話をしていると、お兄さんが元気よく振り返ってきた。

「綾音さんは何します?」

「私はブルーベリーにします。」

「おぉ、いいチョイス。純也はどうせミックスだろ。」

「なんだよ、どうせって……良いけど。」

「俺はー、ホワイトチョコと苺にしようっかなぁ。母さんは定番の苺でいいっしょ。すみませーん、店員さーん。」

「……誠也君って、人見知りもないんだろうね。」

「無いですね。隣の席とかに平気で話しかけちゃうんで……。」

「おぉ、羨ましいコミュ力。」

「あ!!」

 急に誠也君が何かを思い出したように声を出し、こっちに近付いてきた。すると純也君に何か紙を手渡してきた。見た感じどこかの伝票とメモ用紙のようだった。

「はい、純也、よろしく。」

「…………は?」

「これ母さんに頼まれてたおつかい。今、買ってきて。」

「…………いや、兄貴行けよ。」

「おれ、もう一個頼まれてるのあるからケーキの後にそっち行く。それにそれ時間かかったら綾音さん可愛いそうだろ。」

「…………。」

「ほら、早く。」

「………はぁ……綾音さん?変なこと言ってきたらぶん殴っていいんで……。」

「え、大丈夫だよ?いってらっしゃい。」

 彼は誠也君に釘をさすように睨み付けてから、早歩きで目的の店に向かった。

『………………。』

 私はいきなりの2人きりに何の話を切り出すべきか悩んだ。するとさっきの店員さんがこちらに向かってきた。

『2名の中城様?』

「はい、2名で!」

「………あ、あの?」

「あいつ待つ間、お茶しましょう。」

「え、?」

「実はここフルーツティーめっちゃウマイんです!」

「でも、おつかい……。」

「あれだけですよ。」

「…………。」

「さー行っちゃいましょう!」

 私は誠也君の言葉に困惑したが、彼の押しとどうするんだ的な店員さんの目線に負けて店内に入った。

「……席、よく空いてましたね?」

「朝、予約しました。」

 誠也君はご機嫌にそう言いながらメニューを見ていた。

「策略的過ぎませんか……?」

「はは、褒めてます?」

「……どちらかというと怖いです。」

「ははは、おすすめのやつでもいいですか?」

「任せます。」

 私がそう言うと、近くの店員さんに誠也君は注文をしてくれた。

「綾音さん、敬語いらないですよ。俺、年下ですし。」

「いや、今日はこれで。後でお母さまもいるので。」

「……そうですか。」

「それより……な、何か前もって話したいことが……?」

「え?」

「ん?」

 私達はお互いに顔を見つめながらキョトンとした。すると誠也君は盛大に笑い始めた。私は声の大きさにびっくりしてシィーっとさすがに彼を止めた。

「はぁー、噂どおりの真面目なお姉さん。」

「そんなに笑うような事ですか……?」

「ただ単にあの色恋にそんなに興味なかった純也が必死になる女性ってどんな人なのかなって。だって母さんの前じゃ素がでなさそうだし、それじゃあ綾音さんの事知れるようで分からなそうだから。」

「…そんな大した人ではないので、あまり期待しないで欲しいかなと……。」

「ふぅ~ん?」

 私達が話していると店員さんがフルーツティーを持ってきてくれた。季節のフルーツティーで苺を使ってるらしい。私は冷ましながら一口飲んだ。

「あ、美味しい。」

「ね?美味しいでしょ?」

 誠也君はそう言うとニコニコと笑った。その顔は純也君にそっくりだった。やっぱり兄弟だなと染々感じた。

「綾音さん、純也と付き合うの大変じゃないですか?」

「え。」

「ほらあいつ学生だし、大人びているようでガキだし、面倒くさい事ないのかなって?」

「……大変なのはあっちかと。」

「そうなんですか?」

「私は仕事柄、仕事終わりも読めないですし、繁忙期は休めないし、長期休みもありません。彼と会うまでは仕事人間だったのでそれで生きてきました。」

「…………。」

「そんな私に学生なのに、合わせてくれて、彼なりに答えてくれて、逆に大変じゃないか心配になります。」

「……あいつ、優しい?」

「優しいです……私にはもったいないくらい……。」

「ふふ、綾音さんも優しいからじゃないですか?」

「……私もですか?」

 誠也君はフルーツティーを一口飲んだ。

「あいつに貰ってばかりじゃなくて、与えてくれてるから、今があるんじゃないんですか?」

「……私は……特に大したことは……。」

「純也からお金貸して欲しいって言われた時、誰かにカツアゲされてるかと思いましたけど……。」

「…………っ!」

「まぁ、返してくれたし、こうして素敵な人と付き合えたなら兄としては微笑ましいです。」

「……誠也君も優しいんですね。」

「あ、惚れました?」

「んー、出逢いが逆なら!」

 私達は一瞬沈黙した後、クスクス笑いながらまたフルーツティーを飲んだ。 

「じゃあ、純也のどこが好きですか?」

「わぁ、聞くんですね。」

「そりゃそうでしょ、何のためのお茶会?」

「んー、いっぱいあるからなぁ~……。」

「惚気ですか?」

「ち、違いますよ!……強いていうなら……。」

「強いていうなら?」

「……おい、兄貴!」

 私達は声をするほうへ顔を見上げると、純也君が軽く息を切らしながら買い物してきたものを持っていた。袋を見た感じ、大分重い荷物ばかりに見える。

「あ、おかえり~。」

「おかえり……じゃ、ねぇし!」

「綾音さんと疲れたから休憩してただけじゃーん。」

 誠也君はこっそり私に目配せしてきたので、今日の事は秘密なんだなと思った。

「じゃあ、兄貴が行けばいいじゃん!」

「えー、優しくなーい……彼女には優しいくせにぃ。」

「なっ!」

「知ってるんだからなぁ、毎日綾音さんが仕事終わるくらいにタイマーセットして、連絡がきたらすぐ返事返せるようにしてるの。」

「ば、バカっ!そういうのって本人に言うやつじゃないだろ!」

 私は2人のやりとりを一部始終見た後に仲良いねと言った。すると2人はこちらを見た。

「どこが!?」

「でしょ?!」

 2人が真逆の返答をしてきたので、可笑しくなってクスクス笑った。 

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