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恋人達のホワイトシャンメリー

 予想通り昨日のイブと比べると、少しだけ人通りが落ち着いているように感じた。それでもクリスマスはクリスマスなので、マスターと彼と3人で昨日と変わらず、バタバタと働いていた。落ち着いた隙間時間に私がしゃがんで持ち帰り用の紙袋を補充していると、急に頭上から声をかけられた。

「サンタさーん、寂しい私にも美味しいケーキくださぁい。」

 私は喋り方と声で何となく誰だか察しがつき、恐る恐る上に顔を上げた。

「…………紫帆、何で来たの……?」

 目の前には今日も今日とて、ニーハイブーツにミニスカというセクシーな格好をした紫帆がニヤニヤしながら立っていた。

「え、ひどくない?お客なんですけどぉー。」

「いや、店は?バイトちゃんに任せて休み?」

「毎年イブとクリスマスは、どっちか交代で休みになるようにしてるの。協力しあってるの。」

「左様ですか。」

「…………え、あれ。紫帆さん?」

 私達が2人で喋っていると、店内から補充されたコーヒーが入ったポットを彼がこちらに運んできた。

「何、あんたら、ここでもお揃いコーデなの?仲良しか。」

「……っちょ、違うからっ!」

「あの紫帆さん、洋服とかありがとうございました。」

 私が紫帆の言葉に対して慌てているのをよそに彼は何故か紫帆に感謝の言葉を述べていた。

「いえ、いえ。結果オーライで良かったね。」

「……君たち、私をおいて、何の話をしてるの……?」

「あれ、言わなかった?水族館デートの服、私がコーディネートしたんだよ。」

「……は?」

「まー、綾音の好みは熟知してるし……まぁ、私はどちらかというと彼を推してましたし……。」

「…………。」

「綾音ちゃーん……??」

「いや、あの俺が香坂経由で連絡先聞いて、相談のってもらったんです。俺、そういうのはまだまだ疎いんで……。」

「…………なんか、、、とても恥ずかしいぃ。」

 私は顔を手で覆い隠し、崩れ落ちた。私の知らないとこで努力した彼の事より、紫帆から私の好みを彼に言われたのがとても木っ端付かしい。

「はっはっー!よかったでしょ?イケてたでしょ?」

 私の羞恥心なんてどうでもいいのだろう。紫帆は自信満々に仁王立ちしてVサインをしていた。紫帆にしてやられた感がすごい。

「……綾音さん……?」

 彼は彼で私達の間に挟まれて、どう返していいか分からないのかオドオドしていた。でもあの日も、今も、私なんかの為に、彼はいつも真剣に向かってくれてる。私はふぅと一息ついて、すくっと立ち上がった。

「……イケてた……カッコよかった……。」

「はっはっ……は?」

「……えっ!」

 紫帆は私の素直な返答に驚きのあまり固まり、彼はオドオドしていたのが止まった。しかしそれと同時に一気に顔が赤くなっていった。紫帆は私のほうをまじまじと見つめてきた。

「……な、なに。」

「はー、人って付き合うとこんなに変わるんだぁ…。」

「…………うるさい。」

 私は紫帆の小言に対して小さい声で反論した。私は何も言わなくなってしまった彼が気になり横目で確認した。すると今度は彼が顔を覆い隠していた。

「…………ずりぃ……今さら言うなんて……。」

「……すみません。」

「わー、、、あまーい。甘すぎてケーキいらなくなってきたかもー……。」

 私達の反応に飽き飽きしたのか、紫帆が棒読みの感想を述べた。

「はいはい。お礼に私がケーキとコーヒー、奢ってあげるから……。」

 私はケーキを紙袋に入れ、テイクアウト用のコーヒーカップにコーヒーを注いだ。寒い夕暮れにコーヒーの湯気がゆらゆらと揺れ、優しい香りを広げた。紫帆はゴチでーすと言いながら、満足したのか早々に帰った。しかしあんな後に彼と2人で残されるほうが、気持ちがさわさわして落ち着けない。

「…………もう俺、これからずっと紫帆さんのコーディネートで生きてこー。」

「それまんまと紫帆に騙されてない?」

「だって、イケてたんでしょ?」

「イケてましたよ。」

「ほらぁ、一生ついてこー。」

「はいはい……あ、いらっしゃいませー。」

 私は嬉しそうにしている彼を諭しながら、お客様の対応に切り替えた。


 ――――――――――――――――――――――

 やはり昨日よりは一時間くらい早くクリスマスに用意してたケーキは完売した。外はまだまだ賑わっていたが、私達は片付けを始めていた。私はかじかむ手をこすりながら機材を閉まっていった。天気予報では今日のほうがさらに冷え込むって言ってたかな……。

「綾音さん、俺やるんで、マスターと中の片付けしていいっすよ。」

「いやいや、駄目でしょ。大丈夫。」

「だって寒いっすよね。」

「そりゃ寒いけど……やだ。」

「やだって……言い方。」

 私は片付けていた物から彼のほうにクルっと顔を動かしふて腐れた表情をした。彼は何だと、不思議そうにしていた。これでも伝わらないのか。

「…………一緒に……過ごしたいって……言った……。」

「……っ!」

「だから……片付けも、一緒にやるのっ!」

 私はそこまで言い終わると、また元の見ていたほうに顔を戻した。彼は何か言いたげだったが、黙ったまま手の作業を続けた。

 2人で黙々と片付けをしたので、すぐに外の片付けが終わり店内に戻った。私達が戻るのを見越していたのか、カウンターにはコーヒーではなく、熱々に淹れた緑茶が用意されていた。

「あ、2人ともお疲れ様。少し休憩しな。夜に障らないようにお茶にしたよ。」

「わー、嬉しいです。ありがとうございます。」

「あったけぇ。」

 私達はすぐに緑茶の入ったマグカップで暖をとった。冷えきった手がじわじわと温かくなっていった。

「あ、純也君はこれね。」

 マスターはそう言うと彼の名前が書かれた茶封筒を彼に手渡した。彼はありがとうございますと両手でちゃんと受け取っていた。

「今年は純也君のお陰で完売できたから少し多めに入れちゃったよ。」

「え、いいんですか。」

「うん、これからも店と綾音ちゃんよろしくね。」

 2人の会話を隣で聞ながら緑茶をすすっていた私は最後の綾音ちゃんに咳き込んだ。

「……ま、マスター!……。」

「はは、照れてる綾音ちゃん可愛い。」

「そうなんです。可愛いんです。」

 2人は笑いながら私の反応を面白がっていた。仲良くなったのは嬉しいが、徒党を組むなら話は別だ。

「……みんなして……。」

 私は1人で小声で呟きながら悔しがった。

「あ、綾音ちゃん。冷蔵庫の物、好きに食べてね。」

「え。」

「僕からの2人にクリスマスプレゼント。食べ終わったら、片付けと戸締まりだけよろしくね。」

 マスターはそう言いながら、自分の上着と鞄を手に持ち始めた。いつの間に色々と身支度済ませてたのか、全然気づかなかった。

「純也君もまだ学生さんだから帰りはあんまり遅くなっちゃ駄目だよ。」

「はい。ありがとうございます。」

「マスター、すみません。ありがとうございます。」

 私達の返事を聞くと、いえいえと言いながら店を出ていった。

「……マスターって、本当に優しいっすね。」

「ねー、本当に。旦那さんになって欲しい人か、おじいちゃんになって欲しい人ランキング絶対に1位だよね。」

「あー分かります。男でもかっけぇって思いますもん。」

「さ、マスターからのプレゼント見てみよ~。」

 私は椅子から立ち上がり、カウンター内に入って冷蔵庫を開けた。中にはケーキはもちろん、ピザやパスタ、サラダ、オードブルの盛り合わせが入ってた。

「めっちゃ豪華~。今度、お礼用意しなきゃ。」

「あ、じゃあ明日の休みに2人で何か見に行きませんか。」

「そうだね。そうしよっか。私、先に食器とか準備しちゃうから着替えてきなよ。私もさすがにそろそろサンタ終わりたい。」

「分かりました。」

 彼はそう答えると店の奥に消えていった。私は食事を温めながら近くのテーブルに食器、グラス、カラトリーをセットしていった。

「なんか、久々にちゃんとクリスマスやってるなぁ。」

 私はオードブルをテーブルに置きながら独り言を呟いた。去年までは仕事しか頭に無かったし、クリスマスなんて繁忙期としか思ってなかったのに……。さらに私は冷蔵庫から昨日とは違う、白いシャンメリーを取り出した。

「……お待たせしました。」

「………………ねぇ、もしかしてだけどさ。」

「そっすよ。今日も紫帆さんセレクトです。」

「……紫帆も喜ぶね……じゃあ、着替えてきます。」

 彼の服装に呆れながらもコメントした後、私も着替えるために店の奥に向かった。扉を開けてふぅと言いながら帽子を取り、それをテーブルに置こうとした。その手の先に朝には無かった小さい紺色の箱があった。

「…………え、まさか……。」

 私は急いで洋服に着替えて、髪を整えて、その箱を手に取り走って彼の元に戻った。

「綾音さん……今、シャンメリー注いで……。」

「こ、これっ……もしかしてっ!……。」

「そんなに驚く事な…………。」

 彼は慌てて走ってきた私を見てビックリしていたが、

途中で何かを察したのか咳払いをしてこっちに来た。

「綾音さん……あの、すみません。」

「へ?」

「昨日の話があったから勘違いさせてる気がするんですけど……指輪じゃ……ないです。」

 彼はそう言うと、かなり申し訳なさそうに頭を下げた。

「………………………………っ!」

 私は自分の早とちりに全身から火が上がったように熱くなった。

「ごごご、ごめんっ!謝らないで!私が悪い!」

「いやっ!俺が前フリみたいに昨日話したから!ごめんなさいっ!」

『………………。』

 私達は必死に謝りすぎて、お互いがお互いの反応に黙ってしまった。そしてふふと2人でクスクス笑い始めた。先に落ち着いた彼は私の手からゆっくりと箱を受け取り、パカッと開けてくれた。このシーンだけ切り取ったらまるでプロポーズのようだった。私はその開けられた箱をそっと覗いた。

「……ピアス。」

「そうです。」

「ありがとう……着けてもいい?」

「ぜひ。」

 私は箱の中のピアスを受け取り、両耳に着けた。スマホのカメラで確認すると、綺麗なサファイアのピアスが光っていた。

「……素敵。」

「それなら仕事中も付けれるかなって……。」

「うん。嬉しい。」

「……あとピアスにしたのは意味があって……。」

「……ん?」

「ピアスを贈る意味はあなたを大切にしたい。」

「…………。」

「サファイアの意味は一途な想いを貫く……。」

「…………。」

「俺はまだ、学生だし……お金も……立場も……足りないことだらけで…………指輪は今は渡せないです……けど今の想いは……それに込めました……綾音さんの事、これからも大事にします。」

 彼は恥ずかしそうに私の手を取り、ゆっくりゆっくりと一言を大事にしながら伝えてくれた。たぶん今に至るまでの私の考え、行動を思っての事だろう。私が彼の手を取った事を後悔しないように……。

「純也君……。」

「はい。」

「いつもありがとう。」

「……っ!」

 私は手をギュッと握り返し、優しく頬にキスをした。私達の後ろではホワイトシャンメリーが、シュワシュワと拍手をして喜んでくれていた。

 

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