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仕事終わりのロゼシャンメリー

 夕方をすぎると商店街のクリスマスイベントが始まりガヤガヤと騒がしくなってきた。今年はコーラスのコンサートがあったり、ビンゴ大会があったりと家族連れメインではあったが、商店街並木のイルミネーションが例年からバージョンアップしてさらにキラキラしている。なのでそれを見に来るだけの人でもかなり集客はある。カップルや家族連れなど様々な人達が盛り上がっている中、私達はせっせと次々にクリスマスケーキを販売していた。今年は予約の人もだいぶいるので、わりとひっきりなしにお客様がきている。初めての事で彼が困らないか気になったが、やはり手際がいいようで、次々とケーキを梱包して渡していた。また店前が少し落ち着くと彼が町の人達に声をかけ始めるので、道行くマダム達が彼の笑顔に負けて買ってくれている。彼がいるおかげで今年は完売できそうな気がするなと思いながら我武者羅に働いた。店内でマスターがずっとドリンクの準備をしているので、私と彼は代わる代わるその準備できた物を表に運んだ。正直忙し過ぎてさっきまでサンタクロースのコスプレが恥ずかしいとか考えていたのに、そんなことは今さらどうでも良くなってしまった。強いて言うなら暑いからという理由で脱ぎたくはなった。そんなこんなで怒涛の時間は過ぎ去り、夜7時にはケーキもドリンクも完売してしまった。私は今日最後のクリスマスケーキを手渡した瞬間、疲れすぎて思わずその場にしゃがんだ。

「はぁーーっ!疲れたぁーっ!」

「やー、ヤバかったですね、俺もさすがに疲れました。」

「やっぱイブは祝う人多いからねー、、明日はまだ少し落ち着くと思う……あ、純也君、お疲れ様でした。」

「綾音さんもお疲れ様です。」

 お互いに労いの言葉を交わしながら、2人でハイタッチした。いつもだったら、ただ疲れて終わりのクリスマスイブだった。けど今年は好きな人と一緒に過ごせたからか、楽しかったという気持ちが勝っているような気もする。

「2人ともお疲れ様でした~。」

 声がする方へ振り替えるとマスターが何やら瓶とグラスを持ちながら駆け寄ってきた。

「え、まさかのシャンパンですか?!」

「ざんねーん。シャンメリーです!さすがに仕事中だし、未成年がいてお酒はダメでしょ。」

「綾音さんってどんだけ飲んだくれなんですか……いてっ!」

「一言余計です。」

 彼が私にやれやれという目線を送ってきたので、肩パンを食らわせてやった。そんな私達のやりとりをまぁまぁとなだめながら、マスターはグラスにシャンメリーを注いだ。ピンク色の水がシュワシュワと泡をはじきながらグラスを彩っていった。そして各々が手にグラスを持ったところでメリークリスマスと言いながら、3人でそれを口に運んだ。労働の後の炭酸は一気に身体に染み渡った。

「いや~、今年は純也君のおかげで完売もしたから本当に助かったよ。ありがとう。」

「あ、そんな。大したことは……。」

 彼はマスターに感謝されると、謙遜しながらペコペコしていた。

「この調子なら明日は用意してるケーキも今日よりは少ないから、夕方には終わるかもね~。」

「そうですね。マスターのエッグノッグも良い感じに好評で良かったですよね。私、今度家でも作ってみたくなりました。」

「それはよかった。作ったかいがある。……さぁさぁ、水分補給もしたところだし、明日の準備をパパっと終わらせて今日は早くみんなで上がろうか!」

 そうマスターが言い始めたので、私達は残りを一気に飲み干して作業に取りかかった。

 いつもの営業と違い準備する種類も少ないので、片付けと準備は一通りすぐに終わった。またマスターが気をきかせて、私達に明日もあるからと先に上がらせてくれたので、私は彼がこれ以上遅くなるのも良くないと思い、素直にささっと着替えた。着替え終わると先に着替え終えた彼がマスターと談笑しながら待ってくれていた。いつの間にか2人の距離が縮まっていたので、それが嬉しくなり少しだけ微笑ましく見ていた。私が出てきたのに気付くと彼から話しかけてきた。

「綾音さん、夜だし、家まで送るんで、帰りましょう。」

「え、でも明日もまだあるし……。」

 そう言ってきた彼に、私はさすがに悪いと断ろうとした。すると彼がこそっと耳元で囁いてきた。

「……ていうのは建前でまだ一緒に居たいんで……イブだから、、ね?いいでしょ?」

「……っ!」

 私は彼の囁く甘い言葉にドキっとしていたら、目の前のマスターが仲良くていいね~と言いながら、まるで孫を見るかのような表情をしていた。私はその場にいることがいたたまれず、彼の背中を押した。そしてマスターにお疲れ様でしたと言いながら、すぐに店の扉の外に慌てて飛び出した。

「しゅ、純也君。お願いだからマスターの前では、ああいうことやめて……。」

「ああいうこと……ですか?」

「……その、、、。」

「はいっ、寒いから帰りましょう。」

 彼はたぶんわざと私の言葉を遮りながら、そのまま私と手を繋ぐとぐいぐい引っ張りながら歩き始めた。

「……最近、やっぱ君、可愛くない……。」

「だから~、、俺はそもそも可愛くないです。」

「そんなことない……夏の時は可愛かった。」

「気のせいだったんですよ。」

 彼はけろっとしながら答えると、や~寒いですねとすっとぼけた。私も諦めてそうだねと答えた。歩いてる途中で地域掲示板に初詣のチラシが見えたので、そういえばと質問することにした。

「純也君は……年末年始は帰省とかあるの?」

「あー、母が県外に実家があるんで去年までは一緒に帰ってたんですけど、今年は身内に喪中がいたりして、なんだかんだで、俺と兄貴はこっちに残ることにしました。」

「そうなんだ…。じゃあ、お兄さんと家の事するの大変だね。」

「いや、残るっていっても数日間ですし、兄貴はほぼ家帰らないんで、適当にダラダラ過ごしますよ。たぶん寝正月ですね。」

「あーでも、いいよね。親が居ないだけで自由な気がするもんねー。」

「綾音さんは実家にいるんですか?」

「うん。私の家は年末年始の帰省ラッシュにうんざりしてるから帰らない。両親ともに実家は県内だし、いつでも会えるからいいんだって。」

 私自身年末ギリギリまで仕事をやってるから、両親達がもしも帰るとしてもどっちにしても私は留守番になるのはほぼ確定ではある。 

「そ、うです、か…………。」

「……?」

「綾音さん……。嫌じゃなければいいんですけど……。」

「うん?」

「…………俺の家で、一緒に……大晦日……過ごしませんか?」

 彼がゆっくり告げた提案に私はドキッとした。

「それは…………。」

「母と兄には、ちゃんと説明するんで……ダメですか?」

「…………。」

 私は返答に悩んだ。彼と過ごせるのは嬉しいが、さすがに人様の家に、家族が居ない家で過ごすのは社会人としていかがなものだろうか……ましてや相手は未成年。高校生……。私は色んな事が頭の中でぐるぐると回り始めた。

「……少し……考える時間を頂けないでしょうか。」

「いいですよ。とりあえず、家族にはそうなるかもだけ伝えてもいいですか?」

「待って!確定してからにして!特にお母様には……。」

 私はそう言いながら、あいている手で合掌ポーズをした。

「……ま、良いですけど……。」

「ありがとうございます。」

 私は一旦安心し、自分の心を撫で下ろした。

「…………俺の母さん、実は元ヤンなんですよね。」

「元ヤン……?」

 私は彼からの唐突な母親情報にぽかんとしてしまった。しかし彼はこちらのことなんかお構いなしにそのまま話続けた。

「そうです。元ヤンです。まぁまぁ、やんちゃしてたみたいで19の時に兄貴を妊娠して、21の時に俺を妊娠してたんですけど、その時に父親が浮気して離婚してって、まー波乱万丈な人生だったみたいで……。」

「おぉ……それはなかなか濃い人生だね。」

「そのせいか結婚は急いでするなって……うるさいんですよ。」

「まー、息子達には幸せになってほしいんだろうね。母親心ってやつだね。」

「でも俺……綾音さんとは一生離れるつもりないんで。」

「うんうん………………っぇえ!」

 私はまさかの軽いプロポーズ発言に歩いてた足が止まった。話の展開についていけず、私は1人であたふたしてしまった。

「だから、母にはちゃんと面と向かって紹介する時は一緒になりたい人って、いつかは言いたいんですけど…?」

 彼は首をかしげながら、私に目線を合わせて聞いてきた。

「てっ、展開についていけないっ!さっきの話から急すぎない?!それにまだ付き合って1ヶ月経ったくらいだよ?」

「じゃあ、どれくらい付き合ったらいいんですか?」

「どれくらい……って具体的に聞かれるのは……。」

「俺は、あの夏に再会して、色々あったけど、今こうして手を繋いで歩けてるのやっぱ信じられないです。けど……今後、綾音さん以外が隣にいるなんてありえない。」

 彼はそう言うと、手を繋いだまま私の手の甲を自分の口元に寄せた。彼の唇の冷たさが手に伝わって、彼の真剣な目が私を真っ直ぐに見つめ、彼の言葉で私の体温は上昇していく。いつからこんな大人びた表情を彼はするようになったんだろう。

「……嬉しいけど、、、先の話は……まだ……。」

「でも嬉しいってことは、なしではないですか?」

「……う、うん。」

「よかったぁ……。じゃあ、その時にちゃんと言うんで、待っててくださいね。」

「……そんな予告ある?」

「あはは、でも母と兄は綾音さんに会いたそうでしたよ。」

「え、存在、知られてるの?!」

「知ってますよ。年上の彼女できたよって言いました。」

「……それはまた仲の良いご家族ですね。」

「だって、俺の自慢の彼女なんで。」

 私は彼のストレート発言連発に精神的に耐えきれなくなり、手を振りほどいて早足で歩き始めた。後ろで彼が置いてかないで下さいよと、ニヤニヤしながら言ってきたが聞こえないふりをしながら歩いた。正直に言うと、それより自分の心臓の音がうるさかった。

 

 

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