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口直しのサイダー

 日曜日ではあったが18時過ぎという中途半端なタイミングだったからか、カラオケへの入店は意外とすんなり入ることができた。ワンドリンク制だったので、各々店員さんにオーダーし飲み物を待った。私は緊張感からか異様に喉が乾いてしまったのと、さすがに彼の前でアルコールは飲めなかったので、久しぶりにサイダーを頼んでみた。そして本来ならカラオケなので曲を選ぶとこだが、私達は歌いにきた訳じゃないので何をしていいのか少し戸惑ってしまった。私は何と無くタッチパネルで人気の曲や歌われてる履歴をポチポチと見始めた。かたや彼は彼で、マイクを手持ちぶささのあまり持ったり、置いたりとよく分からない行動をとっていた。緊張しているのは私だけではないみたいで良かったと思った。すると扉からノックが鳴り、店員さんがそそくさとドリンクを置いていった。そして私達は何も言わずにそれぞれ頼んだドリンクを一口飲んだ。私はシュワシュワした炭酸が喉を通り、少しだけ気持ちがスカッとした。心を落ち着かせようとしばらく飲んでいると、さっそくな感じで、彼がゆっくりと隣に近づいてきた。私はこの改まった感じが逆に余計に恥ずかしくなってきてしまい、少し会話をして場を和ませたくなった。

「……あ、あのさ、そういえばどこに就職するの?」

「……え。」

「いや、さっき聞きそびれちゃったな~って。」

「…………あぁ、、駅員になるんです。」

「っえ、駅員さん?」

 私は想定外の返答に目をぱちくりさせた。

「あそこの学校は求人くるんですよ。実績が長年あるんで、銀行とか大手でも、高卒で雇ってもらえるんです。けどそれにはそれなりに成績とか優秀じゃないと受けさせてもらえないんで、勉強も部活も必死でした……。俺の家、母親が女手一つで兄貴と俺、育ててくれたんです。兄貴は医者目指してて、国立の大学を特待生で行ってるんです。さすがに俺はそこまでは頭良くないんで、頑張って今の高校入って、早く就職したかったし、安定した職種につきたかったんで……。」

 私は彼がそんな大変な環境とは知らなかったので、ただ感心しながら話を聞いていた。

「す、スゴいね…。お母さんもすごい喜んでくれたでしょ。」

「はい。兄貴も母も、俺以上に喜んでくれました。」

「それに比べて……綾女は大丈夫かな。」

「香坂は大学行くんですよね……?」

「……あー、らしいね。あんまり詳しく聞いてないけど、ただ単純にキャンパスライフを憧れている子にしか見えないんだよね……。そもそも、勉強してるんだか……。」

 すると彼は話が終わるや否や、自分の手を私の手の上に添えてきた。

「……っ!」

「…………嫌、ですか……。」

「い、嫌、じゃない……よ。」

「でも何かしらの話を続けようとしてません……?」

 そう言いながら、今度は手を絡めてきた。私は心臓がどくどくと鳴りながらどんどん加速しているのを感じた。

「…………なん、か、改まると逆に恥ずかしくて……。」

「……俺もですよ。」

「……え?」

 私が彼のほうを見ると彼は顔が少しだけ赤くなっていた。そして私の手を自分の心臓に当ててくれた、確かに同じくらい鼓動が早かった。

「……ね。」

「……うわ。」

「…………綾音さんといると、、いつも心臓もたないんじゃないかってくらい早くなります。」

 そう言うと、心臓に当てた手をぎゅっと握りしめられた。私はその手を見つめ、だんだんと上に視線をゆっくり、ゆっくりと上げた。そして彼と目が合い、心臓が跳び跳ねた。私がそのまま固まっていると、彼はそっと優しく引き寄せて、私の身体を包み込むように抱き締めた。私も彼の背中に手を回し軽く抱き締め返した。

「ふふ、今日、何回抱き締めてるんだろうね……。」

「それくらい、実感が沸かないんですよ。」

「そうだね。沸かないね。」

「…………もう、してもいいですか……?」

「………………うん。」

 私の返事を聞くとゆっくりと顔をさらに近付いてきた。そして反対の手で優しく私の頬を包むと軽くキスしてきた。私はこの間みたいな熱い感じのがくると力が入っていたので、目を見開いて、パチクリしながら彼をまじまじと見つめてしまった。その表情に彼はびっくりしてなのか急に変なことを言ってきた。

「あ……へ、下手でした?」

「え、」

「え?」

 私はまさかの発言にきょとんとしてしまった。彼は彼で本気でそう思っているのか、わたわたしていた。それを見て私は思わず爆笑してしまった。私が急に笑い出すので彼はえぇと言いながら戸惑っていた。

「…ち、違っ、なんか、すごい優しくされたからビックリしちゃって……だって、あの日……。」

 と、私はあの日のキスがスゴかったからと言おうとしたのだが、咄嗟に口を両手で抑えた。すると彼は恥ずかしそうに優しく、私の両手をゆっくり剥がした。

「……だって、いきなりガッツいたら……ひきません?」

「今さら、じゃ、ない……?」

「だからこそですよ。あの日は完全に俺、自分の欲をぶつけた気がして……朝、起きたらいないし、完璧嫌われたって思って……。」

 彼は本当に気にしているようで、顔を下にうつむきながら小さい声でぼそぼそ喋っていた。私はクスっと笑い、彼の後頭部をよしよしと撫でた。

「…今、子供だなって思ったんですか……?」

「うぅん。愛しいって思った。」

「今日の綾音さん、正直すぎて心臓に悪い……。」

「素直になれなれ、言われすぎたので。」

 私は会話中もずっと頭を撫で続けていた。その手をそっと彼が握りしめてきたのでそれをゆっくり止めた。そして恥ずかしそうだが、男の人の目を私に真っ直ぐ向けた。私はこの目に弱い。動けなくなる。

「……綾音さん……。」

 彼は名前を呼びながら、とても優しく、深く、長いキスをしてくれた。しばらくするとまたゆっくりと離れたので、ゆっくり目を開けてみた。彼はこちらを愛おしそうに見ていた。

「……綾音さん……付き合ってくれて、ありがとうございます。」

「こちらこそ……何回も気持ちを伝えてくれてありがとうございます。」

「…………まだしてもいいですか……?」

「いちいち、聞かないで……。恥ずかしくなってきちゃうから……。」

「……でも、恥ずかしがってるのも可愛いので……。」

 彼はそう言うなり、また唇を重ねてきた。今日はあの日とは違う優しいキスだった。私はそれを受け入れ、何度も彼と何かを確認するかのように深いキスを続けた。


 ――――――――――――――――――

 カラオケに来て歌わずに帰ることなんて初めてだなと思いながら、当初の約束通り1時間で店を出た。店を出るとすぐ彼は私に手を差し出してきたので、私は何も言わずその手をとった。さっきまでの甘い幸せな時間を思い出すだけで、顔がどんどん火照らせてくる。彼も同じ気持ちなのかなと思いながらもそんなことは恥ずかしくて彼には確認できない。そしてそのまま駅のホームに向かい帰りの電車を待った。電車を待ってる間、私はチラッと彼を横目に見上げた。近くに立つとますます、身長の高さを実感する。こちらを見ずにスマホをいじっている横顔を眺めながら、今日から彼氏なのかと染々考えてしまった。あの夏の時の再会から今があると思うと不思議だな。そんなことを思いながら物思いにふけってしまい、わりとがちめにじーっと彼を見続けてしまった。

「……あの、見すぎじゃないっすか……。」

「……っ!」

 そう言われてよくよく見たら、彼の耳が真っ赤になっていることに気が付いた。

「…ご、ごめんなさい。」

「俺に聞きたいこととか、ありましたか?」

「うぅん!何もない!」

「……本当ですか、?」

 私は彼の質問に大袈裟に縦に首を振った。

「まー、、、いいです、よ。その代わり、俺もこれから沢山見ますけどね。」

「え。」

 彼はあはは、と笑いながらこちらに笑顔を向けた。その満面の笑みに私は心臓をズドーンと撃ち抜かれた。

「……うぐっ。ずるい、その笑顔……。」

「はい?」

「純也君ってたまにずるいんだよ…知らないでしょ。」

「ちょっと意味が分かりません。それにそれは綾音さんも同じですけどね。」

「私にもちょっと意味が分かりません。」

 そう言うと、2人で目を合わせてクスクス笑った。すると駅のアナウンスが聞こえ、待っていた電車が近付いてきた。今日は別れの1人電車ではなく、彼と共に乗れる電車というだけでさらに嬉しくなった。電車に揺れてる間は、特にいつもと変わらず、最近あった出来事をただお互いに話した。久しぶりに彼とちゃんと話せることが楽しくて、ずっとこの時間が続けばいいのになと本気で思ってしまった。彼との電車の時間はあっという間に過ぎ、いつの間にか最寄り駅に着いてしまった。まだ早い時間だったので1人で帰れると言ったが、何度断っても彼が家まで送るの一点張りだったので、諦めてまた一緒に手を繋いで歩いた。

「はー…俺、今日、嬉しすぎて寝れないかも……。」

 何の前触れもなく、唐突に彼がそう言ってきた。

「えぇ、大袈裟じゃない……?」

 私はまたまたご冗談をみたいなノリで返すと、彼は何言ってるんですかと言わんばかりに繋いでる手をブンブンわざと揺らした。

「綾音さん、分かってないでしょ…。俺がどれだけ必死だったか。あの夏の家で再会できた日だって、話すキッカケ考えて考えて、なんとか行動したんですからね……。喫茶店行くお金だって、毎週は厳しかったから兄貴にお願いして、借りて通ってたんですから……。」

「え、そうなの。」

 私が驚いていると黙ったまま彼がうんうんと頷いた。

「綾音さんに振り向いて欲しくて、頑張りました。ま、勉強も捗って、就職も内定が出て、こうして付き合うこともできて、全部結果オーライです。」

 私はそんな頑張ってくれてたのかと思うと嬉しい反面、やっぱり恥ずかしくなった。それに今日彼が必死に追いかけてくれなかったら、すれ違って終わってしまったかもと思うと、いつも彼の頑張りに助けられてるんだと身に染みた。そして私達は話に夢中だったが、いつの間にか家の前に着いていた。到着したので彼が手を離そうとした瞬間、私はマスターのあの言葉を思い出した。


『考えるのってすごく大事だけど、人間ってシンプルに気持ちで身体が動くこともあるからさ。もしも綾音ちゃんが、何かをふと思った事があったらたまには素直に行動してみるのもありなんじゃないかな…………?』


 

 今度はたぶん私から頑張る番だ。そう思い私は離れそうな手をぎゅっと握りしめた。彼は離れそうだった手が急に握りしめられたのでビックリしていた。私はあることを彼にお願いしてみようと、手をさらに強く握りしめて、意を決して伝えることにした。

「あ、あの……純也君、今少しだけいいですか……。」

「はい。」

「……あの、ね。急で無理だったらいいんだけど……いや、むしろ用事や先約があればそちらを優先して頂いていいんです。」

「……ん?」

「く、クリスマス、いや空いてるならイブでもいいんだけど、どっちか少しだけ会えないかな……?」

「…………。」

「ど、どうしても、仕事がらケーキ売りがあって、1日過ごすのはさすがに無理で……だけど…あ、でも、高校最後だから友達とのやく………。」

「絶対会いたいです!」

 さっきまで横に立っていた彼は私の言葉を遮り、わざわざ正面に立ってまで食い気味に返事をしてきた。私はあまりの即答に驚いて黙ってしまった。その私を見て気付いたのか、彼はハッとして今日一番の赤面症を私に披露した。そして手を握ったままそこにしゃがみこんでしまった。その光景を見て私はあの夏の日の彼を思い出した。私もゆっくりとその場で彼の近くで一緒にしゃがみ、彼が顔を上げてくれるのを待ってみた。

「……純也君、こっち見て。」

「無理。」

「なんで?」

「顔が崩壊してるから……。」

「その顔、見たい。」

「……いじわるしないで下さい……。」

 そう言うと、彼はさらに顔を隠して背けた。その動きでさっきより耳がこちらに向いていた。私はゆっくりと彼に近付き、その唯一出ている耳にチュッとフレンチキスをした。その急な行動に彼はその耳をバッと抑え、目をまんまるにしながらこちらを見てきた。その顔は信じられないほどさらに赤くて、目も見開いていた。やり過ぎたかなと考えていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「え、何、どういう状況…………。」

 その聞き覚えのある声を聞いた瞬間、二人ともバサッと立ち上がりそちらを見た。妹の綾女だった。彼女は訳が分からないという顔をしながら、こちらを見ていた。私は自分の家の前だったことをすっかり忘れていた。二人で何も言えずに黙って棒立ちしていると、綾女が何かを察したのか急にニヤニヤとし始めた。

「ほほぉん……なるほど、なるほど。」

 そう言いながら綾女は私達に近付いて、私と彼の顔を交互に覗き込んできた。さすがに妹に見られたとなると私も恥ずかしくなってきて顔が上げられず下を見続けた。

「イチャイチャするのは良いんですけど、、さすがに実家の前はやめたほうがいいですよ、お二人さん。」

 そう私達に声を掛けた後、綾女は彼の腕をウリウリしながら良かったじゃんと言い残し、家の中に入っていった。扉の閉まる音を聞くと、2人で盛大にはぁーっと溜め息を吐いた。そして思わず2人で目を合わせて小さく笑った。

  

 

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