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九杯目のアフォガード

 目的の図書館に到着するとすでに14時を過ぎていたので、お昼時が終わりなら店内が落ち着いてて、カフェが空いているかもと思い、先にそちらに向かった。案の定カフェはまだティータイムでも無かったので、ちらほらと席が空いていた。図書館の下にあるということもあって、周りの壁には色んな絵画が飾られていて落ち着いている雰囲気のカフェだった。全てセルフサービスのようだったので、レジカウンターの近くに行きメニュー看板を見上げた。軽食がメインなのかパニーニなどのサンドウィッチが多く、さらっと簡単に食べれそうなメニューが並んでいた。その中に私が一際心惹かれるデザートがあった。

「アフォガードがある~。」

 私は目をキラキラさせながら悩んだ。アフォガードは冷たいアイスにエスプレッソをかける物で、アイスクリームとエスプレッソマシンが揃わないと食べれないデザートだ。しかしさすがに先に頼むとアイスがもはやミルクになってしまうので、食事をすませてから食べることにした。私は一番人気そうな生ハムのパニーニとホットコーヒーを頼んで席で出来るのを待つことにした。周りは図書館帰りの人々が本を片手に珈琲を楽しんでいた。家の近くだったら最高だなと思っていると、注文した料理が出来上がったので取りに向かった。やっと食べれる食事だったので、ペロリと平らげてしまい、写真を撮るのを忘れたことに後から気付いた。仕方なく食事の写真は諦めて、再度レジカウンターに向かいアフォガードを頼んだ。シンプルな内容なので、すぐに出来上がり、受け取ってすぐさま写真を撮った。自分で珈琲をアイスの上にゆっくりとかけると、ジワジワとアイスが溶けて珈琲と共にマーブル状に絡み合っていた。私はスプーンですくい、一口づつ味わいながら完食した。食事が終わる頃にはお茶をして帰ろうとしている人達が増え始めたので、食器を片付けて、早速図書館に向かった。図書館は4階~10階までのフロアがあり、一つ一つのフロアはカテゴリー毎に分けられているので資料などはとても探しやすい。最上階はテーブルが多めらしいので、せっかくならと思い下からゆっくり見ることにした。

 始めのフロアは注目されている本の紹介や今月の図書館のトピックスにちなんだコーナーがあった。最近テレビや電車の広告でよく見る本もあったので、感心しながらそこから各フロアを散策した。小学生の時に読んだ児童本を懐かしくて読み返してみたり、中学生の課題図書が代わらないことに驚いてみたり、高校生の時に読んだことがある綺麗なノートの取り方の本を改めて参考にしてみたりしている内に目的の最上階に着いていた。料理などの本は最上階らしいので、そのフロアで目的の棚を探して歩き始めた。到着すると確かにいつもの図書館の4倍以上の本がずらっと並んでいた。その中で初めて見た本や気になった本を何冊か手に取り、席に向かった。今日は休みの一環のつもりで来たので、ノートパソコンは置いてきてしまったが、内容が良ければコピーか借りてもいいなと思った。しばらくそのまま読みふけっていると、いつの間にか閉館まであと1時間くらいになっていた。夜が更けるのも早いな~と思いながら小さく伸びをして、借りようか悩んでいたが、また気分転換で来ればいいかなと元の棚に戻しに行った。本を片付けながらこの後、夕飯どうしようかなと考えているとさらに奥にも席があるのを見つけた。本当に広いんだなと思い興味本位でそちらを見学しようと角を曲がった。しかし目の前の光景に私は足がピタリと止まった。その沢山あるテーブルに男女の2人組が何かの本を見ながら、肩を寄せ合い、こそこそ話していた。本を見ながら何かをまとめているのか各々ノートに書き留めては会話をしていた。その男性は純也君だった。彼はこちらに気付いていないようで、隣に座る彼女に笑いかけながら本を指差していた。その隣の彼女は水族館で会った子とは別の子だったが、可愛らしいミディアムヘアが似合う子だった。私はそこで初めて彼が私以外に優しい笑顔を向けているのを目の当たりにした。そして気付いた。私以外にその表情をしていることがショックな事に……。今さら私は確信したのだ。周りに言われても否定し続けた自分の気持ちをこんな風に分かるなんて…。私は何とも言えない感情になった。しばらく見つめ続けた後、こちらに気付かれてはさすがにまずいと思い、バレないように帰ろうとした。しかし振り向いた瞬間、棚の近くに置いてあった棚に戻すようの本が積まれたキャスターにぶつかってしまい、本が数冊バサバサと落ちた。私はしまったと思い、慌てて膝をつき、キャスターの上に本を戻した。さすがに少し遠いから大丈夫だろうと立ち上がろうとしたら、今度は自分の被っていたキャップがつばが隅にあった本の角にぶつかり、キャップが下に落ちた。私はキャップが転がったほうに手を伸ばして顔を上げた。すると目線の先の彼が私に気付いたのか席を立ち上がっていた。私は彼と目があった瞬間、ついに色んな感情が溢れて涙が溢れた。私は涙がキャップを取ろうとした手にぽたっと落ちたのを感じ、我に返って涙を拭いキャップを掴んで出口に走った。後ろから名前を呼ばれたが、聞こえないふりをしてエレベーターに向かって走った。エレベーターのボタンを連打しても速さは変わらないことを知ってはいたが手が止められなかった。6、7、8、とだんだん近づいてきたので後少しと思い、後ろを振り向くと彼がこちらに走ってきているのが目に入った。私が追い付かれると思った時、エレベーターの扉が開いた。私はそれにすぐさま乗り、先に閉めるボタンを連打して、1のボタン押した。出入口付近まで来た彼は数秒の差で間に合わなかった。私は久しぶりの全速力に息が上がり、肩を上下にゆらしながら空気を沢山吸い込んでは吐いた。エレベーターの階数がゆっくり、ゆっくり下に向かっているのにホッとして胸を撫で下ろした。彼は次の恋愛に進めたんだ。あの日の最後ってそういう意味だったんだと自分の気持ちを無視した結果だと納得させる為の言い訳を自分に言い聞かせながら呼吸を整えた。目的の階数に止まり、1階ですと言うアナウンスを聞いて開いた扉に目を向けると私は後ろに後ずさりした。

 さっきまで10階に居たはずの彼が目の前で荒々しく呼吸をしながら待っていた。私はフロアの階数をエレベーター内で確認したが1と表示されている。まさか10階から階段で追いかけてきたのか。私は降りられず取り敢えず再度閉めるボタンを押したが、彼がそれに気付き、足で扉を押さえて中に入ってきた。そのまましばらくすると扉が閉まり、逆に密室で2人になってしまった。

「………………。」

 私はどうしていいか分からず、彼が膝に手をつきながら呼吸を整えているのを眺めた。

「……はぁ、はぁ、はー、、なん、で、逃げるんですか?」

「…………だって……居ちゃ、いけないって……思って……。」

「……じゃあ、、何で、、泣いたんですか……?」

「……っ!」

 私はとっさに頬を拭った。あの距離なら見られてないと思ったのに見えてたんだ。

「はぁ、綾音さん。1人で泣くくらいなら、、、俺の側に居てくださいよ……。」

「…………ダメだよ。」

「何で……?」

「だって、、、彼女……いるじゃん。」

 と、私が答えると彼はあの子は違いますと言いながらやっと呼吸が整ったのか身体を起こし私のほうに近付いた。私はもうすでに壁に身体がベッタリ、張り付いているので身動きがとれない。すると彼は私が逃げないように顔の近くに両手を伸ばし、そのまま壁に手をついた。

「……綾音さん、、、俺、やっぱり綾音さんが欲しいです。」

「……。」

「あの日……最後とか言ったけど……無理……忘れられない……。」

「……。」

「綾音さん…………俺の、彼女になって……俺の事、、、好きになってくれませんか………?」

 私は最後の彼の問いかけに涙が止まらなくなった。そして喋れなくなってしまったので、代わりにコクンと頷いた。

「…………え、ほんと……?」

 彼は信じられないという顔をしながら聞いてきたので、私はさっきよりもコクコクと首をふって頷いた。それを確認するなり彼は私を強く抱き締めた。私は泣くしか出来ず、彼の胸の中でひくひく泣いていた。

「……ヤバ…………彼女になってくれんの……?」

「…………き。」

「……え……?」

「…………しゅ、純也くん、が……好き。」

 私は泣くのを落ち着かせながら、ゆっくりと彼に思いを伝えた。それを聞くと、彼はさらに私の身体を力強くぎゅっと抱き締めた……。


 ――――――――――――――――――――


「いや、一緒に来てください。」

 あれからしばらくするとエレベーターが急に上に動いて10階に止まった。閉館時間が近付いているので帰る人が押したのだろう。エレベーターの扉が開いて、取り敢えず私達は元のフロアに降りた。彼が相手の子を置き去りにしてしまっているので一度戻らないといけないらしいのだが、さすがに私は恥ずかしくてさっきの場所に戻るのを嫌がっているのに彼が手を離してくれない。

「……ね、私、あの子にもう一度会うの本当に無理……。」

「…………だって、綾音さん、俺のとこからすぐ消える常習犯じゃないですか。」

「……そ、そうだけど……。」

「だから離したくないです。」

「…………純也君……。」

「……はい、何ですか。」

「……純也君からもう離れないから、下で待ってるから……ね、お願い…………それに、ちゃんと、、、その、す、すきって言ったよ?」

 私の最後の一言に彼は顔が赤くなった。そして恥ずかしさを隠したかったのか、手を離してすぐに行きますからねと言葉を残し戻っていった。私はふぅとため息をついて、再度エレベーターに乗り込み、約束通り1階の隅にあるソファて待つことにした。すると少し経ってから相手の子と何かしらの会話をし、エレベーター前で別れ、こちらに早足で向かってきた。私は彼がこちらに来たので立ち上がり、おかえりと言おうとした瞬間、彼は私の言葉より先に抱き締めてきた。私はまさかの行動にじたばたしたが全然離れない。

「……しゅっ純也君?!」

「…………はぁ、いた。」

「…だから居るからって言ったよ。どれだけ信用ないの……私。」

「誰のせいか、自分に聞いてみたらどうですか。」

「……最近の純也君、可愛くない。」

 と、私が言うと元々可愛くないですよと開き直ってきた。そして満足げに帰りましょと言いながら私の手を引っ張った。

 外は満月が綺麗に見えるくらい空が澄みわたっていた。私は隣に歩く彼をチラッと見た。いつもよりもテンションが高く見える彼はすごく嬉しそうな表情をしていた。

「……さっきの子って……。」

「あー、あれは就職先が一緒で同期になる予定の子で入社前の課題をやってたんですよ。本当はもう一人男いるんですけど、インフルエンザでこれなくって……。」

「…………ふーん。」

「……焼きもちですか……?」

「……うん。」

 彼は冗談交じりにニヤニヤして聞いてきたが、いつも意地っ張りな私が素直に認めたので驚いたのか、顔が急に真顔になった。そしてキョロキョロし始めたかと思うと顔を近付けてきたので、私は咄嗟に彼の口元を手で抑えた。彼は不満そうにじっとこちらを見ながら話してきた。

「……何で、止めるんですか……?」

「こ、ここ、道路なんですけど……。」

「……周りに人いるか確認しましたけど……。」

「急に人くるかもでしょ。」

「……我慢、できない。」

 そういうとわざと私の手をペロっと舐めてきた。それがくすぐったかったので、私は思わずひゃっと声が出てしまった。

「……なに、今の声……可愛いすぎる……。」

 彼はそう言いながら、またしても抱き締めてきた。

「…はぁ、綾音さん、俺の彼女なんですか……?」

 彼は噛み締めるように聞いてきた。

「うん。……ねぇ、さすがにギューしすぎじゃない……?」

「足りないです。だってチューもさせてくれないし……。」

「……だって……は、恥ずかしいよ……見られたら……。」

 私は本音を彼に正直に伝えた。すると彼ははぁーと溜め息をついて離れてくれた。私はごめんねと小さい声で伝えると、手を繋ぎながら嫌われたくないんで今はこれで我慢しますとまた一緒に歩き始めた。そんなやりとりをしていると駅に着いてしまった。私は電車に乗ろうと駅のホームに向かおうとしたが、彼がピタリと止まった。そのいきおいで私は後ろに軽く引っ張られたので、どうしたのと聞くと彼はゆっくりと、話し始めた。

「……まだ……ダメですか……?」

「あ、どこかご飯食べに行く?」

「……ここでもいいですか?」

 と、彼が指差した先を見るとカラオケがあった。私はカラオケなんて行くんだと思った矢先、違う意味で行きたいのかと悟った。

「……な、何するの……?」

「……だって、人前じゃ恥ずかしいって……。」

「言ったけど……えぇ。」

「……俺、だいぶ我慢しましたよ、、、ダメですか?」

「…………かん、だけ……。」

「……え。」

「い、1時間だけ……。そしたら帰る……。」

 私の一言に彼はぱぁと顔を明るくしながら、元気よく返事したので私達はカラオケ店内へ入っていった。

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