6話
アレクの館がある区域は、大きな商会や爵位の低い貴族などの富裕層が軒を構えている。そこの通りを歩いている人は、豪奢な服装をしている者が多く、ケーンのように質素な者がいればそれだけで目立つ。家路へと帰る住民たちから向けられる好奇の目を気にすることなく、ケーンは石畳を歩いて行く。
ホークラ王国の王都・ネロスに、ケーンは暮らしている。街の中心には王城がある。その白い
壁が街のシンボルになっている。王都は、王城を中心に三つに分かれている。王城にもっとも近い場所にあり、爵位の高い貴族が暮らすアーバサノット地区。爵位の低い貴族や、アレクのような富裕層が暮らすイズボーン地区。そして、ケーンが暮らしているウィンザー地区だ。
ウィンザー地区に入るとすぐに、石畳の道から土の道へと変わる。ここまで来ると、周りを歩いている人の衣装の質は、ケーンとあまり替わらない。
道には、男女問わず酔っ払いたちが、意気揚々と歩いている。露出の多い服を着た女性、体格のいい冒険者風の男性、腰の曲がった老人など。
路地に入り、いくつか角を曲がる。大通りの喧噪は聞こえなくなり、歩いている人も少ない。ケーンの住居である2階建てのアパートが見えてきた。アパートは、両隣の建物よりも古めかしい。その階段下に広げられたテーブルに、女性と男性が座っていた。テーブルにはベーコンやチーズなどの肴と酒瓶がある。
「もう除霊が終わったのか! それとも、変なことして追い出されたか!」
女性が大声で言う。路肩に広げたテーブルに座っている女性は、リーロ・フォスター。桃色の髪の毛は短くまとまっていて、右耳には髪をかけている。小さな宝石がついているピアスが、リーロの動きに合わせて軽やかに揺れる。
「もう終わりましたよ」
「おお! 仕事早いな! 私が見込んだだけのことある」
リーロはケーンの肩を組む。女性にしては高い身長のリーロの顔が、ケーンの近くに来る。ぷうん、とビールの匂いが香った。
「……あの、アレクさんの家に出たゴブリンの幽霊は、怨霊でした。自然霊じゃなかったんです」
「あっそ。でも、除霊したんでしょ。なにしょぼくれてんの」
リーロはビールを飲む。これっぽっちも興味がなさそうな態度だ。
「おそらく、アレクさんはあの家に魔物を入れています。そこで、魔物を殺しているんだと思います」
富裕層が魔物を殺すことはよくある。日頃の鬱憤を晴らすため、誰にもいえない欲望を満たすため、魔物をいたぶって殺す。
おそらくアレクさんも……。
「よくあることだね。ああ、そっか、ケーンは、フリーになったはじめての除霊だっけ」
「はい。教会にいたときは、ああいうときはすぐに衛兵に通報していたのですが……」
「フリーなんだから、気にしなくていいよ」
「でも、今回はメイドの方が亡くなっています。このまま放っておくのも……」
今回は被害者がいる。おそらく無関係の人が、亡くなっている。
「放っておくしかないよ。それがフリーの霊能力者。知っていて、教会を辞めたんでしょ?」
リーロの言葉が、ケーンに刺さる。
「……はい」
教会を辞めるとき、覚悟を決めたんだ。
ケーンは右手の指を触る。
「だったら、気にしないこと。君は依頼を受けて除霊した。それ以上は気にする必要はないよ」
慰めるように、リーロはケーンの肩を叩く。
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