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5話

「なにを! とっとと除霊しろ!」

「ケーンさん、このままでは旦那様が。お願いします」


 アレクとチャセからの言葉には応えず、ケーンは話す。静かな口調には、先ほどまでの朗らかな少年とは思えない、圧があった。


「怨念が積み重なり発生した自然霊は、その生物の本能に従って行動します。ゴブリンの本能は繁殖行動です。女は犯し、男は食う」


 ケーンはゴブリンの幽霊の隣に立つ。


「ケーンさん、危ないです!」


 チャセは、ケーンに向かって一歩踏み出す。だが、すぐに足を止める。


 ゴブリンの幽霊の真横にいるのに、ケーンは襲われなかったのだ。


「こんなに近くに男がいるのに、襲わない。つまり、このゴブリンの幽霊は、ある目的を持って行動している」


 アレクの目は、先ほどの怯えた色が消え、不安の色が漂っていた。


「自分を殺した者を殺すこと。つまり、この幽霊は怨霊です」


 アレクが息をのむ。


「怨霊は、恨みを晴らすために行動します。自分を殺した者を、殺すんです」


 ケーンはアレクを指さす。


「この怨霊の狙いは、おそらくアレクさんです」

「でたらめを言うな! ひっ……!」


 アレクが怒声を発する。怨霊が思ったよりも近づいていることに気づき、床を這うようにして壁伝いに移動する。


 怨霊の白濁した目は、アレクを追う。ゆっくりと体の向きを変える。


「それは、私も聞いたことがあります。ですが、アンが取り憑かれたのです。もし、もしもですよ、旦那様を狙っているのなら、なぜアンが殺されたのですか?」


 チャセが言う。そのしゃべりの早さからは、焦燥感がにじみ出ていた。


「その場にアレクさんがいなかったからです。幽霊は、生き物から生命力を奪わなければ存在できません。怨霊は、恨みを晴らせないとわかると、生命力を奪うことを優先します」


 それが、怨霊と自然霊の違いだ。自然霊は、その生物の本能に従う。だが、アンは取り憑かれ殺された。


 犯されずに。


「あなたのせいで、無関係の人が亡くなっているんです。一体なにをしたんですか?」

「そ、そんなこと話す必要はない!」


 アレクは声を張り上げる。その目には、すでに不安の色はない。


「そうだろ!」

「……」


 アレクの言葉に、ケーンは唇をかみしめる。

教会の霊能力者ならば、除霊の際に不正が見つかったら衛兵に突き出す。教会の霊能力者は、国の目が届かない場所を監視する役目がある。


 依頼者がフリーの霊能力者に求められているのは、素早い除霊、安い報酬、そして不正を見逃すことだ。


 もし告発したら、一生仕事が来ることはない。


 いま仕事は失えない。


 ケーンは右手の指輪を触れる。


「……僕はフリーですから、依頼者の事情を聞く必要はありません」

「そうだ! とっとと除霊しろ!」


 アレクが傲慢に言い放つ。


「わかりました」


 ケーンは怨霊を見る。体の前で右手を三角形を描くように動かす。右胸から左胸、そして額。思い浮かべるのは、神に捧げる自らの想い。


「エーメン」


 つぶやくように、ささやくように、祈りを捧げるように言葉を口に出す。その一言だけで、魔法が発動する。


 除霊を囲う光の三角形。光が徐々に増し、除霊の姿が薄くなっていく。光で塗りつぶされるように、その体は徐々に薄くなり……光とともに除霊が消える。


「消えた……」


 アレクの部屋を見回す。どこにも幽霊の姿が見当たらないからか、ホッと息を吐く。


「除霊は終わりました」

「こんな簡単なら、とっととやれ!」


 アレクは立ち上がると、机の引き出しを開ける。そこから取り出した袋を、放り投げる。


 袋はケーンの足下に落ちる。その衝撃で、ジャラジャラと音がする。


「依頼料の金貨十枚だ。チャセ、こいつを追い出せ!」


 ケーンは袋を拾い、チャセと一緒に部屋を出る。二人は一階に向かう。


「旦那様が失礼いたしました」

「いえ、僕が悪かったんです。フリーなのに、余計なことを聞こうとして……」


 チャセは階段を降りてすぐ横の玄関ドアを開く。外は暗い。


「ケーン様、本日はありがとうございました」

「いえ……霊能力者ですから」

「リーロ様にも、よろしくお伝えください」


 そう言って、チャセは深々と頭を下げる。


 ケーンは言おうかどうか迷った末に、口を開く。


「チャセさんは、ゴブリンの幽霊が出た理由を知っていますか?」


 その言葉に対して、チャセは頭を下げたままの状態で答える。


「……知りません」


 拒絶するようなチャセの態度に、ケーンはこれ以上踏み込むのを諦める。


「そうですか……」


 これ以上はなにもできない。ケーンは、もし幽霊が出たら連絡をしてください、とアレクへの言付け頼む。


 チャセは、神妙な顔でうなずいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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