4話
「幽霊の気配があるのですか?」
「残念ながら、私はその能力が低くて……念のため、中を見せてもらうことはできますか? すでに発生している幽霊は除霊するしかありませんが、幽霊が発生した原因があるのなら、今後出ないようにすることができるので」
「申し訳ありません。そこは、旦那様から決して開けるなと言われております」
きっぱりと、チャセは言う。
「それはどうしてですか?」
「価値の高い芸術品などを保管しているんです。魔物にかかわるものはないので、今回の件とは関係ないかと」
「そうですか。芸術品なら、魔物は関係なさそうですね」
アレクの言う通り、魔物の幽霊が現れた原因は、店で魔物素材を扱っていることが原因の可能性が高そうだ。
ケーンはロビーを見て回る。とくにおかしなところはない。
だが、なにかが引っかかる。
チャセに礼を言い、ケーンは壁際に立つ。
「なにかあれば、遠慮なくお申しつけください」
そう言ってチャセは、もといた部屋に向かう。
悲鳴があった。
二階から、アレクの叫び声がする。
ケーンとチャセは、目を交わし、すぐに駆け出す。一階の一番奥にあるキッチンから、メイドのマリー出てくる。
「い、いま悲鳴が……!」
「幽霊が出たようです! 一階にいてください」
二階に上がったケーンは、階下にいるマリーに言う。マリーは青ざめた顔で頷くと、さっと引っ込んでいった。
階段を上がって右手に二部屋、左手に一部屋ある。チャセは左手にある部屋の扉を、ノックをせずに開け放つ。
「旦那様!」
チャセが息をのむ。
部屋の前まで走って、ケーンは室内を見る。
ゴブリンの幽霊。小柄なケーンと同じぐらいの体格で素っ裸のゴブリンは、その体が半透明になっている。半透明は幽霊の証だ。
ケーンはチャセの体を後ろへと軽く押し、室内に一歩踏み出す。書斎だった。部屋の両側には天井まである本棚があり、棚には本がぎっしりと収まっている。奥には大きな机。机の周りの床には、大量の紙が散らばっている。
ゴブリンの幽霊は、机の手前にいる。半透明の体越しに、アレクが見える。
部屋奥の隅で、アレクは腰を抜かしていた。彼も、この部屋に入ってきたケーンに気づく。
「は、早く消してくれ!」
ゴブリンの幽霊が振り返る。幽霊特有の白濁した目が、ケーンをとらえる。
ケーンはゴブリンの幽霊に近づく。ゴブリンの幽霊の標的を自分に向けるため、大声を出す。
「こっちにひょい!」
大事なところで噛んでしまった。恥ずかしさで、ケーンの顔は赤くなっている。
噛んでも、これだけ注意を集めれば、ゴブリンの幽霊はケーンを襲うだろう。
しかし、ゴブリンの幽霊は、ケーンを襲うことなく、アレクを見る。そして、体を左右にゆらゆらと揺らしながら、一歩ずつアレクに近づいていく。
「ケーンさん! 早く消してくれ!」
アレクが叫ぶ。ゴブリンの幽霊から離れようと、壁に体を押しつける。
幽霊の動きは緩慢だ。生まれたばかりの幽霊なら、徒歩でも逃げられるぐらい。
「アレクさんに聞きたいことがあります」
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