1話
「フリー霊びょうりょぷひゃのケーン・ヤマザです」
ケーンは、仕切り直すようにコホンと咳払い。顔が赤いのは、夕日に照らされているからではないだろう。
「ひつれひました……」
連続で噛んでしまい、ケーンは言葉を失う。
彼を見かねて、老齢の男性はおずおずと話しかける。
「リーロ様からご紹介いただいた、霊能力者のケーン・ヤマザ様ですか?」
「……そ、そうです」
ケーンは頭を下げる。
「チャセと申します。この家で執事を務めさせていただいています。それにしても……」
チャセは、アレクを見る。
黒髪黒目の青年だ。短い髪は無造作にはねている。幼さの残る顔は、言葉を噛んだせいか真っ赤に染まっている。小柄な体型。黒を基調とした裾の長いスーツは、体よりやや大きい。童顔を相まって、頼りない印象がある。右手の中指には、シルバーの指輪。
「ずいぶんと若いのですね。……いえ、リーロ様のご紹介なので、実力は確かなのでしょうが……」
「頼りなく見えるかもしれませんが、ちゃんと除霊はできますから」
ケーンは頬をかく。苦笑。初めての除霊依頼のため、張り切って一張羅を着てきたのだが、裏目に出てしまった。
「リーロ様のご紹介なので、心配はしていません。それに、教会所属の霊能力者だと、こうも早くに対応してもらえないので、助かります。では、こちらへ」
チャセは左手を腹部に、右手を後ろに回し、礼をする。後ろになでつけた白髪と、仕立てのいい執事服。その所作はきれいで、この館の執事に相応しい品格をまとっている。
ケーンが訪れたのは、大きな庭を持つ二階建ての館だ。館の主は、大商人のアレク・ケンドリー。ホークラ王国内に多くの店を持つ、いま一番勢いのある人物である。
ここ――王都・ネロスにも、アレクの店はいくつもある。安くでよい品が多いため、ケーンもよく利用している。
アレクの館は、豪奢だった。ドアを入ってすぐの広間に飾られている立像や風景画があり、足下には毛の長いラグが敷かれている。
さすが大商人だな。
「旦那様、お客様がお見えになりました」
「入れ」
リビングに入る。壁に飾られた絵画、棚に置かれた美術品、窓を縁取るカーテンには金糸の刺繍で飾られている。贅を尽くした部屋だった。この部屋にあるどれもが、一般人が一週間贅沢に暮らせるだけの価値があるだろう。
革張りのソファーに、でっぷりと太った男が座っていた。年齢は三十程度。きらびやかな服装は、この部屋にとてもあっていた。男は、ケーンをじろじろと見る。
「君が霊能力者か?」
「はい、霊能力者のケーン・ヤマザぢゅす」
最後の最後で噛んでしまった。動揺を表に出さないように、ケーンは冷静を装う。
その様子に、アレクは眉をひそめる。彼は、確認するようにチャセに聞く。
「本当か?」
「はい」
「そうか。いいぞ」
チャセはアレクにお辞儀をすると、部屋から退出する。
「ケーンさん、座ってくれ」
ケーンは、アレクの正面のソファーに座る。
「アレク・ケンドリーだ。私のことは言わなくても知っているだろう。リーロさんから、どこまで聞いてる?」
「なにも。依頼主から聞いてくれとだけ。あ、それと、除霊するのは、ゴブリンの霊なんですよね?」
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