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Slow Encounter 04  作者: quiet
25/30

7-4 交錯




 一種の死刑か、と。

 その顔を見て柾は、すぐさま理解した。


 対象04――友好宇宙生物の手綱握りに失敗した男。

 与えられた役割は、この場所で待つこと。


 もしも対象04がやってきた場合は、説得交渉に当たるように。

 やってこなかった場合は、流れで。死ぬようなら、好きに死ねばいい。


 どちらでも構わないから、とにかくそこにいろ。

 直接死刑にしないのは、その場合のあの対象04の出方がわからないから。切り札として機能するかどうかもわからないけれど、とにかくその場に伏せておこう。そんな、特段の深慮も見られない考えの下、この男はこの場所にいるのだろうと。


 そう、柾は思った。


「わぷ」

「あ、ごめん」

 踵を返そうとすれば、後ろについてきていた七澄とぶつかった。


 彼女は鼻を抑えて、

「ねー。また低くなっちゃったんだけど」

「その身体ならいくらでも戻せるだろ」

「結果がどうこうじゃなくて、ごめんなさいって言葉が聞きたいって言ってるんだよ」

「ごめんなさい」


 二回言わされた、と柾が思っている一方で、彼女は身体を傾けて、それまで柾の背中に隠れていた玄関の向こう側を覗きこむ。


 そして、「あ」と声を上げた。


「もしかしてお兄さん?」

「…………」

「……どうも」


 柾は答えず、考一郎だけが頭を下げる。

 どうもどうもこんばんは、と七澄も頭を下げ返して、


「じゃあ、お邪魔します」

「おい」

「え?」


 柾が咎めれば、彼女は首を傾げる。

 まさか本気でわからないわけがない。この不都合に気付いていて、知らないふりをしている。とぼけている。


「あのさ……」

「いいじゃん。私は最後の晩餐なんだし。ちょっとくらい我がまま聞いてくれたって」


 そう言われると。

 こっちも、強くは出られない。


 一体何を目的としているのか……それを少しだけ考えて、しかし七澄が今更こちらを害するようなこともあるまい、と簡単に結論付ける。


 お節介とか、そういうものなのだろうと思う。

 そしてこの目の前の彼女が、やたらに押し付けがましくそれをするということもないだろうから。


「……わかった。最後の晩餐だからな」


 本当に、食事をするだけ……そういう風に、柾は予想する。

 それだって、今や気詰まりなものではあるけれど。


 少し戸惑った様子で、しかし考一郎もそれを受け入れた。


「寒かっただろう」

「いや。もうそういう身体じゃなかったから」

「寒そうではあったよね」


 そうするほかないのだ、と柾にはわかっている。

 この場で彼は、自分を突き放すことはできない。もう残された役割はそれだけだから。


 対象04――友好型の強力な宇宙生物の機嫌を取って、どうにか地球人の味方でいさせることくらいしか、彼に許された振る舞いは存在していないから。


「飯もう食った?」

 できるだけいつもの調子で訊けば。


「これからのつもりだった」

「またカップ麺食ってんの」

「いや、最近は――」


 考一郎と並んで廊下を歩いていく。

 来たのは二度目だろうに、物珍しそうに周囲をきょろきょろ見回しながら、七澄がその後をついてくる。


 リビングダイニングに入ると、もうキッチンだって目に入る。


「あ」

「え?」


 そこに立っている、前川花と一緒に。


 流石に、足を止めた。

 背伸びして、キッチンの上の棚に手を伸ばしていた前川も、そのままの姿勢で止まった。


「誰?」

 七澄がのんきな声で訊いて、


「俺と同じ組織の人間だ」

 考一郎が答えた。


 睨み合い、というほどでもないけれど。

 柾と前川は、お互いに出方を疑って。


 先手は柾。


「……監視っていうか、罰ゲーム?」

「あんたのせいでね」


 失態の心当たりはある。

 この間の獣の進行態との戦い――あのときのこと。


 自分を止められなかったがために失態とされ、考一郎と一緒にこの致死率の高い場所に置かれているのか。

 それとも、その逆……自分に銃を向けたがために、この状況になっているのか。


 どちらでも哀れなことだ、と柾は思う。

 その気になった自分を止めることは地球の生物では決して成し遂げることのできない行為であるし、一方で銃を向けたことも職務を全うするためにという観点から見れば、その場でできた精一杯だったのではないかと思う。


 考一郎と一緒になって説得に当たること……それが客観的に見れば彼女の取れた中でのベストの選択肢だったとは思うが、しかし他ならない自分自身が「そうしたとして決して自分は耳を貸さなかった」という確信をもっているのだから。


「……運、悪いすね」

 そうとしか、彼女にかける言葉はない。


 また少しだけ、にらみ合いよりはかろうじて柔らかい、視線の交換会。


 はあ、と折れたのは、前川が先だった。


「……何しにきたの」

「飯食いに」

「そんなに量は……あ」

 言いながら、彼女は柾の持つレジ袋に目を向けて、


「窃盗?」

「金だけ置いてきました」

「そう。……んじゃ、座ってたら。材料だけ貰えれば一緒に作ってあげるから」

「いや、俺も最後の料理になるかもしれないんで。そっちこそ座っててもらえると」


 再びの視線交錯。

 秒針がものすごくゆっくりと三つを打って、次の声は七澄。


「二人で作ったら? キッチン広いし」

 ものすごくのんきな声だった。


 誰そいつは、とようやく前川の目が彼女に向く。

 どう説明しようかな、と思って柾が振り向くと、七澄は前川に向かって「こんばんは」のジェスチャーだけをしている。


 面倒なことになる前に、と。


「じゃあ、一緒にやりましょうか」


 柾から言い出せば、ギョッとした顔を前川はする。

 何かを反論する前に七澄は「んじゃ私、お兄さんと待ってるね」と言ってリビング側に移動を始めてしまう。


 奇妙なことだし、数分前までは想像もしていなかったけれど。


 柾は肩を並べて、前川と料理を始めることになる。




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