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Slow Encounter 04  作者: quiet
23/30

7-2 前処理




「あれ」

 七澄が首を傾げた。


「すぐにやらないの?」


 疑問に思うのももっとものことだった。


 ここに来るまでの間、柾の目的は間違いなくこのコアモンスターの破壊だった。そうでなければわざわざここまでの道行きを来る必要がない。


 それが、まだ動かない。

 だから、彼女がそうした質問を投げるのも、当然のことだった。


「あ、私のこと愛しくて殺せなくなっちゃった? 照れるなあ」

 アイミッシューつって、と彼女は笑う。


「いや、前処理が要るから」

 一方で、柾は笑わないまま。


〈DPS〉をポケットから取り出す。

 けれどそれはもう、通信機器以外の役割を持たない。


 通話先は、塔山考一郎。


 四コールの後、知らない男に繋がった。


『……もしもし』

「出るのが遅えよ」

 向こうの緊張を見抜いて、しかしなお、強い口調で。


「お前らの現行技術でできることなんて何もないんだから、変な小細工すんな。逆探して灰にすんぞ」


 七澄が驚いた顔をしているのが、視界の端に見える。

 悪いな、と柾は片手を挙げて、


 向こうが言い訳を始める前に、柾は言う。

「コアモンスターを発見した。進行態も全部撃破。言ってる意味わかるか?」

『……要求はなんだ』

「ちげーよ。コアを破壊したらダンジョン構造が崩壊して東京がぶっ壊れるだろ。どうしてほしいかって訊いてんの。地盤が沈下しないように埋めろとか、調査用に空間保全したいとか」


 しばしの沈黙。

 話し合いの声が、遠くでしている。


 その声の動揺具合を聞いて、どうやらそこまで気を回していなかったらしいな、と予測できたから、柾は。


「話まとめて、明日の正午までに連絡しろ。俺がやる気になるかどうかもあるから、案は三つ以上八つ以下で複数持ってくるように」

『待て、対象04――』

「案がなければとりあえず更地にしておく」


 ぴ、と。

 それ以上は、聞かずに切った。


 こわ~、と七澄が言う。


「ヤンキーじゃん」

「俺が怖くないと、困る人がいるから」

「誰?」


 それには答えずに。


「これが前処理」

「気遣いしいだね」

「普通だろ。このサイズの地下空間なんてサイキックがなくなったらぺしゃんこだぞ」


 下手すりゃ東京丸ごと水没、と言えば。

 ヴェネチアみたいでいいじゃん、と七澄は笑った。


「えー、でもそうなんだ」

「何」

「いや、なんか死刑執行が伸びちゃって、かえってドキドキしてきちゃった」

「……ああ。それはごめん」

「自業自得だけどね」


 そうでもないさ、と柾は返す。

 それから、肉の繭の中にいる、彼女の本体――仮死状態に陥ったそれに、目をやって。


「部屋着ダサいな」

「気付かれた……」

「この間はなんか、いい感じだったのに」

「あれはねー。気合入れていいやつ買ってきたんだよ」

「家に人呼ぶときって、どんな格好してればいいのか迷うよな」


 それより、と。


「また時間潰してくの? ここで」

「どうしようかな。引っ越し先の下見とかしてきてもいいけど」

「北極?」

「よく考えたら、陸地が繋がってないなら南極の方がいいような気がしないでもないんだけど」


 でもさ、と彼女は言う。


「ここ離れたら、私ちょっと頑張ればコアの場所移せるよ。その隙に逃げちゃうかも」

「移さないだろ」

「わかんないよ~。たとえ元でも、人間は汚いからね」

「あ、それ、」

「ん?」


 いや、なんでもない、と。

 蘇った記憶は、押し込めた。


「いいよ、別に移しても」

「大丈夫? 私かくれんぼの才能すごいけど」

「『私が隠れてる間にみんな帰ってたことあるし……』とか言うんだろ」

「ギャグを読むな」

「いや、これ前に自分で言ってただろ。夏前くらいに」

「会って半年もしないうちにそんな話する人いる?」

「いたよ」


 鏡見ろ、と柾は言って。


「別に、もう平気だよ。どこに移されても、相手にならない」


〈DPS〉のレベル表示は16。

 この星にいる生き物どころか、自分と同格の唯一の外星生物を除けば、全宇宙で敵はいない。その程度の力は、今、ここにある。


 別に、何をされたところで、大した問題にはならない。


 うん、とひとつ背伸びをした。


「一回、上に戻ろうかな」

「え」

「どうせ東京、まだ人いないだろ。それなら南極に行く前に一回くらいちゃんと料理して飯食ってもいいかなと思って」


 七澄は、ひどく複雑な顔をしている。


「……それ、私がさっきお弁当買ってきた意味、なくなっちゃわない?」

「差し入れが嬉しかったって気持ちは残る」

「丸め込もうとしてきてるな」

「丸まってくれ」


 何もないところにいても仕方ない。

 そう思うから、柾は、


「んじゃ、一回出るか。……あ、疲れてるか?」

「え?」


 七澄は自分を指差して訊く。

 私?


「あ、一緒に行く感じ?」

「え、うん……。ここにいても仕方ないだろ」

「私、料理めっちゃ下手だよ」

「米炊けないもんな」

「米は炊けるよ」

「調理実習のとき……」


 昔話を始めようとする柾に、立ち上がった七澄はその背を叩いて。


 でもお惣菜とかは都内だともう手に入んないよ、と言って。

 別に総菜がなくても飯は作れるだろ、と返す。


 二人で並んで、地上へと出た。




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