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黒猫クエスト  作者: 歯車ギア
7/21

07.蜘蛛の糸



(…あ、悪魔…?)


『そーだよ!気軽に“ラウル”って呼んでね〜♪』



朽ちた黒い剣はそう言いながら、暗闇の中でケラケラと甲高い笑い声を響かせる。


その声色は柔らかく好意的でありながら、どこか不安になってしまうような奇妙な威圧感を感じさせる。



『いやー、びっくりしたよ!突然、上から降ってくるんだからさ。もう誰かと話すなんていつぶりかなぁ…』


「………」



意気揚々と語り出す剣に対し、俺は未だにこの状況を飲み込めないでいた。



俺は夢でも見ているのか…?



喋る剣なんて、創作や伝説上でしか聞いたことがない。


そもそも俺は一言も喋っていないのに、この剣はまるで思考を読んでいるかのようにそれに反応してきた。それも“日本語”で。


見たところスピーカーのようなものは見た当たらないし、どういう原理で喋っているんだ?



それだけじゃあない。


俺は確か、あのカワウソもどきと乱闘中にここへと落ちてきた。


上の穴から漏れる光の量から察するに、相当な高さから落下してきたはずだ。



それなのに、俺の体にはかすり傷ひとつない。


カワウソもどきに噛まれた首の傷も、ないのだ。


かなり深い傷だったのに、俺が少し気を失っていた間に跡形もなく消えてしまっている。

寝ている間に塞がったのだとしても、ここまで跡が残らないのは明らかに不自然だ。



うーむ…。


疑問は湯水のように溢れているのに、それを上手く言葉にすることができない。



あれがそうだとすると、これがあれでそれでどれ…???



『ねー、おーい?…聞いてるのー?』


(え、あ、あぁ、ごめん…)


『ごめんって…、絶対聞いていなかったでしょー?』



必死に頭を回していると、ふと剣…もといラウルが心配そうに声をかけてくる。


考え事をする時に周りが見えなくなってしまうのは俺の悪い癖だ。

慣れない会話方法に戸惑いつつも、素直に頭を下げる。



…とにかく、今は情報が欲しい。


せっかく話が通じる相手と出会えたんだ。

悪魔だのなんだのは後回しにして、少しでも情報を得たい。



(えっと…ラウル、さん?)


『ラウルでいいよー』


(あー、ラウル?

ここがどこか、わかります?)


『ここはねー、“穴罠蜘蛛(アナワナグモ)”の巣だよ』


(穴…罠…?)


『そーそー!』



そう言ってラウルは、“穴罠蜘蛛(アナワナグモ)”について話し始める。


軽くまとめると、この森に住む大型の蜘蛛らしい。

大きさは俺と同じか、少し小さいぐらい。


彼らは地面に縦穴を掘り、そこを巣として使うのだそう。


穴を掘った跡、入口を落ち葉や枯れ木などで覆い隠し、いわゆる“落とし穴”を作る。

そして何も知らずにそこへ落ちてきた獲物を、仕留めてしまうのだという。



つまり俺は今、絶賛その“獲物”になってしまっているということだ。


一難去ってまた一難…にも程がある。

昔から運が悪かったが、まさかこんなにも災難が降りかかるなんて…命がいくつあっても足りやしない。



幸い、穴罠蜘蛛は臆病な性格らしく、獲物が元気なうちは無理に襲おうとはしないのだそう。


だがいつ襲ってくるのかわからない以上、できるだけ早めに…少なくとも日が昇っているうちにはここから脱出したいが…



『うーん、無理じゃない?』


(…だよなぁ)



罠とは獲物を捕まえ、逃がさないようにするためのもの。

ならば当然、そう簡単に脱出できるような構造にはしないだろう。


実際、見える限り出入口は天井にある穴1つのみ。

しかもかなりの高さがあって、登って脱出することは難しそうだ。



『もしかして、お困りかい?』



悩んでいると、ラウルが横から声をかける。



(ラウルって大悪魔…なんだよね?)


『そーだよ?』


(ならさ、悪魔の力で俺をここから脱出させることって…できない?)


『…いやー、本当はそうしてあげたいんだけど…』



そう言うとラウルは、バツが悪そうに言葉を濁らせる。



『今はこんな姿だけど、ホントはもっと凄いんだよ?


強くて、かっこよくて、勇ましくて、荘厳で…!


その名を聞けば誰もが畏怖し、その姿を見れば誰もがひれ伏す!

その力は時に天地をひっくり返し、ある時代では“神”とさえ呼ばれていたこともあったさ!



でも昔、変な魔法使いの力で、この剣に封印されちゃってねー…。


それで何とか封印を解こうと、色んなところを転々としていたらこんなところまで来ちゃって…


今じゃあほとんど力も失って、ろくに動くことさえ出来ない始末さ』



自虐気味に呟いた後、少し寂しそうに目を伏せる。

どうやら彼にも色々事情があるらしい。



『あ、でもまだ完全に力を失った訳じゃないよ?

その証拠に、…ふぬぬぅ…!!』



ボフン!!



(うわっ!?)



力みだしたかと思うと突然、気の抜けた爆発音と共に周囲に黒い煙が立ち込める。

その風圧で細々した塵が舞い上がり、剣の周りをまるで煙幕のように覆い隠す。


しばらくして煙が落ち着いてくると、煙幕の向こうから1つの影が現れてくる。



少し青みを帯びた黒い羽に、暗闇に爛々と輝く赤色の双眸。

長く伸びた尾羽根と、その間から歪に伸びた三本の足が顔を出す。まるで枯れ枝のようなその爪先には、黒曜石のように輝く黒い爪が光る。


その形状は正しく、神話に出てくる“八咫烏(ヤタガラス)”に酷似していた。



『どうだい凄いだろー?

これは“分体”といってね、いわば僕の一部みたいなものさ』



驚く俺を見ながら、三本足のカラスは自慢げにふふんと胸を張る。


確かに凄い。

だが…



(なんか…小さくない?)


『うぐっ…』



よく見る普通のカラス、ハシブトガラスは体調40〜50cm程度。

しかしこの三つ足のカラスは大きく見積もっても30cm程、下手したらそれ未満だ。


しかもよく見ると羽が異様なほど小さい。

これでは飛ぶこともできないだろう。


それに…



『あーもう、うるさいうるさい!

仕方ないじゃん、封印されちゃってるんだからさー…!

それに、君を助けたのも、この力なんだよー!?それなのにさー!!』


(いてっ、いてて…!?ごめん、ごめんて…っ!ちょ、ついばまないで…っ!、!)



どうやら地雷だったらしい。


凄い勢いで身体中の毛をブチブチと引き抜かれてしまう。



なんでも俺が落ちてくる時、受け止めようとこの分体を出してくれたらしい。

完全に受け止めきることは出来なかったけど、少なくともクッション程度にはなってくれたそう。



それだけじゃなく、傷を塞いだのもこの力によるものらしい。

なんでも、分体の特性を生かして相手と同じ細胞を作ってうんぬんかんぬん…。


あまり大きな怪我は難しいが、かすり傷程度ならこの力で治せるそうだ。



しかし、俺も言った通り分体は飛ぶことが出来ず、自身を掴んで持ち上げるようなことは出来ない。


それに燃費も悪く、分身を維持できるのは30秒程とかなり短い。


そのため、今まで何度も脱出しようと試みてきたものの、上手くいかなかったらしい。



(うーむ…どうしたものか…)



少し禿げてしまったお尻を擦りつつ、陽光を零す天井の穴を見つめる。


このままじゃ餓死するか、その前に蜘蛛に食い殺されるかぐらいしかない。


だが、そんなの両方ゴメンだ。


しかし、だからといって今の状況を打開する策も思いつかない。


一体どうすれば…



『ねえ、君。ここから出たいのかい?』


(ん?あぁ、もちろん)


『ふーん…』



なんか含みのある言い方…

まるで何かを吟味するようにこちらに視線を向ける。



『実は1個だけ、ここから出れそうな方法を知ってるよ』


(っ!?ほんとか!?)


『うん、ただ出れるかどうかは君次第というか…』


(君次第…?)



少し言い淀んだあと、覚悟を決めたようにラウルは呟く。



『君、僕と“契約”してみないかい?』



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