感染
8月15日
僕は、意外と早くベッドの外に出た。すると、リビングにはお父さんを除くエミリーとお母さんがいた。エミリーはシリアルを食べながらテレビを見ていた。お母さんは、作業服とお父さんの作業服を洗濯カゴに入れて、洗濯機へ持って行った。すると、
「お兄ちゃん、おはよう。」
エミリーが暗い声でそう言った。無理もない。なんせグロテスクなものを見てしまえば暗くなる。そして、自分のシリアルを作り牛乳を入れて、テレビを見ていると、昨日の動物園の事故で話題は持ちきりだ。
「中国からきたライオンだから獣化ウイルスに感染していたから暴れていたんじゃないのか?だから、ライオンは、お遊び感覚で噛もうとして、感染させようとしたんじゃないですかね」
一人の有名なコメンテーターがそう言った。僕の心の中では、
『お父さんが感染してしまえば、僕たちはどうなってしまうんだろうか。』
すぐに頭から出てきてしまった。きっと違う。僕は、そう思いながら、シリアルの中にある牛乳を少し飲んだ。すると、
「ケイト!今日は、お母さんは、お父さんを病院に連れていくから少しの間留守番してて」
お母さんは、僕にそう言ってお父さんのいる部屋まで行った。すると、
「キャアアアアアアアア!!!!!!!」
お母さんの悲鳴が聞こえた。僕は急いで階段を登り、お母さん達がいる部屋へ向かった。そこには、腕がライオンのような毛皮が覆い、ライオンの尻尾が生えているお父さんがいた。僕もお母さんと同じくびっくりした。
「お父さん!!! 大丈夫!?」
僕は、お父さんにそう言った。お父さん自身もびっくりしていた。そして、
「お母さん。すまない。僕は感染しているみたいだね。ケイト!今すぐ911に通報して、救急車と防護服を着た人を手配してくれ!」
お父さんがそう言って、僕は、急いで階段を降りリビングにある固定電話を使って911に連絡した。
「こちら911です。火事ですか?救急ですか?事件ですか?」
911から出てくれたのは男の人だった。僕は、
「救急です。助けてください!お父さんが獣化ウイルスと思われるようなものに感染しました。救急車と防護服を着た人をお願いします。」
僕は、パニックになりながらも落ち着いて話した。すると、
「わかりました。あなたの住所はどこですか?」
僕は、911の人のために住所を教え、15分後に来ると言われた。一方、お父さんはお母さんを一階に降りるように指示するような声が聞こえたと同時に、お母さんは、一階へ降りてきた。
15分後
救急車のサイレンが僕の家の前で止んだ。すると、
「患者はどこですか?」
防護服を纏った救急隊員が言うと、僕は、急いでお父さんのいる部屋へと案内した。そして、お父さんは救急車に乗って病院へ行った。僕たちも後を追って病院ヘ向かった。すると、
「アンディさんの家族ですか?アンディさんが感染したそうですね。そのことについて詳しくお伝えくださいませんか?」
病院のロビーに着くと、マスコミ達が僕たちを囲んで質問責めしてきた。正直迷惑だ。多くのコメディアンが迷惑がるの気持ちがわかるのような気がする。お母さんは、
「やめてください。私たちは夫の様子が気になるだけなんです。通してください。」
怒りながらそう言った。エミリーの方を見てみると泣いていた。心のない質問が連続で聞いてくるのだ。マスコミたちは、全く言うことを聞いてくれなかった。すると、
「そこをどいてください。じゃないと、警察を呼びますよ。全員の顔を覚えました。」
そう言ったのは、受付にいた病院の職員さんだ。そして、マスコミ達は、逃げるようにして病院を去った。僕たちは、受付の人に頭を下げて、受付の人からどこへ運ばれたのかを聞いた。
「感染者の病棟がないので現在は、集中治療室へ行きました。できるところまで案内します。」
注意した受付の人が僕たちを案内してくれた。そして、僕たちは集中治療室の入り口で待った。すると、先ほど搬送していた、救急隊員の一人が待っていた。
「先ほどは大丈夫でしたか?この先は医療関係の人しか入れないところなのでご理解お願いします。そして、感染の確認がありました。ライオンのような体になってるのは覚悟してください。僕の名前は、イーサン・ホンダです。また何かあれば、こちらの電話番号にしてくると駆けつけます。僕は、獣医の免許も取得しているので、いつでも見れますから。」
そう言って、イーサンはどこかへ行ってしまった。僕たちは、集中治療室の入り口で待機していると、
「アンディさんのご家族ですか?」
お父さんの担当している医者なのだろう。僕たちは、医者の説明を聞いた。
「アンディさんの現在の体には、背中と尾骨、腕、太腿が感染しています。医療レベルでは、レベル3です。治すワクチンもありません。アメリカではまず、最初の感染者となります。努力をして、完全感染にならないようにこちらも手を尽くします。中国では感染を終わらせて退院させて家庭で過ごすことを中国では推奨されています。」
医者は、持っていたiPadを僕たちに見せて、お母さんと顔を見合わせてどうするかを考えた。アメリカでは前例がないことからどうするかを考えていたらしい。僕は、お母さんと目を見合わせて、
「お願いします。そこから感染拡大があるかもしれませんが、その時は、どうするのですか?」
僕たちは、医者に聞くと、
「先ほどいたイーサンさんに見てもらうかもしれません。彼は獣医でもあり、心理カウンセラーでもあるみたいです。そして、さっき政府からの電話で、アンディさんとそのご家族を監視するようです。だから安心してください。」
僕たちは、少しばかり安心した。でも、自分たちも感染するんじゃないかとも思った。そして、僕たちは、ロビーに戻りそのまま病院の出入り口から外へ出てお母さんの車がある駐車場へ行った。そして、帰路へついた。すると、
「アンディさんは大丈夫でしたか?」
バイクに乗ったイーサンが声をかけてくれた。僕は、
「はい。大丈夫です。」
小さな声で言ったことがわかったのかイーサンは、
「一応、獣医でもあるので、電話してくれたら行きますからね。」
イーサンはそう言って、別方向へ行ってしまった。そして、僕たちは家につき、僕は、シェリーの部屋を掃除しようとした。すると、
「お兄ちゃん!私も手伝っていいかな?」
エミリーはドアからひょっこり顔を出して、まだトカゲに慣れてないのか、シェリーがドアの近くに来ると、エミリーは少し、後ずさった。僕は、シェリーが脱走しないように、後ろ足と前足の間のお腹を持ち上げて、後ろへ下がった。そして、
「エミリー!!今なら、ドアの手前が行けるからそこをやってくれないかな?僕は、シェリーを持っておくから安心して!」
僕がそう言うと、エミリーはドアの手前にある動物の血を濡れた雑巾で拭いてくれた。すると、
「痛った!!」
シェリーが突然暴れて、左手首上部と右手首上部を引っ掻かれてしまった。すごく痛い。そして、シェリーはエミリーのところへ走り出した。エミリーは、びっくりして急いで逃げた。すると、向きを変え今度は僕の方へ歩み寄って僕の右ふくらはぎを噛んできた。
「やめろ!!シェリー!!!すごく痛いんだ!」
僕が叫んでいると、
「ケイト!!大丈夫?!」
お母さんが急いで、シェリーを僕から離してくれた。すると、僕のふくらはぎは、血を流していなかった。僕は血が流れている感触があった。その代わり、シェリーの唾液が傷口から垂れていた。お母さんは、急いで救急箱を取りに行って、救急箱から包帯と薬液を取って、僕のふくらはぎに薬液をたくさん流して、その上に包帯を巻いてくれた。まだ痛いが、少しは、慣れた。でも、不安があった。長年一緒に暮らしていて、こんなに暴れたことはなかった。そして、それと同時に感染したんじゃないのかと感じてしまい、背中からは、とても冷たい汗が滴り落ちてきた。僕は、
「お母さん。僕は、シェリーとこの部屋にいるから、戻っていいよ。何かあったらまたその時に言うね。」
そう言って、僕はお母さんを廊下に出して、シェリーと一緒になった。シェリーは先ほどのように暴れていたのが嘘だったかのように僕にすり寄ってきた。これがいつも通りだ。そして、僕は横になりシェリーと一緒に眠りについた。
ー次話へ続くー