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光のユースティティア  作者: 志摩 さつき
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始まりの徒花

初投稿です。

……耳元で何かがうるさく鳴り響いている。

 カーテンの間から差し込む朝の日差しに照らされ、俺、暁月光の一日は始まりを告げた。

 耳元で鳴り喚くスマートフォンのアラームを止め、あくびと伸びをして部屋を出る。


 今日は憂鬱な月曜日だ。休日は終わり、また新たな1週間がやってくる。

 と言っても内容はおそらく先週とほぼ変わらない、退屈で単調な7日間だ。

 無駄に過ごしている自覚も虚無感もある。

 新しい刺激も欲しい。

 しかし、何をしても退屈で続かない。

 周りの悪意を強く感じてまた俺は俺を1人にしようとする。

 ……それでもいつか報われるからと思えばいいんだろうか。


 ぼんやりとリビングに向かった俺はテーブルに用意された朝食を食べつつ朝の情報番組が流れるテレビに目を向ける。

 そこには、連日起こっている奇妙な事件についての速報が流れていた。


『午前4時頃、渋谷スクランブル交差点上空に突如出現した黒い穴から現れた謎の黒い生物に対し、自衛隊が攻撃を仕掛けています。』


 自衛隊が動くほどの規模で、世界各地に表れ始めた謎の黒い生物。

 その生物は人を襲い、捕食するとの報道だ。


「物騒ね……学校、気をつけなさいね」


 キッチンからテレビを見ていた母が俺を心配していた。


「あぁ、まぁ大丈夫だろ」


 コーヒーを飲みつつ適当に返事をし、一息ついて立ちあがり鞄を背負う。


「じゃ、行ってきます」


「うん、気を付けて」


 あくびをしながら家から出た俺はいつも通り高校へ向かう。

 高校へは徒歩で20分ほど歩けば到着する。スマホを見つつ歩けばすぐの距離だ。



 そんないつもと変わらない景色が流れる視界の端にどこか異端な服を着た少女が一人。

 真っ黒なローブを羽織り、表情が見えないほどフードを深くかぶっている。

 そしてその少女がどういうことか俺に歩み寄ってきた。


「……貴方が………」


 そう俺の前で小さく呟き、やがて少女は手のひらを俺の眼前に向ける。


「あ、あの……?」


 困惑する俺を置き去りに少女は続ける。


「きっと【今回の貴方】なら救世を………」


 少女はローブの下にわずかに見える頬に涙を流し、薄く微笑む。


「え?あ、あの…?」


 その直後、少女の手のひらが眩しく光り、辺りは選考に包まれた。


「この徒花を断ち切って……今度こそ私を……」


 光に照らされた少女はどこか儚い笑顔でこう言った。


「あなたの手で、殺しに来てね」


 その言葉が紡がれた刹那、光はさらに強く輝き、俺は自分の周りを一切把握できなくなった。



 ーーーそれから数十秒後、光がようやく弱まった俺のいた場所は、灰色で何もない、虚無の空間だった。


「ここは……」


 どこを見ても何もない、もはや今見ているのが上なのか下なのかもわからなくなるほどの虚無に包まれた俺は、完全に困惑しきっていた。


「そうだ、あの女の子は……」


 ここに来る前に最後にあった出来事。そう、謎の少女との出会い。


「救世…とか言ってたな……」


 少女の言葉を振り返り、『救世』という言葉を思い出した。

 そしてその後に続いて発言した『徒花』という言葉。


「徒花は確か…実を結ばない花……」


 実を結ばない花を断ち切る。今の俺にはその意味が到底理解できなかった。

 それから数分。頭を悩ませる俺の前に一筋の光が姿を現した。

 どこか寂しさと切なさを感じるその光に俺は手をかざした。

 俺が手をかざすとその光はより強く光り始め、指の間から漏れる光に目を焼かれるようだった。

 そしてその光の中から聞き覚えのない声が聞こえ始めた。


『ーーーあなたが存在するその理由はーーー』


 聞いたことのない声だった。しかし、なぜかその声を聴いていると涙があふれるほど安心することができた。


「……………」


 俺はその声の問いに答えることができなかった。それはなぜか。

 答えは明白、俺がこれまでを無駄に無責任に生きてきて生きる理由など考えることもしなかったからである。


『ーーーあなたがいない世界など、あってはならないーーー』


 光の中の声は続ける。


「……?」


 俺はその発言に困惑した。何の話をしているのか全く分からなかった。

 俺がいなくても世界は変わらず回り、皆が未来へ進む。その絶対の理を否定するようなその発言に俺の理解は追いつかなかった。




『ーーー【懐世】すらも凌駕し【全知】すらもまだ知らない先の未来へ進むためーーー』




『ーーーその徒花を断ち切るべしーーー』




 その言葉を最後に声は途切れ、それと同時に光はさらに輝きを増す。ここへ来る前の少女の手のように、辺りを包むような光に呑まれ、再び俺は意識を手放した。


 【懐世】、それに【全知】。徒花の意味も状況も何もかも理解していない俺の脳に新しい情報が次から次へと入って頭の中を駆け回る。意識のない俺は夢の中でその意味を考察した。


 ―――当然答えなど出るはずもなかった。

 【懐世】も【全知】も、これまで過ごしてきた時間の中で一度も聞いたことのないものだったのだから。


 ーーー数時間考えただろうか。沈み切った俺の意識はようやく水面に浮かぶようにして戻ってきた。

 ゆっくりと覚めた意識で辺りを見渡すとそこは、全く知らない町の全く知らない広場だった。

以上初投稿でした。

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