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夏のホラー2020

ゾンビの大群

 青白い肌、ボサボサに乱れた髪。ゾンビたちの顔には色はなく、覚束ない視線を宙へさ迷わせている。

 定められた位置、同じ場所、同じときに整列し、運ばれるのをじっと待っている。

 ゾンビは年を重ねる度に撒き散らす腐卵臭が濃くなっていく。まだ若いゾンビであっても、場合によっては猛烈な腐臭を放つことがある。

 女のゾンビは顔を塗り固めた仮面で被い、来る戦いに備える。男のゾンビは抜け落ちてわずかばかりの髪の毛をかきあげ、貫禄を露にする。

 しかしそれらは、一歩退いて俯瞰すれば、どのゾンビもまるで見分けなどつかない。

「ワタシハ、ナンノタメニ、ゾンビニナルコトヲ、エランダンダロウカ」

 沈黙のいきれの中に、ゾンビの呟きが漏れた。

 ゾンビは毎朝早く目覚め、悪臭漂う袋を道端で切り離す。ぞろぞろとゾンビの群れに混じって、操り人形よろしく決められたレールを歩む。先は真っ暗闇で、どこに出口があるのか判然としない。しかし歩み続けなければゾンビはゾンビであることすら叶わない。

 深夜まで歩き疲れたゾンビたちが巣に戻るころには、世界に音はなく、昼間の苦い思い出たちと対話すること以外にすることはない。

 早朝と同様に、決まった位置で整然と立ち並ぶゾンビたちは、日毎に増していく腐臭を気にしていた幼いころに自分を重ねる。

「うわあ、くっせー」

「こら、そんなこと言わないの。頑張ってるんだから」

「嫌だ嫌だ。洗濯物分けてよ」

「仕方ないわね」

 あれはまだゾンビではなかった時代。往復切符などない、どんなに願っても進んだ時は巻き戻せないことを、ゾンビは身をもって知った。

 辛酸辛苦を嘗め、荒れ狂う波を乗り越えてきて、身体に刻まれた幾千の歴史は、やがてあっさりと朽ち果てるだろう。そして最後には何も残らない。

「ウワア、クッセー、カ」

 久々にゾンビは笑った。前に並んでいたゾンビが振り返って怪訝そうにしている。

 ゾンビがその台詞を味わうようになるのは、まだ少し先の未来だ。それはゾンビの人生に残された、僅かな愉しみのひとつでもあった。

 ふいに鋼鉄の直方体が凄まじい音をたててやってきた。ゾンビたちを運ぶ直方体は、或いは巨大な棺桶のようでもあった。

 棺桶が開くと、すでにおびただしい数のゾンビで溢れている。どのゾンビも虚空を見つめ、だらりと垂れ下がった肩が、陰鬱な雰囲気を醸している。

 ホームに整列していたゾンビたちは、狭小の間隙めがけて突撃していく。揉みくちゃになった車内に、遠くから抑揚のないアナウンスが飛び込んでくる。

「扉が閉まりまぁーす。ご注意くだすわぁーい」

 こうしてゾンビたちの日常は繰り返されていく。(了)



愛すべきゾンビ各位、いつもお世話になっております‼

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