33.行ってきます
弾き飛ばされた剣が音を立てて床に落ちる。
二人は向かい合ったまま、一人だけが剣を握り、切っ先を向けている。
「……参りました」
「勝負あり! 勝者――アリア!」
グリアナが敗北を認めたことで、決着はついた。
二人の戦いは、見事アリアの勝利で終わる。
アリアは剣を下ろし、深々とお辞儀をして言う。
「ありがとうございました」
相手に対する最大限の礼をつくす。
グリアナも、アリアにお辞儀を返した。
その様子を眺めながら、俺は騎士団長に言う。
「どうですか? 旅の同行者としては、十分だと思いますけど」
「……そのようだ。私も彼女たちをみくびっていた。非礼を詫びなければな……貴殿にも」
「俺は別にいいですよ。頑張ったのはアリアです」
今も、今日までも努力して、足りない実力を補った。
その成果は紛れもなく彼女だけのものだ。
グリアナも、これで彼女たちを認めてくれただろうか。
「すまなかったな。私は君たちをみくびっていた」
「い、いえ、そんな」
「本当にすまない。騎士として、同じ剣士として礼を失する行為だった」
「良いんです。私は怒っていません。たぶん先生もそうです」
「そう……なのか?」
「はい。だってグリアナさんは、私たちのことを心配して言ってくれたんですよね?」
アリアは穏やかな表情でそう言った。
彼女の声が俺たちにも聞こえている。
確かに俺は怒っているわけじゃなかった。
単に認めてほしかっただけだ。
俺の弟子たちの努力を、見て、体験してほしかった。
グリアナが三人の身を案じ、危険から遠ざけようとしていたのは、何となく察していたよ。
「私も先生も、あなたが優しい人だって気付いてますから! だから大丈夫です!」
アリアは屈託のない笑顔を見せる。
何もかもを許すように、無邪気で偽りのない笑顔は、見る者の心を癒してくれる。
その笑顔は、グリアナの心にも届いたようで……
「アリア殿……いや、アリアちゃん」
「え、ちゃん?」
「す、すまない。こんな時に言うのも失礼なのだが……頭を撫でてもよいだろうか?」
「……へ?」
グリアナの口から思いもよらぬ一言が飛び出した。
アリアもキョトンとした表情を見せ、その声が聞こえていた俺たちも、同様に驚く。
「だ、駄目だろうか?」
「い、いえ、それくらい……いいですけど」
「本当か? では撫でさせてもらうぞ!」
グリアナは目をキラキラと輝かせ、アリアの頭を撫で始めた。
理解も出来ぬまま、アリアは身をゆだねている。
「アリアちゃん……なんて健気でまじめな子なんだ! 私は感心したぞ!」
「は、はぁ……ありがとうございます」
「始まったか」
「団長さん? あれは一体……」
アレクセイは大きくため息をもらす。
「あっちが本性だ。彼女は可愛い女の子に目がないんだよ」
「えっ……」
一瞬耳を疑ったが、嘘ではないということを目で見てしまっている。
これでは疑いの余地もない。
すでにキャラが崩壊したように、一心不乱にアリアの頭を撫でている。
「さ、さっきまでと別人ですね」
「……ちょっと怖い」
その様子を見ていたティアとマナも、俺と同じようなことを思っていたようだ。
悪い人ではないとわかる。
そう、わかるのだが……
「あぁ~ 可愛いな~ 食べてしまいたいくらいだ」
「ちょっとそれは困ります……」
もうただの変人にしか見えない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふふっ、そんなことがあったのですね」
「姫様はご存じだったんですか?」
「はい。アレクセイがよく話してくれていましたから」
それはたぶん愚痴だったのでは?
翌朝。
あの戦いから時間が経過し、俺はレオナ姫の部屋を訪れていた。
「体調はどうです?」
「少し楽になりました。貴方のお陰です」
「いえ、そんな」
ただ話をしに来たわけではない。
俺の持つ聖女の力で、姫様の呪いの進行を緩和できないか試したんだ。
結局、身体の痛みや疲れは抑えられるけど、呪いをどうこうはできなかった。
そんなことが出来るのなら、俺の中の六人は天寿を全うできたはずだ。
「大丈夫です、私のことは心配しないでください」
「それは無理な相談です。貴方はこの国の姫様ですから、くれぐれも無茶はしないでくださいね」
「はい。肝に銘じておきます」
「お願いしますね。では、そろそろ行きます。次にお会いするときは、全てが終わった後ですね」
「ええ」
俺は椅子から立ち上がる。
すると、姫様が身体を起こす。
「ユーストス様、どうかご無事で」
「はい。必ず救ってみせます」
俺は姫様と握手を交わした。
その手は弱々しくて、優しかった。
守らなければならない。
思いを強くもち、俺は部屋を出ていく。
王城の外では、アリアたちが待っている。
アレクセイとグリアナも一緒だ。
準備は整い、出発するだけ。
「先生」
「師匠」
「お兄さん」
「ああ、行こうか」
世界を救う旅に――
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