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30.やるべきことを

 精霊と呼ばれる存在を知っているだろうか?

 それは人ではない。

 動物でもなく、植物でもない。

 精霊とは、自然界にあふれる魔力の集合体だ。


 魔力を宿しているのは人間だけではない。

 動物、モンスターはもちろんだが、植物や鉱物も含まれる。

 平たく言えば、この世界に存在する物全てが魔力を宿している。

 うちに秘めた魔力は、意図せず外へ漏れ出す。

 人が呼吸をするのと同じように、魔力は外へ流れ出る。

 魔法を行使できる人間ですら、無意識に出てしまう微量な魔力は制御できない。

 そういった魔力が寄り集まり、精霊は誕生する。


 森で生まれた精霊。

 川で生まれた精霊。

 山で生まれた精霊。

 様々な種類が存在し、それぞれに特徴を持っている。

 宿した魔力の性質が色濃く反映され、強力な力さえ得ることもあるとか。


 呪いの王も、分類上は精霊に属する者だ。

 ただし、大自然から誕生した精霊ではない。

 呪いの王を形作っているのは、憎悪や恨み、悲しみといった負の感情から成る淀んだ魔力。

 つまり、呪いの王は人から誕生した精霊だった。


 その誕生は必然だった。

 争いが激化し、人々の中で負の感情が増幅され、死体の山が築かれていったのだ。

 あふれ出た魔力は一つに集まり、精霊という形に成った。

 誕生したそれは、人々を恨み、呪い、殺そうと動き出した。

 人が生んだ精霊が、人を滅ぼそうとする。

 一見矛盾しているように思えるが、これは甚だ正しい。

 なぜなら人の内には……人を呪いたいという想いが少なからずあって、誕生した精霊はそれを体現しているだけなのだから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 姫様は続けて言う。


「私には『天啓』という力があります。この力のお陰で、少しだけ先の未来が見えます」

「それって未来視と同じ力じゃ」

「いいえ、私は望んだ未来を見ることは出来ません。あるのは天からのお告げだけ」


 姫様は語る。

 ことの発端は今から一月ほど前。

 天啓スキルは、所有者とその周囲に良くないことが起こり得るときに発動するらしい。

 それは突然だった。

 いつものようにベッドで眠りにつこうとした彼女に、天啓は下った。

 

 呪いの王の復活――

 自らの身をむしばむ呪いと、崩壊する世界。

 一気に流れ込んできた映像に、思わず彼女は涙した。


「酷い光景でした……街も人も、動物たちも死に絶えて、何一つ残らない。そういう未来が、いずれ訪れてしまいます」


 俺はごくりと息をのむ。

 彼女の言う酷い光景が、英雄たちの記憶でみた光景と重なるから。

 度重なる争いで荒れ果てた大地は、他人の記憶であれ脳裏から離れない。

 同じことがもうすぐ起ころうとしている。

 そう思うと、身の毛もよだつ。


「ですが同時に、貴方の存在も知り得ました。かつて呪いの王を打倒した英雄たち……その力を受け継いだ者がいると」


 天啓スキルは、最悪の知らせを伝えるだけでなく、それに対抗しうる可能性も提示する。

 それは彼女にとって希望に他ならない。


「とは言え、すぐに貴方にたどり着くことは出来ませんでした。天啓で教えて頂けることは、存在するという事実のみでしたので」

「ではどうやって俺を……あっ、ゴブリンロード?」

「はい」


 なるほど。

 タイミングとしては一致する。

 一か月前から知らせがあって、今日まで接触がなかったのはそういうことか。


「その呪いはいつから?」

「二十日ほど前です。最初は小さかったのですが、日に日に文様は広がっています」

 

 さっき見せてもらった限りだと、姫様の呪いは半分以上進んでしまっている。

 おそらくもって数週間。

 姫様はそれに気づいているのだろうか。


「呪いを受けたのは姫様だけですか?」

「いいえ。家臣の調べによれば、街で原因不明の病が流行っているそうです。直接確認していませんが、おそらく……」

「街の人にも……」

「はい。幸い死者は出ておりませんが、時間の問題だと思われます」


 姫様はそう言って、自分の文様に目を向ける。

 この反応は理解している。

 自分の死期が近いということを……

 知った上で、自分ではなく国と世界を救ってほしいと言ったのか。

 本心だとしたら凄いな。

 俺だったら真っ先に、自分の命を助けてほしいと思うだろうに。


「俺だけを中に入れたのは、天啓の真実を確かめるためですね? 無関係だった場合、外に情報が漏れやすくなるから」

「はい。不安を煽れば、呪いの王の復活を早めてしまいますから」

「そうですね」


 話は一通り済んだのだろう。

 姫様は大きく深呼吸をして、俺の回答を待っている。

 そんなときに俺は、ローウェンの言っていたことを思い出していた。


 君はいずれ、もっと大きな存在と戦うことになる――

 

 もっと大きな存在。

 あれは呪いの王のことを指していたのか。

 彼が継承のスキルを俺に与えたのも、呪いの王を再び止めるためだったのかもしれない。

 だとしたら、俺のやるべきことは決まっている。

 彼の記憶と力、その想いを受け継いだ者の責任として、放っておくことは出来ない。


「俺にしか出来ないこと……か」


 選択は一つ。

 俺と、俺の中にいる彼らが口を揃える。

 呪いの王を倒せと。 

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[気になる点] 「どうかこの国を……世界を救ってください」 倒すしか道は、ないのは分かりますが、対価として何を用意するのかと思う。英雄だからと言っても、仕事として受けるのだから無償ではないだろうし、…
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