虎牢関決戦 1
ここからは長編となります
三日後、袁紹を総大将に虎牢関に向けて出陣した。
その間に曹操、孫堅、劉備の援軍が到着しその士気は高まっていた。
ー虎牢関前ー
虎牢関の前にはすでに凄まじい数の軍勢が居た。
その数は僕陽の時とは比べ物にならないほどだった。
軍議の結果それぞれ別々の敵に当たることになった、公孫サンと劉備のように長く共に
戦っていない者が一緒に戦っても足を引っ張り合うだけと、意見が一致したためだ。
布陣を終えた各軍は一斉に目の前の敵に向けて進撃した。
「怯むな!数で劣れど我等は場数が違う一人一人が全力を尽くせば勝てるぞ!」
劉備は味方を鼓舞しながら必死に戦っていたが、流石に数が多すぎた。
劉備は初めから正攻法で勝てるとは思っていなかった、勝つ見込みがあるとすれば、
それは敵の将を討ち敵の指揮を乱すことだけだと思っていた
そのため、今自分の近くに居るのは新たに加わった簡擁と劉壁の二人だけであった、
他の四人は将を討つため散っている。
自分に矛先を向けてきた兵の首を切り裂きくと、半ば懇願の様な形で思った。
(急いでくれよ、雲長!翼徳!寥化!周倉!)
・・・・・・乱戦の中寥化は一人の男と睨み合っていた、
「久しぶりだな寥化、まさか本当に官軍に下っているとはな。」
「何儀か・・・・・」
覚えていてくれたか、うれしそうに何儀は笑うと槍を構えた。
「待ってくれ、俺はお前と戦いたくはない。お前も分かっている筈だ、今官軍は力を
取り戻してここまで来た。もはや黄巾党に先は無い、降伏してくれ。
昔からの友を失いたくは無い。」
ふふ、と短く笑うと槍を下ろして
「優しいなお前は、昔からそうだったな。張角様に仕える前、何人かで盗みをやった時
おれがへまして捕まりそうになった時、他の奴はとっとと逃げちまったが・・・・
お前だけはおれを助けに来てくれた・・・・・」
嬉しかったぜ、そこで言葉を切ったのでさらに説得しようとした時、僅かに聞こえた、
「でもよ・・・・」
続く言葉を聴こうと動きを止めた寥化を見据えて何儀は動いた、
「裏切り者のテメーの言葉なんかイラつくだけなんだよ!」
叫ぶと共に槍が繰り出される、寥化はそれを必死に防いだ。
「昔のお前に恩は感じている、だがな今のお前には絶望と怒りしか感じねーんだよ!
なぜ裏切った!張角様に会って!お前もその理想を受け入れたろーが!
なぜだ!なぜおれとの友情を裏切った!なぜ張角様の信頼を裏切った!」
叫びながら放たれる槍技を受け止め、受け流す寥化
「今まではな、おれはお前が部下を人質に取られたり!弱みを握られていると!
そう自分に言い聞かせて!お前を信じて来た!それなのにお前は!なぜだ!なぜ裏切った!」
激しい攻撃を受けながら寥化は、説得が無理なことを悟った、そして
「なぜ!!!!!」
大刀で何儀の胴を切り裂いた。
血を噴出し落馬する何儀。
「すまない、友よ。だが私は出会ったのだ。」
関羽の後ろ姿を思い浮かべながら寥化は続けた
「己の武の目標となる存在に、張角よりも強い信念を持つ者に。」
足元で倒れる旧友に視線を落とす寥化、旧友は大地を血に染めながらも笑った。
「そう・・かよ・・・、そうだったな・・・お前は・・・お前の・・信念は・・・・・・・」
ごふっ、と血を吐き出す何儀、しゃがみ込む寥化。
「わかっ・・・てたさ・・・もう・・こう・きんとうはだめだって・・・・・
でもよ・・・・こあくとう・だったおれを・・おやからもみすてられたおれを・・・・
ひつようとしてくれたんだ・・あのひとは・・・だから・うらぎれなかった・・・・。」
何儀は話ながら頬に暖かいものが伝わるのを感じた、薄れていく意識の中でそれが
長年の友の流した、今までただ一度も見たことの無かった、涙だと知った。
最後の言葉を言おうとしたが声が出なかった。
伝わったかどうか分からない、けれども彼なら、自分の人生でただ一人、
心の底から笑い合えた友には、伝わったはずと確信して、
彼は、心からの、最高の笑顔を浮かべて、逝った。
寥化は友がつけていた、かつて二人で手に入れたお守りを首にかけると、涙を払い、
再び戦場へと戻った、友の最後の言葉、声にはでなかったが、唇の動き、そして心で聞いた、
言葉を胸に。
(お前は俺の親友だ)