虎牢関決戦 4
呂布は冷静に今の状況を確認していた。
夏候惇ら四人と新たに現れた四人と自分とその後ろの三人の力を計り勝率を出していた。
結果はおそらく負ける。
一瞬のぶつかり合いで呂布は全員の力を見極め、自分の後ろの三人では一人を相手に
するのが精一杯で自分が五人の相手をすることになり、そして負けることが
長く戦ってきた者の勘で分かった。
ならばとる手は一つ。
「うおおおおおおおおお!!!!」
叫びながら方天画戟を地面に突き刺すと、大地が捲れ砂埃が舞った。
その隙に呂布は素早く退いた、三人もそれに続く。
砂埃が治まった後呂布がいないのを見た全員は一度顔を見合わせた後自分達の隊に戻っていった。
群がる雑兵を斬り捨てながら走る呂布にエン月刀で副将と思しき将の首を飛ばしながら
張遼は尋ねた。
「なぜ退かれるのですか?」
・・・・・
「あのまま戦っても我等は負けていた。呂布殿はそれを知って退かれたのだ。」
黙っている呂布にかわって高順が答えた。
張遼・高順どちらも董卓の配下で、呂布を慕ってその部下になっている。
「親父が退けっていうから退いたけどさ、正直納得いかないんだけど。」
髪の長い女性、名は呂姫、呂布の娘で張遼と打ち合えるほどの力を持つ女性。
不機嫌な呂姫を高順が宥めていると正面から四人ほどの騎馬がやってきた。
殺気を向けていることから敵に間違いは無い、ならばと三人は速度を上げる。
呂布を抜くと一気に間合いを詰め敵と擦れ違う、三人のうち一人は武器を、もう一人は両腕、
もう一人は乗馬を失った。
動揺する四人に呂布が迫る、目の前の死から逃れようとそれぞれが抗う・・・・・
死は平等であった。
武器を失った者は体勢を下げるがそれが仇となり首を失った、両腕を失った者は馬を止めよう
とするが馬ごと胴を斬られた、乗馬を失った者は投げ出されたところを方天画戟に捉えられ
両断され、唯一無事だったものは呂布の一撃を止めようとして片腕を落とされ
もう片方の骨を砕かれ落馬したところを馬を返した呂姫に斬り裂かれ散った。
呂布は退屈そうに虎牢関へと退却した。
董卓・黄巾の両軍は大半を討たれ敗走、ただ一人残っていた胡シンも劉備に後ろから
首を飛ばされ血に沈んだ。
虎牢関を抜いた勢いで洛陽まで進んだ連合軍は洛陽を陥落させたが、残っていたのは
僅かな守備兵と建造物のみで、献帝は見つけることは出来なかった。
その後の情報で董卓は長安、張角は許昌へと逃げたらしいことを知った連合は洛陽で
休息をとることにした。
ー洛陽近辺 劉備軍陣ー
そこに近づく三つの影があった。
気配を消して近づく三人に同じく三人が立塞がった。
「てめーらは何だ?董卓軍か?」
劉備が威圧的に聞く。
だが男は気にせず歩み寄り叫んだ。
「俺は呂奉先!関羽!張飛!この俺と戦え!」
同時に呂布は戟を手に飛び出す、関羽と張飛も得物を持って挑む。
三人は激しく打ち合った。
関羽の素早い連打を受けながら張飛の渾身の一撃をいなす呂布の技量に驚く劉備は
義弟たちの不利を悟っていた。
(恐らく雲長と翼徳の二人がかりならば呂布とも互角に戦えると思っていたが、
甘かったか。)
劉備は歯軋りしながらその様子を眺めていた。
関羽と張飛が協力して互角、それは方天画戟でなく補強してあるただの戟を呂布が使っている
からで、もし方天画戟を持ったら間違いなく負ける。
劉備の心配は遠からず現実になろうとしていた。
呂布の戟が呂布の力と関羽、張飛の力に耐え切れなくなり音を立て始め。
後ろの張遼の手には方天画戟が握られていた。
劉備は一瞬の間を空けた後両手に剣を持って飛び出し、関羽と張飛の攻撃の僅かな間から
呂布に繰り出した。
突然のことに動揺した呂布は反撃が遅れたがすぐに対処を考える。
(反撃、すでに限界近い戟で止めきれる攻撃ではない。
回避、その隙に関羽、張飛の攻撃を受ける。
防御、劉備は防げてもそれで戟は壊れ関羽と張飛に対応できない。)
その全てが無理だと悟った呂布は静かに死を受け入れはしなかった。
三人の目に一匹の獣の姿が映った。