エピローグ.ぼくらはAIと共に
「お、10体10の団体戦の予約やってるよ!ランクF~E限定だって!せっかくだからみんなで参加しない?」
ナギサ、シューマ、カエデの3人がつるみ始めてから数日後のこと。
ANOにログインし、今日は何をしようかと考えていた時、カエデがアクロスギアの画面を見てそう言った。
団体戦、その名の通り複数のプレイヤーが2つのチームに分かれて戦うルールだ。
2チーム合わせて10人から20人、更に多くのプレイヤーが参加することもあるが、今回は10対10のルールとなっている。5対5の対戦形式はナギサがANOログイン初日に少しだけ見学していた。
互いのチームの実力差はあまり開かないようにシステムが調整してくれるし、そもそも今回はランクF~E帯限定のバトルだ。FとEの間にそこまで大きな差は無いと聞いている。
チームへの貢献度や試合中の立ち回りによってバトル終了後に貰える経験値やコインの数も上昇、腕に自信が無いプレイヤーでも安心というルールである。
「1対1の戦いもいいけど、こういう乱戦も経験しておくべきだと思うんだよね。それに色んな戦い方をするデーヴァが見られるから今後の戦いの参考にもなるかも。ボクもちょいちょい参加してるし」
「そうだな。今日はそれを受けてみるか」
「チーム戦か……。一度やってみたかったんだよな」
「うん、ボクたちの華麗な戦い方、みんなに見せてやろうぜ!」
「ま、同じチームになれるとは限らんけどな」
そうして団体戦の予約を取り付けると、その後すぐに定員20名が埋まった。
目の前に“規定人数に達しました。スタジアムへと転送します”という表示が現れ、3人の身体を光が包んだ。
光が収まり、3人は近代風のスポーツスタジアムのような場所に立っていた。
周囲には自分達と同じプレイヤーが17人。自分達と同じ世代くらいの若者からそれよりも年が下の者、もう少し老けた者など年齢層は様々だ。これら全員が整った顔や人間とは思えない身体を持った存在、デーヴァへと変わるのだが。
そして観客席のような場所にはまばらだが観客となるプレイヤーやデーヴァが座っていた。
「ようこそお集りくださいましたー!」
燕尾服のような衣装を着た男性が実況席のような場所に立っていた。よく通る声だ。
「この試合は10対10で行われます!ランクはF~E限定!そしてルールは簡単!制限時間が終了するまでに生存人数が多いチーム、または相手チームを全滅させた方が勝利となります!制限時間は20分!それでは早速、チームの振り分けを行いましょう!」
スタジアム上空に巨大なスクリーンが表示される。『Aチーム』『Bチーム』と左右に分かれて記載されており、プレイヤーの名前が徐々に左右に振り分けられるようにして表示されていく――。
「嘘やん」
ナギサは思わず声を漏らした。
なぜならAチームにシューマとカエデの名前が続けて表示され、その次に自分の名前がBチームへと表示されたからであった。
あちゃー、と苦笑しながらカエデが言い、続けてシューマが笑った。
「……そうだよね。こうなる可能性の方が高いよね」
「ハーハッハッハ!悪いなナギサ。とりあえず覚悟しておけ」
「えぇー……。僕一人かよ……」
3人一緒のチームになる確率は低いだろうなとは思っていたが、まさかあぶれる1人が自分だとは思っていなかったナギサは落胆した。
知らない9人に混ざって戦いかぁ……。VRMMOでそんなこと気にしていたら何もできないけどさぁ……。
と、肩を落とすナギサのもとへ一人の女性が近寄ってきた。
「ナギサさんじゃないか。よく会うな!」
「あれ、ミナミさん!?同じチームだったんだ……!」
見るとスクリーンの表示にはBチームの側にミナミの名前が記されていた。彼女もこの戦いに参加していたのか。知っている人が味方に一人でもいると気が楽だなぁ……!
するとBチーム側にもう一人、知っている名前を発見した。
――あ、この人って。
『モトカズ』。忘れはしないだろう。ANOログイン初日の自分に対してアンティルールを吹っ掛けてきた者の名前だ。彼もこの試合に参加していて、更に自分と同じ陣営とは……。
スタジアムを見渡すと、少し離れた場所に彼の姿があった。天然パーマなのかあちこち跳ねた髪と茶色い上着の青年、モトカズはナギサの視線に気付くと「げっ、アイツは」と言った表情をとった後、小さく目線を逸らした。
おそらく気まずいのだろう。初心者狩りを吹っ掛けておいて敗北を期したので当然ではあるのだが。
ナギサも視線をモトカズから外した。
……やはりお互いに気まずい。狩ろうとした者と被害者が同じチームで共闘など出来るのだろうか。
しかしミナミはそんなことは当然知らないので、「あ、この前の人!」とモトカズに駆けよる。
「ナギサさんと戦った人でしょ?こうして3人また再会できるなんて、凄い偶然だね!」
「え、まぁ……。そう、だね……。あはは……」
ミナミを追いかけてきたナギサは愛想笑いを浮かべるモトカズに対して彼と同じように
「い、いやぁ、偶然ですね!あはは……」
と苦い顔で笑った。
天然なのか、ミナミのみがその場の雰囲気を読み取れず一人笑顔だった。
「さぁ!皆さん準備はよろしいですか!ワタシも観客もお待ちかねですよ!」
実況の声が再び会場に響く。
Aチームはスタジアムの左半分、Bチームは右半分へとそれぞれ散った。
「ナギサ君」
ナギサが腰のホルダーから取り出したアクロスギアから、突然ソウハの上半身が浮かび上がり、ナギサへと話しかけた。
「何?」
「戦う前に言っておきたいことがあるんです」
「どうしたんだよ急に。愛の告白か何か?」
「……いいえ」
真顔でそう返すソウハ。なんだよう。頑張って普段言わないタイプの冗談を言ってみたのに。
……まあ、冗談が通じるタイプの子じゃないのは分かってるけど。
「ごめんごめん。で、何?もうすぐバトルが始まるから長い話なら後に――」
「すぐ済みますよ」
ナギサの言葉を遮るようにそう言ったソウハは右の手を握って拳を作り、自分の顔の前へと突き出した。
「今日も一緒にガンバ!……りましょう。それだけです」
一つの台詞の中で声のトーンを上げ下げしたソウハがなんだかおかしくてナギサはクスっと小さく笑う。
――まったく、可愛い奴だよ君は。
それに応えるようにナギサもアクロスギアを持っていない方の手を軽く握って、ソウハの小さい立体映像の拳にそれを合わせた。
「ああ!一緒にね!」
そしてナギサはアクロスギアを構える。
スタジアムのバトルステージに集った全員がそれぞれのアクロスギアを構え終わると、
「それでは試合開始です!バトル開始の掛け声は勿論!」
と実況の声が再び響いた。エンターテインメント性のある開始合図だ。
そして各々は叫ぶ。バトル開始の合図を。自身の相棒と同調するためのキーワードを。
「――イグニッション!!」
何故戦うのか。それがゲームのルールだから?勿論それもある。
だが一番の理由はこうだ。
(俺のシャルディが――)
(あたしのプロトが――)
(ボクのアーメスが――)
(僕のソウハが――)
――自分の相棒が、一番強くてカッコいいんだと証明するため!
だから今日も、彼らはAIと共に戦うのだ。
◆
鳴海詩奈は悩んでいた。
1年前に出来た義弟とどう話せばよいのか、1年間ずっと悩んでいた。
父の再婚相手である新しい母とはよく喋るし、仲も良い。だが義弟とはどうもうまくいっていない。
父――最近出張に出かけたため今は留守だが――か、母を挟んで会話をすることはあっても、義弟のナギサ君と1対1で会話をすることはほとんどない。
むしろ相手はこちらを警戒しているような、避けているような……そんな気がする。
仕方ない。自分は突然やってきた見知らぬ年上の女性だし……無職だし。
お互いに事務的な会話しかしたことないので趣味も一切分からない。最近VRゲームを購入したらしいことは知っているが、果たしてそのタイトルが何なのか、そこまでは分からない。
自分と同じようにアニメは見るのか、ネットは嗜むのか……。相手の趣味趣向を知らないので話題の切り出し方がさっぱり思いつかない。
分からないなら聞けばよいのだが、出会ってから1年も経ってからいきなりそんなことを聞くのは恥ずかしいし、「えっ、何この人。超キモイんですけど」とか思われかねない。
(うわあああああ!!身内に対するコミュニケーション能力が欲しいいいい!!)
とか、そんなことを今考えても仕方がない。珍しく朝に起きたら義弟と起床のタイミングが被ったものの
「あ、おはよう……」
「ん……、おはようございます」
「…………」
「…………」
としか会話が出来なかったというバッドコミュニケーション反省会をしても本当に仕方がない。一旦忘れよう。
今から自分は珍しく外出するのだ。ゲームを買いに行くのだ。
推しの配信者が紹介していたゲーム、「アクロステージNEXT_ONLINE」を。
これにて1章完結です。「とりあえずプロローグから1章まで合わせて10万字以上にしよう」と、チマチマ加筆修正を行ったり、急に話数を追加したりと大変ご迷惑をおかけいたしました。
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