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21時のピアニスト  作者: 有世けい
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秘密






「じゃあ、今度会うときは、宗さんの顔をじっくり堪能させてもらうわね」


「がっかりさせないといいんだけど」


「でも、兄さん情報では、宗さんは、お洒落なスーツを着こなすイケメンなんだけど?」


「お兄さんの採点は甘いから」


「あら、だったら私のピアノも大した事ないわね」


「いや、きみのピアノに関してはまったく正しい評価だよ。むしろ足りないくらいだ」


「それはオーバーよ」


彼女はクルクルと表情を変えて笑う。瞼をおろしたままなのに、見るたびに変化するそれが愛しい。


「………でも私、もし、初めて見る宗さんの顔がのっぺらぼうだったとしても、嫌いになんてなれないわ」


まるで僕が抱えている憂いを悟ったかのように、のぞみさんは穏やかに言った。


「本当に?」


僕の秘密を知った後も、果たしてきみは同じ事を言ってくれるのだろうか。

そんな不安が過ってしまい、僕はそれを甘い軽口で誤魔化した。


「ああ、でものっぺらぼうは困るな。きみとキスができないから」


そう言って、ベッドに横になっている彼女の指を掬い上げ、整った爪にキスをひとつ。

今はこれくらいしかできないけれど。


彼女はビクッと反応したが「……もうっ」と、愛らしいクレームを口にするので、僕はさらに彼女に触れたくなってしまう。


だがその時、扉をノックする音があって、僕は慌てて手を離した。



「宗くん、迎えの車が来たみたいだよ」


言いながらお兄さんが病室に入ってきた。

お兄さんは、僕がすぐに退室すると思ったのだろう、引戸を開いたまま待ってくれている。


「ありがとうございます。それじゃ、僕は行くよ。……連絡、待ってるから」


明日、彼女は移植手術を受けるのだ。まず片方を移植し、数ヵ月後もう片方の手術を行う。

それから慣れる為に数週間の間をおいて、僕達は再び会う約束をしていた。それまでは、会わないと決めたのだ。

彼女にしてみれば、僕と恋愛を始めるにあたって、両方の目に光を取り戻してから…という風に思ったらしい。

僕はそれを了承した。そして彼女と会えない時間を無駄にしないよう、頑張れる事を頑張ろうと思った。


「宗さん、ありがとう」


部屋を出る際そう言った彼女の晴れた面差しを、僕は記憶にぎゅっと張り付けて、彼女と別れたのだった。




「……宗くん、ちょっといいかな」


廊下に出た途端の言いにくそうな声に、僕は手を止め、お兄さんを見上げた。

そしてその顔を見て、秘密がバレてしまったんだなと悟った。


「両親が、手術の前に宗くんと会いたいと言ってるんだけど……」


僕はこれ以上の誤魔化しは不可能かと、諦めの息を吐いて、下で待っている迎えの人間に連絡した。


「……ああ、僕だ。これから月島さんのご両親とお会いするから、少し待っててくれ。……いや大丈夫だ。心配しなくていい。連絡するまでそこで待機だ」


通話を終えると少し呼吸を整理してから、


「のぞみさんには黙ってていただけますか」


お兄さんに向き直ったのだった。












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