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タタラ ~ナイト・ブラッド~  作者: 寝坊助
第一章 鬼狩り一族の里
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6−3 山嵐 ‐始まりの兆し‐

 傷の手当てを受けたウォレスは、鬼狩り一族の里の本部控えの間に通された。

 ウォレスの目の前には、一族の長でありタタラの父・タタリが佇んでおり、今まさに彼と謁見していた。

 

(もしかして、親子か?)


 国の密書に静かに目を通すタタリの顔を見つめながら、ウォレスは思った。

 自分の後ろで微動だにしない人形のように座るタタラと見比べ、黒髪や無機質な目、顔立ちなど見れば見るほどよく似ている。

 二人は親子であると、直ぐにウォレスは察した。


「似てるだろ?この親子」


 その言葉に、ウォレスはドキッとして振り返った。

 タタラとは反対側に座る銀髪の青年・ダイガがニヤッと屈託のない笑顔を浮かべていた。


「分かりやすい顔だなぁ。あんた本当に特殊部隊?」


 と、小馬鹿にしながらダイガが続ける。


(はは、よく言われる)


 ウォレスは苦笑いした。

 ウォレスの務める特殊兵士団は、王城や国を警備する騎士とは異なり、国に対する謀反や謀略の対処や、敵対する諸国の情報収集など危険性の高い任務を遂行する組織である。

 だが、彼は馬鹿正直な男だった。仲間からも「この役職には向かない」と言われるほどであったが、反面その正直さと誠実さが部下に慕われる彼の良さでもあった。


「別にかたくなることないさ」


 ゴホンッ! まるで太鼓のように、腹にまで響くような咳払いをしたのはタタリの脇に鎮座するリドウだった。

 「静かにせいッ!」と目で訴えるリドウに、ダイガはおしゃべりが過ぎたと肩をすくめたが、そのおどける態度には反省の色が一切見えなかった。

 やがて、密書を読み終えたタタリが静かに顔を上げた。


「つまり国は……我々に力を貸せと?」


 ウォレスに問うタタリの無機質な瞳は、若干厳しさを帯びていた。


「ハッ。国王様はぜひともあなた方の力を貸して欲しいとお望みであります」


「断る」


 礼儀正しく頭を下げながら答えたウォレスに、タタリは冷たく即答した。

 タタラと同じように表情筋は一切動かない無表情だが、その声には鬼狩り一族を束ねる者としての威厳と重さが伝わってくる。

 「そんな、しかし……」と、食い下がろうとするウォレスだが、タタリの鋭い瞳に睨まれ口をつぐんだ。


 密書にはこう記されていた。

 レオネル王国は今、敵対国であるエスパイア帝国と一触即発の事態に陥っている。

 かつてレオネル王国とエスパイア帝国以外に、レヴェイン連邦国と合わせて、大陸は三つの陣営に分かれ、長年均衡状態が続いていた。

 しかし近年、レヴェイン連邦国は同盟国同士の諍いにより大きく力が削がれてしまったことにより、長年続いた均衡が崩れた。

 それによって、諸外国は領土確保に乗り出したことにより、大陸はやがて領土争いを戦争へと発展させていくことになる。

 その波の中心が、レオネル王国とエスパイア帝国である。もし戦となれば、その戦争は何百年と続く長い戦乱の世へと世界を巻き込み、やがてどちらの国も共倒れとなるだろう。


「我らの相手はあくまで吸血鬼。人間同士の問題に力を貸すつもりは毛頭ない」


 ウォレスもそのことは十分にわかっていた。しかし、部下を失いながらもこんな秘境の地にまでやってきて、ただで帰るわけにはいかない。

 鬼狩り一族に協力の約束を取り付けることが、ウォレスの重大な使命なのだ。

 ウォレスが次の言葉を探していると、タタリがスッと立ち上がり踵を返した。


「お、お待ちください!」


「まだなにか……?」


 背を向けたままのタタリに、ウォレスが続ける。


「確かに、タタリ殿のおっしゃる通り。そちらにはそちらの通りがあるのはご存知しております。 人同士の醜い争いは止まることを知りません。あなた方を戦争の駒として取り込もうとしたのは、一度や二度ではないのも存じております」


「そこまで理解しているのなら……」


 タタリの声のトーンはさらに重くなる。

 まるで精神の鉛を落とされたように体が重くなったウォレスだが、語気を強めて言葉を続けた。


「その戦に吸血鬼が関係しているとしても、ですか……?」


 その言葉にタタリは振り返った。

 いや、タタリだけではない。リドウもダイガもタタラも、ウォレスの意外な言葉に吸い寄せられられた。

 タタリは仮面にヒビが割れたかのように無表情が歪む。それはリドウも同じで、目を見開いていた。

 悠々とした態度を取っていたダイガもこればかりは真剣な表情になり、タタラも顔をウォレスの方へ向けていた。


「吸血鬼?……それはどういう意味でしょう?」


 先ほどとはうって変わり、タタリが真剣な面持ちウォレスを見つめている。

 ようやく掴んだ尻尾を離さぬよう、ウォレスが言葉を続けようとした、その時。

 控えの間のドアが勢いよく開かれた。


「長ッ!大変です!」


「なにごとだ!今、客人の前であるぞッ」


 ドアを開いて現れた鬼狩りに、リドウが詰め寄った。

 真正面から放たれるリドウの覇気に、入ってきた鬼狩りは一瞬声が喉から引っ込んだが、それでもなんとか報告を告げた。


「先ほど、タタラ様が回収した吸血鬼の死体が突然、暴れ出したのですッ!」


 この場にいる誰もが驚愕に包まれた。

 その中でも最も表情に変化があったのは、山嵐を回収したタタラだった。

 目を見開き、明らかに動揺しているように見える。


「まさか……」


「なにか、知っているようですね」


 確信したように顔を俯かせるウォレスを見て、タタリは何かを察した。そして直ぐに行動に移る。


「場所を教えろ。 ウォレス殿、あなたもご同行願いたい」


「ッ、はい!」


 報告に来た鬼狩りに案内され、タタリたちは急いで現場へと向かった。

 案内されて向かった先は、武器や斬鬼刀を作る工房の山。だがそこはもう、工房と呼べるものではなくなっていた。

 いたるところに針が突き刺さり、多くの鍛冶師と鬼狩りの戦士数名が血を流し、地面に倒れ伏していた。


「怪我人の救助と手当てを!」


 タタリは迅速な対応を、集まった部下たちに伝えて、崩壊した工房の中を進んでいく。


「爺ちゃんッ、しっかりしてくれよ!」


 奥から叫び声が聞こえてきた。

 急いで駆けつけてみると、血だらけで倒れているレッテツと、それに必死に呼びかける少年の姿があった。

 炉の炎によって焼けた褐色の肌。そして赤みがかかった黒髪が炎のように揺れている。

 レッテツの孫で、鍛冶師見習いの“コウテツ”だ。

 コウテツは、タタリたちの存在に気付くと、泣きながらすがりついてきた。


「長、助けてください!爺ちゃんが、爺ちゃんが……!」


「わかってる。落ち着け」


 タタリはコウテツの両肩を掴んで落ち着かせた。

 先ほどまでウォレスに向けていた冷たい無表情が嘘のようである。


「救護班、こっちも急いでくれ!」


「待……て」


 その時、意識を取り戻したレッテツがタタリの腕を掴んだ。

 頭にできた大きな傷から血を流し、息も絶え絶えで今にも死にそうな姿だ。


「爺ちゃんッ!」


 意識が戻ったレッテツに、コウテツは思いのまま抱きついた。

 レッテツはゴツゴツの手で、泣きじゃくる孫の頭をそっと撫でてタタリと向き合う。


「俺の、せい……?」


 レッテツの無残な姿を見て、タタラが震える声で近く。

 山嵐を仕留めそこね、そのまま回収してこの自体を招いてしまったのか。

 タタラの不安を、レッテツは「違げぇよ、バカ」と痩せ我慢の引きつった笑みを浮かべて、笑い飛ばした。


「ったく、兄弟揃って面倒くせぇ性格しやがって……仕留め損ねじゃねぇ。何百体の吸血鬼の死体見てきた俺が言うんだ。間違いねぇよ」


 武器を製造する工房は、鬼狩り一族の心臓と言っていい。回収した吸血鬼の状態は細心の注意が施され、今までに仕留め損ねの前例はなかった。

 安心させるように悪態を吐くレッテツだが、タタラの心はやはり落ち着かない。


「突然、奴の体が動き出したんだ。そんで暴れて……首を取り付けて……こんなことは初めてだ。あの吸血鬼は明らかに、なにかが違う……ッ、ゴホッ!」


 痛みが巻き返し、レッテツは血を吐いた。


「爺ちゃんッ!」


「ッ……気お、つけろ!」


「分かりました、ありがとうございます」


 タタリは、最後まで話してくれたレッテツに感謝を込めて礼を言った。

 再び気を失ったレッテツが救護班に運ばれて行き、一通りの作業を終えたタタリたちは、改めてウォレスと向き合う。


「では……これは、どういうことでしょう?ご説明、いただけますでしょうか」


 タタリの瞳は怒り、殺意、敵意、疑惑のそれら全てが混ぜ合わさった色を向け、不気味なほど静かにウォレスへ詰め寄った。

 ウォレスは一呼吸置いて答えた。


「………改造、吸血鬼」


 それを聞いた誰もに、衝撃が走った。


「まさか、吸血鬼を捕らえて軍事利用しようと?」


 それは正に今まで不可侵を結んできた人間たちの、鬼狩り一族への究極の裏切りに等しい。

 

「違う……我々もその存在を知ったのはごく最近のことだッ!」


 苦痛の表情を浮かべ、ウォレスは首を振る。

 どうやら、“改造吸血鬼”は国自体が決めたことではないようだった。


「国はおそらく、戦争を望む過激派か……クーデターを狙うテロリストか……その改造吸血鬼を止めるため、あなた方に力を貸して欲しいと」


「そういうことか……」


 つまり、全て敵側の計算通りだったというわけだ。

 吸血鬼を扱う輩だ。鬼狩り一族の存在が邪魔なのは想像に難くない。

 一族に協力を申し出たウォレスたちを殺害したのなら良し。だがもし失敗したとしても、必然的に送られる里の要である工房を破壊できるのならなおも良し。

 このような事態を招いてしまったウォレスは、罪悪感のあまり地面に頭を擦り付けた。


「本当に申し訳ありません!謝って済む問題ではないのは承知しております!しかし、しかし……ッ!」


「頭をお上げください」


 タタリは冷静に対応した。

 今謝っても、後悔してもなんの解決にもならない。

 それはもう、分かっているはずだ。


(それに……この事態はそれだけではない)


 タタリは直ぐに察しがついた。

 吸血鬼を扱うにしても、その対処法も考えなければならない。このような作戦を思いつくのだ、相手も無知でバカではないのは分かる。

 吸血鬼を捕らえる方法、要である斬鬼刀製造の破壊……それを知り尽くしていなければ不可能だ。不可侵条約により、それらの情報が国に知られることはない。

 それはつまり、ある一つの事実を指していた。


(裏切り者がいる)


 タタリは一旦頭を落ち着かせるために大きく息を吐いた。

 事態は急を要する。直ぐに対処と計画を練るために、会議を開こうとした。

 が、タタリの前におどおどしく救護班が現れた。ビクビクと震える彼の姿を見て、まだなにかあったらしいことは分かった。


「あの大変、お伝えにくいのですが……」


「構わない、申せ」


「タナリ様が……吸血鬼に、攫われました」


 ピキリッ タタリの中で、なにかが切れた。

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