オオカミと七匹の子ヤギ (もう一つの昔話25)
七匹の子ヤギたちが、お母さんに見守られて幸せに暮らしておりました。
ある日。
お母さんは外に出かけることになりました。
「オオカミには気をつけるのよ」
「はーい」
お母さんを見送ったあと、子ヤギたちは玄関のドアにしっかりカギをかけました。
子ヤギたちが留守番をしていると、トントンとドアをたたく音がします。
「開けておくれ、お母さんだよ」
「お母さんは、そんなガラガラ声じゃないよ」
オオカミは子ヤギたちに見破られてしまいました。
そこで薬屋に行き、声がきれいになるというチョークを食べました。
「開けておくれ、お母さんだよ」
「あっ、お母さんの声だ」
子ヤギたちは玄関にかけ寄りましたが、ドアのすき間から見える足がまっ黒です。
「お母さんは、そんな黒い足じゃないよ」
オオカミは今度はパン屋に行くと、小麦粉をふりかけて足を白くしました。
「開けておくれ、お母さんだよ」
お母さんの声です。
ドアのすき間から見える足もまっ白です。
「お母さん、お帰りなさい」
子ヤギたちはドアを開けてしまいました。
オオカミが飛び込んできます。
子ヤギたちはそれぞれ、机、ベッド、ストーブ、戸だな、洋服ダンス、洗濯おけ、柱時計の中へとあわてて逃げこみました。
「みんな探し出して食ってやる」
オオカミは次から次に子ヤギたちを見つけ、大きな口でパクリパクリと飲みこんでいきました。
家に帰ったお母さんは、めちゃくちゃに荒らされた家の中を見てびっくり。
すぐに子供たちの名前を呼びました。
「お母さん、ここだよ」
末っ子の声がしました。
柱時計に隠れた末っ子だけが無事だったのです。
お母さんは野原へ行きました。
すると木の下で、オオカミが気持ちよさそうに眠っていました。そのおなかは大きくふくれており、しかもなにやらモコモコと動いています。
お母さんはハサミで、オオカミのおなかを切り開きました。
「まあ!」
お母さんはびっくりしました。
オオカミのおなかから出てきたのは、なんと子ジカだったのです。
その子ジカのおなかも大きくふくれており、しかもなにやらモコモコと動いています。
お母さんは小ジカのおなかを切り開きました。
すると、また子ジカが出てきました。
「こりゃ、またシカだよ」
その子ジカのおなかもモコモコと動いています。
お母さんがその子ジカのおなかを切り開くと、またしても子ジカが出てきました。
「またこりゃ、シカだ」
またしてもシカ。
「また、こりゃシカ」
シカからシカが出てきます。
「また、コリャーシカ」
次もシカ。
「マタ、コリャーシカ」
次もシカ。
何度シカの腹を切っても、その中からまたひとまわり小さなシカが出てきます。
お母さんは悲しそうにつぶやきました。
「マトリョーシカ」