愛宕山に行こう
日下部良介さまの「笑ホラ2017」参加作品。
「愛宕山に登る」と言い出したのは、奈津美だった。
「火廼要慎」のお札を、そう言えばもう何年も取り替えていないなどと言い出したのは、お祖父様で。それは、何年か前の「千日参り」の日にそのお祖父様が頂いて来たものなのだと。
「愛宕山の千日参り」とは、7/31夜から8/1朝にかけてお詣りをすると千日は無事に過ごせるというものだ。残念ながら、その期間は過ぎてしまっているので、お盆休みに行くつもりだと。
「京都のお盆って言えば、大文字焼きだよね」
そう言い出したのは、茉莉花。ちょっと、違う。
「送り火ね。五山の」
京都では、有名な行事だ。8/16の夜に、五つの山に浮かび上がる、火の文字(あるいは記号)。お盆に帰って来た先祖の霊を送る、厳粛な炎の宴。「回転焼き」みたいな呼び方をされるのは、心外である。でも、言い直された事に気にしないのが茉莉花の良い所で。
「そう。それ、一度見たかったんだ。真由ちゃん、お盆は帰省するんでしょ? だったら、連れて行ってよ。その、愛宕山と大文字」
そんなわけで、私たちはよりによってお盆に、京都観光をする事になったのだ。
愛宕山には、阪急電車の嵐山駅からバスに乗って登山道まで行くのが多分、行きやすい。(というか、その方法しか知らない)
そんなわけで、8/14の朝の8時頃にバスに乗り込む。
そういえば、お盆だったと改めて思ったのは「化野」と呼ばれる場所に来た時。『野』とつく地名って、大抵は大昔に風葬・鳥葬が行われていた場所らしい。「化野念仏寺」は、とても素敵な心霊スポットだったりする。ただでさえ、ゾクゾクが止まらないというのに。
そして、
「え? なに、これ」
茉莉花が騒ぎ出したのは「清滝トンネル」。黙れと、言いたい。何か、連れて来たらどうするつもりかと。
「清滝トンネル」もまた、とても素敵な心霊スポット。一車線の狭いトンネルで、信号があるのだけれども。
着いた時に丁度青だと、霊界に繋がっていると言われていると、後で聞いた。そんな逸話がなくても、普通に怖い。ほの暗いトンネルギリギリの幅を、バスや車が行く。そして、人や自転車も同じ場所を通る。
歩いている人が、本当に生きている人なのかどうかなんか、誰にも解らない。そんな場所だ。よりによって、お盆に来たい所では、決してない。
「大丈夫ですよ」
くすっと笑って告げたのは、同乗していた、知らない誰か。
「人間だったら、ちゃんと影がありますからね」
しまった。愛宕さんにたどり着く前に、終ってしまった(苦笑)
しかも、笑い方が少し違う!(自爆)